さぁ、ファッションショーの始まりだ!!

 夜が明け、朝雲雀の鳴く頃。僕は部屋に差し込む光で朝が来たことを感じ取った。


 宝石の加工に没頭していたので徹夜をしてしまった。


 まぁ、二週間ぐらい飲まず食わず寝ずでも大丈夫だけど。(※彼は特殊訓練をしています。よい子は絶対にマネしないでね♡)


 成果としてはぼちぼちだ。形はあれに似ていたが輝きが違う。素材の問題もあるだろうが、技術の面のほうが大きいだろう。


 しかしこうもずっとこもってやっていると気が滅入る。ちょうど今日はいい天気だから少し気晴らしに散歩しようと街へと繰り出していた。


 早朝の街は静かだ。しばしば店の準備やらで忙しくしている人はいれど騒いでいる人はいない。


 スラムにいたときはこのぐらいの時期なら騒いでいる奴らはぼちぼちいた。王都も朝から騒がしいときはあった。ここまで静かだと少しムズムズする。


 しばらく歩き回ると徐々に日が昇り、人の声が増えて街に活気付いてきた。


 宝石店も開いたのでついでに見回ることにした。この街の店は見栄えを気にしているだけあってレベルが高い。王都でもお目にかからない宝石も少なくない。


 おっ、アイオライトまたの名をダイクロアイト、ウォーターサファイア、菫青石のペンダントだ。この国では珍しい。買っとこう。


 まあまあ値が張ったがいい買い物ができた。


 その名の通り青みを帯びた菫色。深い海底を表しているようだ。そして見る角度を変えると澄んだ水のような輝き。まさに水というものを体現した宝石。


 いつかこれをつけて船旅もしてみたいものだ。


「じ、ジーノ君」


「ん?」


 ご機嫌な鼻歌を歌いながら宿に帰って作業を再開しようと思ったところ、広場のところでロサに呼び止められた。


「よ、予定より少し早いね」


 予定? 何のことだ?


「そ、それで。今日の服どうかな」


 もじもじしているロサを見る。


 ロサの服装は赤褐色のトップスに花柄のスカートでセンスの良さを感じた。


「似合ってると思うよ」


「そ、そう。よかったぁ~」


 そういえば髪飾り作りに夢中で僕自身のファッションのことを忘れていた。


 ちょうどいい。ロサに僕の服を選んでもらおう。


「ロサ。君のファッションセンスを見越してお願いがあるんだ。僕をコーディネートしてくれないかな?」


「え、え? えーーーーー!?」


「え、え? え??」


 ロサの驚いた声に僕の後から出た驚いた声も搔き消された。そんなに驚くことだろうか?


「い、いいの!? 私で?」

「ん? いいよ」


 今の僕の無地の白いシャツに黒いズボンというどこにでもある服装だ。明らかにロサは僕より圧倒的におしゃれだ。


 才能がある奴は自分では気づきにくいってことだろう。


「とりあえず行こうか」


「はい」


 元気な返事と共に僕たちは歩き出した。





 ロサは衣料品店であれだこれだと僕の服を選んでいる。この街で一番と噂の貴族も御用達の店だそうだ。


 普段利用している店はこんなおしゃれではなく小太りなおじさんが一人で切り盛りしている古着屋だ。


 服にお金をかけたくないので安く、無難なものを選んだ結果がこの服装だ。


 ちなみにほかの服も制服を除くとほぼこの服装だ。ヨックとバッカには同じ服を使いまわしているのか、といわれたほどだ。


「お客様、本日はどのようなものをお求めでしょう?」


 見目麗しい女性店員さんに話しかけられる。こんなことに慣れていないのでどう答えればいいのだろうかわからない。


「大丈夫です。私が見繕いますので」


 ロサが後ろから腕に抱きつきながら代わりに応対してくれる。頼もしい。


「わかりました。では、ごゆっくりどうぞ」


 店員さんはウィンクをして去っていく。この街ではウィンクして去るのがトレンドなのだろうか?


 ロサの顔が赤いような気がするが、まあいいや。


「それで決まった?」


「うーん。候補が多すぎてね。実際に試着してみてほしいんだ」


 さっさと決めてほしいんだがファッション初心者が口をはさむわけにはならない。おとなしく従おう。


 試着室に入ると体全体を映すほど大きい鏡に驚きつつ渡された服を試着する。


 白い服にネクタイを締め、黒い上着を着たしっかりとした印象の執事服。シルクハットに裾に余裕があり杖を突いた紳士の様相。


 黄色をメインとして手足を赤と白で覆い、赤いかつらをかぶった道化師のような服装の左胸のMのマークはなんなんだろう?


 という感じで様々な服を試着した結果、白いシャツに黒いズボン、赤い上着の見た目が高位の騎士の印象のものに決まった。


 悪を自称する僕が正義の象徴である騎士の服装とはと思うが信念もくそもない僕は気にしない。


「うん。これでいいな」


「かっこいい」


 これなら神の前に出ても恥をかくこともかかせることもないだろう。汚れてはいけないと元の服に着替えようと試着室のカーテンを閉めようとしたところロサに止められる。


「せ、せっかくだからこのまま服を着たまま歩こうよ。ほら、実際歩いてみて着心地を確かめるといいと思うよ」


 一理ある。目立つ服装でできるだけ歩き回りたくないが神の前で躓いて転んだとなればすべてが水の泡だ。


 このままの服装で会計をして、元の服を袋に入れて店を出た。古着の服の十数倍の値段がした。この二日で結構の出費だ。……節約しなきゃ。

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