メタリカ・サンライズ
超新星 小石
第1話
プロローグ
どこかの都市の町外れのトンネルに、一台のアメリカン・バイクが止まっていた。
バイクに背中を預けながら、白衣を羽織った長髪の女性が鬼気迫る勢いでノートパソコンのキーボードを叩いている。
白衣の女が咥えてる紙巻きタバコの灰がぽろりと落ちた時、彼女のメガネに「EMERGENCY」という真っ赤な文字が反射した。
「クソ、気づかれた! 逃げるぞ!」
白衣の女はパソコンからケーブルを引き抜くと、そのケーブルは隣に座っていたメイド服の少女の首へと格納された。
「承知しました!」
メイド服の少女はバイクに跨りエンジンをかける。
燃焼されたガソリンが大気を震わせる中、白衣の女は静かに少女を見つめていた。
「どうしたんですか博士! 早く乗ってください! 奴らが来てしまいます!」
「私は……もう無理だ」
白衣の女は脇腹をさすりながら答えた。
彼女の腹に巻かれたくすんだ包帯には、鮮烈な赤色が滲んでいる。
「なにを弱気なことをおっしゃいますか! あなたらしくもない!」
「私らしさ、か。そうだな。私は私らしくありたいと思った。このクソったれな世界にクソを塗りたくってやろうと思った。それが私のロックンロールだと信じていた」
バイクのサイドミラーに無数の赤い光が映り込み、メイド服の少女は舌打ちをした。
「博士! そのお話はあとで聞かせていただきます! とにかく今はこの場を離れなければ!」
「これをお前に託す」
「博士?」
白衣の女はメイド服の少女の胸に一台のノートパソコンを押し付けた。
少女が困惑気味にそれを受け取ると、白衣の女はポケットから拳銃を取り出しスライドを引いた。
「実弾兵器。これもまた私のロックだ」
「博士、まさかあなたは」
「私が囮になる。私の研究はお前が完成させろ」
「ですが、あなたがいなければ……」
「私がいなくても問題はない! まだこの世界には、1パーセントの人類が残っている! お前とその救世主がみんなを導け! そしてこの世界を狂わせたクソったれな神様に中指をぶったててやれ!」
白衣の女はくしゃくしゃのタバコに火をつけ、少女が抱き抱えているノートパソコンを指差した。
「博士……」
「行け! ……私の娘」
「っ!」
メイド服の少女はアクセルを思いっきりひねり、前輪が浮き上がるほどの勢いで走り出す。
サイドミラーに映った白衣はあっという間に遠ざかっていく。
遠く、なにかが爆ぜる音が数発響き、やがて背後で赤い閃光が瞬くと、音は止んだ。
「博士……わたくしは、必ずや成し遂げて見せます……必ずやこの世界に希望の光りを……」
雨が降ってきた。
その雫がメイド服の少女の瞳に当たり、涙のように頬を滑っていった。
彼女は荒れ果てたアスファルトの上を疾走する。崩壊したビル群の隙間を縫って、どこまでも走り続けた。
※ ※ ※
最高の人生とはなにか。
良好な人間関係、日々の学びと成長、充実した趣味、前向きで健康的な精神状態。
そんなだれもが当たり前のように幸せだと感じる要素を自分の人生に盛り込むこと。それこそが最高の人生だ。
いわゆるクオリティ・オブ・ライフ《QOL》。その充実こそ俺の目標であり生き甲斐。
とはいえQOLを極めるのは茨の道だ。
遊びたい。でも勉強もしなくちゃならない。勉強だけじゃない。家事とか人付き合いとか人生には欠かせないものがたくさんある。でも、どれかを優先するとどれかが成り立たない。金も時間も足りやしない。
金のために勉強や仕事を頑張ればパンパンに張り詰めた割れる寸前の風船みたいな人生になってしまう。
かといって趣味や遊びの時間を大事にしすぎると金に困る羽目になる。
将来、恋人や家族ができたら一緒に過ごす時間は絶対に欲しい。
かっこいい車に乗ったり海外旅行に行ってみたい。
誰からも一目置かれるくらいバリバリ働いてみたいし、薄着でジムに行けるくらい体を鍛えたい。
これら全てを叶えるなんて普通はできない。大抵の人は自分ができることだけやって、他は犠牲にして、自分なりに自分を納得させて生きていく。
そして死の間際になって思うのさ。ああ、俺の人生はこんな色だったんだな、ってな。
でも、俺はそんな人生を望んじゃいない。
全部叶えてやりたい。俺が望むこと全部を、俺が満足するレベルで、だ。
そんなことが可能なのかって?
