見てなかった。見てなかった、かぁ~

 買い物の帰り道、僕たちは何者かに襲われ意識を失った。


「ここは?」


 気づいたときには薄暗い牢屋に四人捕らえられていた。僕が一番に目覚めたようだ。少しして、ルキスとマシャも意識を取り戻したようだ。


「牢屋? 牢屋! なんでこんなところに!?」


 マシャが自分の置かれている状況を理解して激しく取り乱して叫ぶ。


「うるさい! 静かにしろ!」


 男の怒鳴る声が牢屋の中を駆け巡る。その声に僕とマシャは体を縮こませた。


「俺たちをどうするつもりだ!!」


 そんな中、ルキスは臆することなく言い返す。その声に怯えても状況を変えられない、僕もしっかりしなくちゃと思う。ほんと、ルキスにはいつも助けられてばっかだな。


 この言い合いで目が覚めたのかジーノも起き上がる。


「ここは?」


「どこかに捕らえられたようだ。これからは静かに話そう。また怒鳴られたら面倒だ」


 ジーノを怖がらせないようにやさしく丁寧な声を心掛けた。


 ジーノは普段静かでマイペースなやつだ。こんな状況においてもいつもと変わらない態度なのは大物なのだろうか。


 とはいえ暴れまわるよりはよっぽどいい。


 そして、手足を縛るロープ。これをどうにかしなければ何もできない。ソウルを込めようにもうまくいかない。


「ふん……あ、切れた」


 苦悩してる中、ジーノはロープを千切る。おモッキリ力を入れたら切れたという。僕たちもその助言通りロープを千切る。


 運がいい。結び方が甘かったんだろう。だが、一難去ってまた一難。次は牢屋だ。


 ソウルが戻ってもこれを壊す力なんてない。くそ、なんでこんなに僕は弱いんだ。


 すると、突然牢屋の鉄格子が崩れ、大きな音を立てる。鉄格子の切れ目から見るに剣で切られたように見えるが気のせいか。


 何が起こったのか考えているうちに外にいたであろう見張りが入ってくるのに反応が遅れた。


「やあああああああ」


 入ってきた兵士に向かってジーノが突撃した。ほかが動けない状況できちんとやるべきことがわかっているジーノの判断に感心すると同時に頭がクリアになる。


 見張りを気絶させたジーノがもう一人いた見張りに蹴飛ばされる。


「ジーノ!!」


 ジーノがやられて一瞬頭に血が上りそうになったがジーノのように落ち着いて状況を考える。


 ジーノを助けに行きたいが僕たちがやられたら元も子もない。ルキスは、たぶん考えは違うがやることは同じだろう。こいつを倒す、まずそれからだ。


 ルキスとアイコンタクトをし、こいつを倒すのに集中する。


 普段の鍛錬のたまものだろうか、体格が大きい相手にも勝つことができた。


「はぁ~、あんだよ。ガキの見張りもできねぇのかよ」


 ルキスと拳をぶつけ、ジーノを助けに行こうと踏み出そうとした途端、金髪の男が出てきた。


 この男もルキスと共に倒そうと挑む。だがさっきの見張りとは違い実力は圧倒的だった。一瞬で倒された。後ろにいたマシャも巻き込み倒された。


 男には髪を掴まれ持ち上げられた。視界がふらふらになりながらも横目に二人の様子を見る。意識を失って倒れている。


 僕が弱いからだ。僕が弱いから三人を助けられなかった。


 痛みを感じない。


 でもなんで、身体は動かないんだろう。自分の無力さを恨む。


 突如、髪を放され地面に落とされる。


「何者だ。貴様」


 男が向けた視線の先には桎梏を纏ったように見える人物が佇んでいた。その姿を見ると視界がさらに歪みそのまま意識を失った。


 あの人物、漆黒の中に普段の雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。








 あの後、僕は飛ばされた場所ぐったりしていた。


 騎士団が来るか三人のうちどちらかが復活するまで待つことにした。


 結局、爆発に気付いた騎士団が先に来て五人まとめて保護された。


 療養や事件の聴取などで一週間ほどごたごたした。フラナにはバチボコに怒られた。本当に怖かった。


 事件については誘拐されたこと以外は知らぬ存ぜぬで押し通した。三人ともほとんど見ていないようだった。ハロルは黒い服の誰かがいたというところまで意識があったようだがそこで記憶が途切れているらしい。


 あの後のかっこいいシーンを見逃したようだ。解せぬ。


 それにあのPTBのアリエス派のなんたらというやつはまだまだだったな。才能はあれどソウルの扱い方も力押しだけの剣も好みではない。異能もソウルの練度によって威力や効力が変わる。


 ちなみにソウルと異能は関連性はないらしい。僕自身異能を発現できていないから断言はできないがそうらしい。異能とは人が言葉を話すように、烏が空を羽搏くように、猫が夜目が利くようにここに与えられた性能のようなものだ。突発的に発言することもあるようなので、いつかは発現させたいがないものを強請ってもだ。気長に待とう。


 技術を磨けばもっと先へと行けるというのにそれを放棄するとは。剣を持つものとして才能に胡坐をかき、強さを追い求めないものはもったいなく感じる。宝の持ち腐れというものだ。


 宝石も大きければ大きいほどいいが磨かなければ輝きは小さい。できるなら最大の輝きで愛でたいものだ。


 しかし、PTBとはどんなのだろうか。知りたいという好奇心はあるが今後の物語に期待しよう。僕は主人公ではないからね。


 さて、今後の目的だがまずは進学だ。ここ、王都にはアマリスブレイド学園という場所がある。大陸随一の剣大国であるこの国は剣士の質が高い。


 その中で最高峰の剣を教える場所がアマリスブレイド学園だ。国内外問わず剣を学びたい人が入学する。


 孤児院がある場所は王都の中でもさびれた場所だ。栄えている中心部から離れるほどさみしい雰囲気が漂う。


 こことは違い学園は中心に近い場所にある。人も施設も多いそこではもっと面白いことが起こるだろう。


 僕が入学する理由は一つ。ハロルが入学を目指しているからだ。近すぎず、遠すぎない立ち位置に居るには入学するしかない。


 学園を中心とした物語の展開。どんなイベントが起こるのか。PTBという謎の組織の存在。はたまたほかの組織が関わるのか。悪魔や魔王のような圧倒的な存在。


 妄想すればするほど己の心臓を高まらせる。学園に入学できるまで三年とちょっと。僕も、俺も全力に楽しめるように万全にしよう。


 体を鍛えるのもそうだが知識も必要だ。今まで学園なんて見てなかったから教養については疎い。


 金銭面も心配だ。あのスラム街と違って治安はいい。悪党狩りで生計を立てていた僕には死活問題だ。新しい狩場を探さないとな。


 あ~、やることが多いな。一分一秒も無駄にしたくない。


 胸の躍動を沈め、今後に備えて行動を起こしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る