3章 department編

僕はノーと言える男

「それで例のものは?」


「はい。事前の情報通り今度のイベントで出てくるようです」


「そうか。では手筈通りに進めてくれ」


「承知いたしました。ベルフ様」


 宝石のみが輝きを放っている暗き部屋の中、高級な服を着た赤髪の優男、ベルフが騎士の服装をした膝をついている男に命令をする。


「ふっ、この作戦が成功すればシルヴィとの婚約はもうどうでもいい。こんなさびれた宝石商に収まらずPTBの幹部、ゾディアックになれる。そうすれば私は……」


 怪しく笑うベルフだがその顔は端正のため艶めかしく見える。


「それともう一つ報告が。ガージスがやられたようです」


「ほう、リビルに次いで奴もか。いったい誰にやられたんだい?」


 ベルフは新情報に爪を研いでいる手を止める。組んでいた足を逆に組み替えて興味深めに問いただす。


「カラスという謎の男のようです。話によれば黒い衣装をまとっているようで」


「カラス? 知らないな。まぁいい。いや、逆に都合がいい。これでアリエス派の主力が二人減った。アマリス王国は彼女らの縄張りだからね。多少派手に動いても咎める余裕もないだろう。カラスとやらには感謝しなければね」


 ベルフは予想以上に自分たちに都合のいい展開に我慢ができず身体を震わせる。


「とりあえず作戦の手筈を。ついでで構わないからカラスという男の素性を洗っておいてくれ」


「承知しました」


 騎士の男はベルフに一礼すると部屋から出ていった。


「さて、アリエス様はどう動くのでしょうか。数年前にも主力の一人がやられてその空席を補充するのにも手を焼いていたというのに。そういえばその時も黒い衣装を着た男だったね。もしかして。いや、憶測はだめだね。今は作戦に集中しなければ」


 そういうとベルフは爪とぎを再開した。










「(という感じでイベントがかぶっているようだぞ)」


「(三大宝石のベガか。コレクションに加えたいが今回は神が最優先だ。ベガはまた今度にしよう)」


 今週末に控えたマルイデパートで行われるシュバルツのイベントと宝石展がブッキングしたようだ。宝石展の目玉は三大宝石のベガ。星のような輝きととんでもないパワーを持っているといわれる宝石だ。滅多にお目にかからない物だがそれ以上に神と会わねばならない。


「おい、ジーノ聞いているか」


「大丈夫か」


「ん、ああ。聞いてるよ」


 バッカにどんどんと背中をたたかれ意識をクロとの念話から現実に戻す。


 連休を開け、モディシュでの騒動が何だったのかと思うほどいつも通りの学園生活を過ごしていた。


「それでさ、今度開かれる学園対抗の剣舞祭にバッカと一緒に出ることにしたんだ」


「え、おでと?」


「いや、さっき一緒に参加表明書にサインしただろ」


 剣舞祭。アマリス王国にあるすべての学園が参加可能の剣の大会だ。当然在校生全員に参加権はあるが二人組でのみ参加可能だ。


 それに他校と対戦するのは本選から。学園内での予選で勝ち残ったチームで対戦し優勝者を決める。


 優勝すれば当然その世代最強を名乗れるわけだ。ほかには顔が利くようになるとか? 知らんけど。


「ジーノには悪いが今回は俺の将来がかかってるからな」


「なんで?」


「ここで優勝できれば女の子が押し寄せてくるに違いない。これで学生生活はバラ色だ!!」


「優勝したらなんかうまいもんでも食えるのか?」


「チャーハン食い放題になるんじゃね。知らんけど」


「ほんとか!?」


 この二人が組んでしまうとなると僕は組む人はいない。というわけで不参加だ。観覧席から楽しむとしよう。


「ジーノ君。今、時間空いてる?」


 三人で話していると黒いパーカーを着た白い髪に赤い一筋のメッシュが入った女性が背後に立っていた。


「じ、ジーノそのかわいい子ちゃんは?」


「知らん」


「スカウトか?」


「絶対にないだろ。ジーノの顔なんて平凡中の平凡だろ。あったとしてもそれは詐欺だ」


 本当に知らない。特段変なことをした記憶はないのだがなんだろうか。面倒な予感がする。


「それで時間は空いてるの、空いてないの」


「空いてるけど」


 三人でこそこそと話していると再び問いかけられる。彼女の瞳はつり目なため目が合うだけで怖い印象を抱かせる。


「じゃあついてきて」


「気をつけろジーノ!! これはぼったくりバーへのいざないだ。ここは俺が食い止める。お前達は先に行けっ!」


「よしバッカ、チャーハン食べに行こう」


「おう」


 ヨックの覚悟に免じて僕たちは踵を返し再び歩を進める。振り向いてから五歩ぐらい歩いた時に足元にヨックが倒れてきた。十秒も持ってないぞ。


「ついてきて」


 さもないとお前もそこに伸びてるやつになるぞ。言葉にしてなくても幻聴が聞こえる。しかし、ここで放つ言葉は決めている。


「だが断る」


「……エリス王女が呼んでいるといっても?」


「もっと断る!」


 絶対面倒なことに巻き込まれる。一度目より強めに拒否する。


「はあ、そう。こういうのあまり好きじゃないんだけど」


 その言葉と同時に首に衝撃が走る。恐ろしく速い手刀、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。


 なんともない一撃。だが今の僕はアルティメット・ヘイボン状態。すなわち気絶する(演技)。……なんかこういうことばっかだな。


 バッカのどういう状況かわかっていない腑抜けた声を背にそのまま僕の体はどこかに連れていかれたのだった。

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