第9話 ムラムラしたので、楽にしてもらいました


 天音クリスが率いる新興Dライバー事務所、ネクスト・ホープ。


 そこに属するタレント第一号である俺の初仕事は……


 平山イツキを殺すことだった。


 ……無論、比喩である。


 実際は整形手術を受け、別人になりすますという意味だ。


 なぜそのようなことをするのかといえば……

 平山イツキは、悪い意味で知名度が高いから。


 タケルやカズオミは俺のことを忘れているようだけど、世間はそうでもない。


 国内トップスリーのDライバーと謎のコラボを果たし、その後、原因不明の脳死状態で発見される。


 こんな奇天烈すぎるエピソードを持つ人間が、世間のオモチャにならないはずもなく。

 平山イツキは未だ、ネット上では様々な尾ひれを付けて、語り継がれているという。


 もしそんな男が配信者復帰となれば、確かに話題性は抜群であろう。


 だが当然、それはタケルやカズオミにも認知され……


 そこで思い出されてしまうと、かなり不味い。


 俺が復讐をしに舞い戻ったのではと警戒でもされたなら、情報収集の妨げになってしまう可能性が高いのだ。


 よって俺は整形手術を施し、別の顔と別の名で、新たにチャンネルを開設することになった。


 そんな準備期間を経て――


 現在。

 俺はダンジョンの中級階層にて、スキルの試運転を行っている。


「ふッ……!」


 眼前に立つ巨大な狼型のモンスターへ掌を向け、念じる。


 憤怒のアクティブ・スキル、《赫滅の黒炎》、発動。


 刹那、掌から闇色の灼熱が放たれ――

 敵方を飲み込む。


 その威力はまさに桁外れ。

 ただの一撃で以て、狼型のモンスターは魔石へと姿を変えた。


「……無茶苦茶だな、マジで」


 獲得した力の凄まじさに、喜びを通り越してドン引きしていると、


「中級階層でも指折りのモンスターを瞬殺。それも、出力が最低の状態で。実に末恐ろしい力ですね」


 すぐ近くに控えていた黒髪の美女、須賀乃レナが声をかけてきた。


 彼女はクリスの秘書だが、それと同時に俺の専属カメラマンでもある。


 もっとも、今はカメラを回してはいない。

 今回の探索はあくまでも初配信前の試運転であって、撮影を行う意味がないからだ。


 それはさておき。

 俺は彼女の言葉を反芻しつつ、反応を返した。


「憤怒のアクティブ、《赫滅の黒炎》は……感情が昂ぶれば昂ぶるほど、威力を増す」


 現在、俺は平静な状態にある。


 それでも中級のトップクラスを一撃で倒すほどの高火力。


 まさにチートってやつだな。


 ……そんな力を振るっているところを見られたなら、当然。


「な、なんだ、あいつ……!」


「つ、強すぎるだろ……!」


「けど、見覚えがないぞ……!?」


「あんなにも強い、超絶イケメン、一目見たら忘れないもんね……」


 周囲の配信者達が口にした言葉。


 それは総じて不慣れな称賛であったが……中でも取り分け受け止めにくかったのは、


「超絶イケメン、ねぇ……」


「実際、今のあなたは誰もが見とれるほどの美形ですよ。


 レナが口にした名は、クリスによって命名された、俺の別名である。


 これまでとは別の顔、別の名前。


 どうにも違和感は拭えないけど……

 しかし、称賛に対する喜びがゼロってわけじゃない。


 どんな形であれ、俺は今、かつて求めていたものを掴みつつあるのだから。


「ところでアヤト様。まだ試運転を続行しますか?」


「いや、もう十分だ。今回の探索はここまでにする」


 そういうわけで、帰路へ就くためダンジョンの内部を歩く。


 その道すがら、俺はレナへ、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「ちょっとプライベートな質問だけど、さ。君と天音さんって、どういう関係なの?」


「……ご存じかと思いますが、クリス様はさる高貴な一族の血を引いておられます」


「うん。確か何百年も続いてて、そのルーツは誰でも知ってる大名家って話、だけど」


 レナは小さく頷いてから、無機質な調子で言葉を紡いだ。


「わたしの生家は代々、かの一族にお仕えし続けてまいりました。その伝統に則り、わたしはクリス様にご奉仕する身。それ以上でも以下でもありません」


 なんというか……現実味のない話だな。


 住む世界が違い過ぎて、ちょっと距離を感じてしまう。


「アヤト様は――」


 こちらに何か、問い尋ねようとするレナ。

 だが、その直前。


「うっ……!?」


 俺の体に、異変が起きた。


「アヤト様? どうなさいましたか?」


「い、いや、その」


 一般的な体調不良なら、口にすることを迷ったりはしない。


 これは、そう。

 色欲のパッシブ、《魅了と肉欲のシナジー》によるものだ。


 つまり、端的に言えば――


「――、アヤト様」


 隠し通そうとしたのだが、アッサリとバレてしまった。


「え、っと。それ、は」


「以前にも申しました通り、遠慮なさる必要はありません。そもそもわたしが同行しているのは、そのためでもありますから」


 ここで一つ、疑問が解けた。


 今回はただの試運転であり、カメラマンの存在は不要である。

 にもかかわらず、なぜレナが同行すると言い出したのか。


 それは――


「いま、楽にして差し上げます」


 淀みなく言い切ってから、彼女は地面に両膝をついて。


 こちらのベルトに、手を掛けた。


「ちょっ、ちょっと!? こ、こんなところで!?」


「問題はありません。わたしのスキルは、《秘匿》でございます。その力を用いれば周囲に気付かれることなく、いつでもどこでも、あなたの欲望を受け止められる」


 た、確かに。


 実際、ここは結構な人通りがあるのだけど、誰一人としてこちらを認識していない。


「では――――参ります」


 やめさせろと、理性が叫ぶ。


 けれども色欲のデメリットはあまりにも強く、それゆえに。


 ズボンを脱がすレナの手を、振り払うようなことは出来なかった。


 そして――

 およそ30分後。


「ん、くっ……♥」


 なにを、とは言わないが。


 口の中にタップリと含まれていたモノを、レナはゆっくりと飲み込んで、


「さすがアヤト様……♥ 実に、濃厚でした……♥」


 常に無機質なレナの美貌が、今は艶然とした色に染め尽くされている。


 朱色の頬を伝う、一筋の汗。

 潤みきった、涼やかな瞳。

 荒れた息遣い。


 艶事を終えた後の彼女は実に扇情的、ではあるのだけど。


 胸で2回。

 口で連続5回。


 計:7回搾り取られた後なので、特別な感慨が湧くようなことはなかった。


「……スッキリ、されましたか?」


「う、うん。おかげさまで」


「それはようございました」


 胸元のボタンを留めつつ、レナは淡々と言葉を紡いだ。


「では帰還いたしましょう」


 こともなげに言う彼女へ、俺はたじたじとなりながらも、首肯を返した――

 そのとき。


「ちょっと! もういい加減にしてよ!」


 何者かの怒声が、耳に入った。





――――――――――――――――――


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