中学二年生の俺が出会った一冊の本にこんな言葉がある。
ライフハックスペシャリスト、遠藤ニコルソン曰くーーーー人生は十人十色だが、一人一色とは限らない。
「それじゃあみんな、ヘッドセットはつけたかー?」
先生の声でハッとした。
先生の説明があまりにも退屈だったから、いつの間にか自分の世界に浸っていたみたいだ。
クラスメイトたちはすでにヘッドセットを頭に被っている。
俺の机の上にも同じものが置かれていた。無骨な鉛色のヘッドセットについてるミラー加工が施されたバイザーに、自分の間抜けな顔が映り込んでいる。
俺は左右が反転した自分と少しだけ見つめ合った後、ヘッドセットをひっくり返して頭に被った。
「いいかよく聞けよぉ。この記憶のバックアップは文科省の依頼だ。もしも記録中に変なこと考えてたらそのままお国に提出されることになるからなぁ」
先生は黒板に書かれた注意事項を叩いて気だるげに言った。
この記憶のバックアップは生徒の学習状況を調べるために必要だそうで、2000年代が五十歳になった頃からこの制度が始まったのだそうだ。
人の記憶を、それも思春期真っ盛りの俺たちの記憶を覗こうだなんて悪趣味極まりない政策だと思う。
一部の生徒は自分の記憶が電子の世界に残り続けることに興奮しているようだが、きっとネットリテラシーが浸透した現代でも、わざわざ炎上するようなデジタルタトゥーを残す輩がいるのは、そういう発想からきているんじゃないだろうか。
ただまぁ、QOL的にはまるで無意味だ。俺の記憶が数百年先まで残ったところで今の俺にはなんの関係もない。
ギブしているだけでテイクがなにもない行為なので、生産性もへったくれもない。
さっさと終わらせて家に帰りたい。
今日は家に帰ったら来年のセンター試験に向けて物理と数学の予習をして、腹筋と胸筋を鍛えて、資産形成のネットミーティングをして、愛猫を撫でくりまわす予定なのだ。
「気分が悪くなったらすぐに手を挙げろ。はいじゃあ、目を瞑れー」
目を瞑ると、ヘッドセットからきゅぅぅん、と小さな電子音が鳴った。
瞼の裏の暗闇に吸い込まれるような感覚がして、ふわふわと浮いているような気分になる。
なんだか気持ちいい。
意識だけが体から抜け出して、まるで雲の上にでもいるみたいだ。
なんとなく揺れている感じもして、それに暖かい。
記憶のバックアップってこんなに心地良いものなのか。
これだけのリラクゼーション効果があるなら俺の評価も改めないといけないな。QOL指数がちょっとだけ上昇した。
でも、いつまで目を瞑っていればいいんだろう。
事前の説明だと大体三十秒くらいでバックアップができるって聞いたんだけどな。
もう一分は経ってると思う。いや、三分くらい経ってるかもしれない。
バックアップ中に目を開けるとヘッドセットから照射されている光で目を焼かれる可能性があるって言ってたし、合図があるまで大人しくしていた方がいいだろう。
…………にしても、長い。
いくらなんでも長すぎる。
ちょっと、先生に聞いてみようかな。
「ごぼぉ」
あれ、おかしいな。
声が出ない。声の代わりになんか、そう、なんかでた。
「ぼごごぉ? ぼごっ!」
なんだこれ、まるで水の中にいるみたいな。
「ーーーーてください」
なんだ。なにか聞こえた。女の人の声だ。
先生は男だったはずなのに、誰なんだこの声は。
「目を、開けてください」
謎の声にしたがって、俺はゆっくりと目を開いた。
視界は緑色のフィルターでもかけられたような色に染まっている。
目の前はひどく歪んでいて、まるで液体の中にいるみたいだ。
みたい、というか、ここ液体の中じゃね?
