輝き

「ふんふふ~ん」


 事務所を出て、加工前の宝石を買ってきた。練習のため安めのものであるが量があるとそれなりの値段になった。


 早く宿に泊まって削りたい。はやる気持ちにに応えるように早歩きで宿を探していると建物の空いている扉から踊り子が踊っている少女を見かけた。


 ロサと比べて見劣りするもののその演技は目を見張るものがあった。しかし、客は少ない。少し幼児体系ではあるのも影響しているのだろう。


 カーストが大きい業界なのだろう。そんなことを思い、よそ見気味に歩き出すと石に躓く。そして、手に持っていた宝石の一つが飛んで行った。よりにもよってその少女の足元へ。


 演技の途中に取りに行くのも目立って嫌だし、終わるまで待つというのも面倒だ。


 僕は泣く泣く宝石をあきらめて何事もなかったかのようにその場を後にしたのだった。






「ふんふふ~ん」


「どうしたの? ロサ。なんか楽しそうにしていたけど」


「え? あ、ミルスさん! お、おかえりなさい」


 ここはシャラが貸している家。豪華とは言えないが清潔感が感じられる部屋でロサとロサの先輩であるミルスはルームシェアをしている。


 リビングの白いソファの上、クッションを抱きしめ鼻歌を歌いながらにへぇ~と顔を崩しているロサに仕事帰りのミルスは話しかけると慌てたようにロサは返事する。


「ただいま。それで。何があったのかな」


「い、いや。何もなかったよ」


「ロサってわかりやすいよね~。嘘つくとき目がよそを向くもの」


「ム~~」


「何年一緒にいると思ってるのよ」


 むくれている顔もかわいい、そう思いながらミルスは微笑む。追い詰められたロサは逃れられないと察し、しぶしぶ話始める。


「今日ね、怖い獣人たちに囲まれたとき男の子が助けてくれたんだ。そ、それで~」


「それでそれで?」


 急かされたロサはことのあらましを話した。


 ピンチに駆けつけてきた黒髪の少年。平凡な見た目と雰囲気の少年。その少年に一目ぼれしたことを。


「少し不格好だったけど私を懸命に助ける姿はとてもかっこよかった。しかも、デートの約束もして」


 乙女の顔でジーノのことを語るロサにあたたかい目でミルスは見守る。


「ふふふ。ロサにもようやく春が来たのね~」


「からかわないでください。……て、その石みたいなの何ですか?」


 ロサはミルスが持っていた少し大き目な石に視線を移す。


「これ? これは営業中に突然転がってきたのよ。どこのだれかのものは知らないけど、何とかという宝石の原石ですって。自分のですっていう人もいなかったから恥ずかしがりな人からの贈り物かと思って持って帰ったのよ」


「へぇ~。ミルス先輩も隅に置けないですね」


「当たり前でしょ! こんなに魅力的な女、ほっとく人間なんていないでしょ」


「そうですね……」


 ロサはミルスの貧相な胸に一瞬だけ視線を移した後、すぐに顔に戻す。


「何か一瞬失礼なことを考えてなかった?」


「な、そんなことないですよ~」


 少し力ない声で顔を背けてロサは返事をする。それを訝しむ目でミルスは顔を追う。


「ふ~ん。まぁいいや。で、そのジーノ君? とのデートはいつなの」


「……明日」


「明日!? なら今から準備しないと! 服はこれかな。いやあれもいいかな。あー、ロサはスタイル良いから何でもに合っちゃうから迷うわー」


「自分でできるよ、って話を」


「この街はいいわ。いろいろな服が手に入るからコーディネーションの幅が広がる。前のところはひどかったからね」


「そういえばミルス先輩はスラム街……すいません。馬鹿にするつもりは」


「いいのよ。確かにつらい過去だったけどそのおかげでロサに会えたんだから。そんなことよりほらこの服とか」


 自分のことのようにはしゃいでいるミルスの勢いに押されたロサは着せ替え人形のごとく何着も着させられたり、髪型をいじられたのだった。

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