現実は漫画より奇なり
あれから三年たち僕たちは十六歳、成人になった。
ハロル、ルキス、マシャ、そして僕はアマリスブレイド学園に無事入学できた。全員同じクラスとなったが僕と三人はあまり関わらない関係性となっていた。
理想の展開だ。主人公一行に組み込まれると動きが制限されるかもだからな。
目立ちたくない僕は良すぎず悪すぎず、平凡の男子生徒としてここ三か月を過ごしたのだ。
過ごしていたはずなんだが。
「ジーノ、今からチャーハン食いに行こう」
「いや、ジーノはこれから俺とナンパに行くんだ!!」
よくわからん奴らになつかれた。別に誰かと絡むのは嫌ではないんだがキャラが濃いんだよな。
緑髪のマッシュヘアで長身長のチャーシュー麺食いに行こうというやつはバッカだ。まっすぐな性格だが少し知能が残念だ。
青髪のツンツンヘアーの低身長のナンパ野郎はヨックボー、通称ヨックだ。脳みそが股間に支配されている奴だ。だが、本質は小心者で一人だとナンパとかはできない。
「チャーハン食いに行こうか」
放課後で騒がしい中、学園近くにある中華屋へと向かう。
「おっ」
校門へ通りかかったときとある現場を目撃した。
「あぁ~、美しき君。その輝かしい御身にとらわれた私はもうあなたしか見えてません。だから私とお付き合いを」
「そんな光に集ってくる虫みたいな人と付き合うつもりはないわ」
えっぐい断り方してる。
膝をついて告白しているイケメンを振った女性はこの国の第二王女シルヴィ・アマリスだ。銀色にきらめく髪は腰まで流れ、キリっとした青い瞳は凛々しさが感じさせる我らが一年のマドンナ。
頭脳明晰、容姿端麗、剣術もよしとモテモテ要素しかない。
二年上に彼女の姉エリス・アマリス第一王女がいるのだがお姉さんは足が悪いそうで、車いすで移動している。
話がそれたがこの告白→ごめんなさいという流れは学園に来るたびに見かけるほどになっている。
休みの日にも告白されてるのだとしたら学園に入学してから三か月で百回以上は断っているんじゃないだろうか。
「それにしても本当に人気だね、王女様」
「あの容姿では仕方がないだろうな」
バッカと僕との会話の中で一言も話さず息をしているのかすら分からない人物が一人。
「どうした? ヨック」
「いつものことだね。気にする必要はないよ」
そう、ヨックは王女に一目ぼれをしているのだ。姿を見るたびにこのように立ち止まって黙るのだ。
「そうか、面倒くさいな。告白すれば」
「へ? は!?」
同感、いつものことではあるのだが毎回こうも硬直されるのも面倒だな。少し残酷だが粗治療といこう。僕も楽しめそうだからな。
「そうだね。そろそろ腹を決めようよ」
「ジーノも! で、でも俺じゃあ」
「僕たちもサポートするし。ね、バッカ」
「友達が困ってるなら助けるだろ」
バッカは馬鹿だが友達思いのいい奴だ。
「で? 何をサポートするって?」
馬鹿だけど。
「お、お前ら」
ヨックに泣きつかれるが男にされても嬉しくない。
僕たちは行きつけの中華料理店で作戦会議を企てるのであった。
白いタキシード、赤いバラ、桜の木の下(今は緑に染まっているが)、放課後。
漫画の知識をもとに作り出したこの状況。これで失敗するのはありえないといえるこのシチュエーション。そこへ鮮やかな銀色の髪を靡かせシルヴィがやってくる。
ヨックは明らかに緊張している面持ちでシルヴィの一挙手一投足を見つめている。
僕とバッカは少し離れた草むらの陰から覗いている。
二人は定位置につく。あとは練習したセリフをぶちかますだけだ!!
「し、シルヴィ王女!」
練習したのに初手で躓く。期待を裏切らない。
「お、おおおおおお俺と付き合ってください!!」
膝をつき、装備していた赤いバラを差し出す。
シンプルイズベスト。これまで粉砕してきた奴らはいろいろとまどろっこしい言葉を並べていたからな。それをあえて削ってみた。この一手!! どうだ。
「ごめんなさい」
「様式美だね」
「ごめんなさいってことは振られたってことか?」
普通に振られた。
まぁ、実際に見たらあの格好、告白じゃなくてプロポーズだな。普通の学生服でよかった。
ヨックは固まったままでシルヴィは気にすることなく去っていく。
草陰から僕たちは出てヨックに近づく。予想通りではあったがさすがにかわいそうだ。無言でヨックの肩に手を置く。
「なぁ、本当に振られたのか?」
ヨックは血反吐を吐いた。
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