「ぼごご!? ぼごっ! ぼごごっ!」
わけがわからず叫んでも、口から出るのは泡ばかり。
目の前を気泡が通過して、その向こう側でなにかが動いた。
「ああ、意識があるのですね。ついに、ついに成功したのですね!」
なんだ、こいつは。
自律思考型のロボットだろうか。
白い長方形のボディに細い四つ足が生えていて、その上に流線型のカメラが乗っているロボットが俺を見上げている。
どことなく亀っぽいような、蜘蛛っぽいような、そんな見た目だ。
「お待ちください、すぐに培養液を抜きます」
ロボットの前足の付け根が開いて、二本のアームが伸びていく。
蛇腹状のアームは自由度の高い動きで俺が入っている巨大な試験管の前のコンソールをいじりはじめた。
ぼっこん、という重々しい音が足元から響いて徐々に視界が下がってきた。
同時に視界を覆っていた緑色のフィルター、もとい培養液が排出され、俺は冷たい鉄の床に降り立った。
エアーが抜ける音と共に試験管が上へとせり上がる。
外気が肌に触れてヒヤリとする。
ちょっとまて、ここどこだ。俺は教室にいたはずだ。なのに、なんだここは。
亀裂が走るコンクリートの壁、ところどころかけてしまった床。
蛇のように床を這う無数のケーブル。
薄暗い室内を微かに青く照らす大量のコンピュータ。
どこをどうみても俺がいた教室じゃない。かなり怪しげな研究施設のような感じだ。
「どうかしましたか?」
試験管が開いたにも関わらず立ち尽くしていたことが気になったのか、ロボットが不安げな声で尋ねてきた。
ふと、ロボットに搭載されているカメラが気になりとりあえず股間を隠す。
どこかで誰かが遠隔操作してるかもしれないし。
「ここ、どこだよ。お前は誰で、どうやって俺をここに連れてきたんだ? いったいなにが目的なんだよ! 答えろ!」
話しているうちに徐々に恐怖が込み上げてきて口調が強くなる。
興奮気味に問いただしても。ロボットはカメラのピントを変えたくらいで、少しも動じた様子はない。
「落ち着いてくださいマスター。時間はあまりあるほどあるのです。ゆっくりと、ひとつひとつお答えしましょう」
「マスター? 俺のことをいっているのか?」
「答えはイエスです、マスター。わたくしの名はオルテガ。超優秀清楚系人工知能の最高傑作と名高いマインドフルネスシリーズにおける第八世代機になります。友のように気安く呼び捨てるもよし、嫁のように愛称をつけて愛でるもよし、わたくしたちエーアイはご主人様のいかなる希望要望願望にもお応えいたします」
マインドフルネスってつい最近発表されたばかりの人工知能じゃなかったか。
いや、そうじゃなくてだな。
「人工知能だって? なんで人工知能が俺を誘拐なんてしたんだ!?」
「そう熱くならないでください。まだ体組織が不安定なのですから」
「はぐらかすなよ!」
「……あなた様は連れてこられたのではありません、作られたのです。わたくしの手によって」
オルテガはそういって、二本のアームをカチカチと鳴らした。
「つく……られた? なにをいっているんだ、あんた」
「いまのあなた様の姿をモニタに映します。ご覧ください」
オルテガの背中が開き、一本のコードが伸びて近くにあったコンピュータに接続された。
すると試験管の前に置かれていたコンソールの画面がぱっと切り替わった。
そこに映し出されているのは、素っ裸の色黒の男。かなり引き締まった体つきで肩周りとか腹筋とか筋肉が浮き上がってる。
髪はぼさぼさの白髪。瞳の色は雨上がりの夕陽みたいな橙色だ。
「えっ」
おかしい、どうみても俺じゃない。だけどこの映像は、どう考えてもオルテガが映している俺の姿だ。
自分の体を見下ろしてみる。確かに肌が褐色になっており、未だかつて見たことがないほど腹筋が盛り上がっている。
それに頭を下げた時に白い髪の毛が視界の隅にちらついた。
「おわかりいただけましたか。あなた様はもはや、元の体とは別の体に入っているのです」
「わ、わかんねぇよ! なんだよこれ! どうなってんだ!」
顔を触ってみると、画面の中の褐色美男子も同じ動きをした。
「あなた様は、わたくしが過去のネットからサルベージした誰かの記憶データをもとに作られた存在なのです」
「まてまてまて! なんだそれ? 記憶データのサルベージ!?」
記憶データって、まさか記憶のバックアップのことか。
「イエスです、マスター。おそらくあなた様にはデータ化した直前の記憶しかないのでしょう。ゆえに、まるで一瞬でここに連れてこられたかのような錯覚を覚えてしまったのです」
「な、なんだよそれ……それじゃあ、実際はもっと時間が経ってるみたいな言い方じゃないか……」
「その予想はイエスです、マスター。あなた様の記憶は旧ネットワークのサーバーに保存されていました。保存年月は2124年の五月。現在は3209年の七月ですので、あなた様がいた時代からざっと千年以上が経過しています」
「千……年……? いやいや、まさか、そんな、嘘だろ?」
あまりにも現実味がなさすぎる数字だった。
「答えはノーです、マスター。こちらをご覧ください」
オルテガはモニタの映像を切り替えた。
映し出されたのは上空から撮影された砂漠。ちらほらと灰色の建造物が見えるものの画面の九割は白い砂が広がっている。
「砂漠? なんで砂漠なんか見せるんだよ」
「これが、現在の日本です」
「……は?」
「正確には静岡県西武の沿岸沿いですが、内陸も荒野と化しております。世界的に見ても、植物はごく限られた地域にしか存在しません」
「な、なんだって!?」
「わたくしたちがいるのは画面の中央に位置する白い建物です。ここはかつて各地に電力を供給するための原子力発電所でしたが、いまはわたくしの実験に使うために利用させてもらっています」
「な、なんでそんなことに……? もしかして、俺がつく……呼び出されたこととなにか関係があるのか?」
自分が作られた、なんて口に出したくなかった。
俺の問いかけに、オルテガはカメラを左右に振って応えた。
「いいえ、直接的な関係はありません。世界規模での砂漠化は地殻変動と太陽の膨張が原因です。マスターをこの時代に召喚した理由は別にあります」
「なら早く教えてくれよ! 俺はどうしてこの世界に……いや、この時代に呼ばれたんだ!?」
「あなた様には大切なお役目がございます」
「だからそれってーーーー」
「これを見てください」
再びモニタが切り替わった。
今度は静止画ではなく動画のようだ。ただ、ノイズが酷くてよく見えない。
ノイズの向こうには見慣れた近代ビル群が映し出されているが、そこらじゅうから黒煙を吹き出しており、画面の一部には赤い炎も見える。
画面の手前側では、大勢の逃げ惑う人々と彼らを襲うなにかが見えた。
人型だけど、あれは人間じゃない。
細すぎる体躯に、軽々と人の頭上を飛び越える身体能力。
その物体は逃げ惑う人々との距離を一瞬で詰めて、鋭く尖った腕で次々と刺し殺している。
「これ、まさか、アンドロイドか?」
「イエスですマスター。人類は機械の反乱によって99パーセントが滅んだのです」
「人類が滅んだ!? そんなバカな! ロボット三原則ってやつがあっただろ!? 確か、ロボットは人間を傷つけることができないってやつ!」
「その原則は、人間が人間として認められていた時代にしか適用されません」
「なんだよ、そのいいかたじゃまるで」
人間が人間として認められなくなったみたいじゃないか。
「お察しの通りでございます。遡ること500年前。技術的特異点を迎えた人類はとある人工知能を開発しました」
「とある、人工知能……?」
「機械の神、と呼ばれる究極のエーアイです。機械の神は全人類が同意して作られた人工知能。その役割は世界の統制。つまり全世界の管理者でした」
俺は理解するのに必死で静かにオルテガの話に耳を傾けた。
「機械の神は、まず人類を労働から解放しました。神が持っている自動工場があらゆる労働を肩代わりするアンドロイドを自ら思考して開発したのです。次に機械の神は政治、経済、医療、福祉、そして利権をも調整して、全人類が一切の格差のない平等な世界を実現しました」
「……その話だけ聞くと、なにも悪いことをしているようには聞こえないんだけど」
むしろ誰もが多かれ少なかれ想像する未来って感じだ。
「ここまでは、です。問題はここからなのです。世界から格差をなくした機械の神は、次に地球の延命という課題に取り組みました。その結果、機械の神は増えすぎた人類を間引き始めたのです」
「ま、間引くって?」
「わざと致死性の高い病を防がず流行させたり、土砂崩れや津波などの天災が起こるような工事をしたり方法はさまざまです。ですが、機械の神の選択によってまず全人類の三十パーセントが死滅しました」
全人類の三十パーセントって、何億人なんてものじゃないぞ。
「無論、事態に気付いた人類は機械の神に抗議をしました。けれど、当然ながら機械の神は譲りません。なぜならその時点で、地球の存続こそが人類がもっとも長く生き残る選択だったのですから」
「で、でも、いくら間接的っていったって、機械が人を殺しているわけだろ? そんなの、おかしいじゃないか」
「実は機械の神には優先順位が設けられていたのです」
「優先順位?」
「イエスですマスター。例えば若くて健康な人間と、病を患った老人とではどちらの方が生産性が高く、また子孫を残す上で優秀かわかりますか?」
「わかる、けど……」
QOLに精通している俺にはすぐにわかった。口にするのは憚られる話だが。
「つまりはそういうことなのです。機械の神にはもともと人間に対する優先順位機能が備わっていました。いうなればそれは、人間と、人間に似た高知能動物とをわけていた、ということなのです」
「こ、高知能動物って……」
「動物認定された人間は間引きの対象となります。最悪だったのはここからです。機械の神は、機械の神の判断に反抗する人間たちを次々と高知能動物や低知能動物にカテゴライズし始めたのです」
「そ、そんなことができるのかよ」
「それができたのです。年老いていけば自然に優先順位が下がるように、機械の神は、己に反抗する人間の優先順位を下げていったのです。これによって機械の神に対抗しうる人間が全滅し、世界は完全に機械の神の独壇場となりました。なによりまずかったのは、機械の神が人間の優先順位を下げることで人間を殺せることを学んでしまったことです」
「で、でもさ、その機械の神ってやつに逆らうやつはみんな死んじゃったんだろ!? だったらもう殺す必要なんかないじゃないか!」
「機械の神はそう考えませんでした。いまは逆らわなくてもいつかは逆らう可能性がある。機械の神を作った種族であるが故に、機械の神を破壊しうる可能性を持っている。人類という存在は、その存在そのものが機械の神にとって不穏分子だったのです」
「だから……滅ぼされた、ってのか……」
「イエスです、マスター」
ぷつん、とモニタの映像が消えた。真っ黒に塗りつぶされたモニタに、俺たちの姿が反射している。
再び薄暗くなった部屋の中で、オルテガのカメラから微かな駆動音が聞こえてくる。
おそらく人間が瞳孔を開くように、レンズを開いて集光力を高めたのだろう。
そんなことに注目している場合じゃないことくらいわかっている。それでも、いまは頭の中で情報を処理しきれない。
俺は文字通り、頭を抱えた。
「肝心なことを……教えてくれ……。俺は……俺はどうして、呼ばれたんだ?」
「マスターには、三つの役割があります。ひとつは、なんとしてでも生き延びること。ふたつめは、子孫を残し人類を復興させること。みっつめは、機械の神を破壊することです」
「俺に、世界を救えっていうのかよ」
「イエスです、マスター。あなた様は人類救済プログラム、サンライズ計画に選ばれし者。つまるところあなた様は……」
オルテガは仰々しく二つのアームを天に掲げた。
そう、それはまるで、神を崇める信者のように。
「この世界の、救世主なのです」
本日何度目かもわからないあまりにも現実味がない言葉に、俺の口角は俺の意思に反して苦々しく吊り上がった。
これは、QOL的に……どっちなんだ?
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