第4話 精霊になったリカルド
リカルドは、背中に熱い痛みを感じた。
(斬られた!!)
瞬間的にそう悟った。
と同時に、強風にさらされた。
<リカルド王子、大丈夫かい? 君を安全なところに送るよ。風の加護の大きな君だ。きっと受け入れてくれるだろう……>
「ルパートはどうするんだ?」
<オレはこのオアシスとも契約してるんだ。でも、オアシスを守りながら、君を銀の森に送るのはちょっと難しいかな……ハハハ……変な事になったら御免よ>
ルパートの自嘲的な笑い方を聞いたのが、リカルドの最後の記憶だった。
そして意識も失った。
▲▽▲
大陸東部の聖地、銀の森__
リドムの銀色の葉っぱが年中枯れないことから、こう呼ばれている。光の神イリアス・エル・ロイルが降りたった地である。
ここには、彼を祀る光の神殿があり、神もここにいた。
その日の夜、珍しく神は人型になって、昔馴染みの精霊の風の奥方の巣に行って昔話に話を咲かせていた。この二人? は、ともに精霊族であった時からの旧知の仲でもあった。
そこに強風が降り注ぎ、青白い炎が神の手に降りてきた。
<あら、何処から来たのでしょう?>
『時の彼方より声がしたな。この者を助けてくれと。どうやら時空を超えてやってきたようだ……にしても……』
銀色に淡く光る神は、フッと息をついた。
『魂だけを送られても困るというもの』
<まぁ……身体はどうしたのです?>
艶っぽくて、色っぽい風の奥方が言った。
『元の時代でこと切れていたのだろう……天界であれば転生させてやれるが。身体がないのではな……風の気配の多い子だ。良き精霊となるだろう。身体が無くとも十分だ』
神がそう言うと、呪文を言った。
途端に、青白い炎が半透明の騎士の格好をした精霊になった。
少年は、驚いている。
神は満足そうに頷くと、その場から姿を消した。
<ここは、わたくしの巣ですわ。早く出て行って欲しいのですけど>
声の方を振り向くと、胸の大きな上品そうな奥方のイメージの人……
ではない。彼女も透けていたのだから……
<俺はリカルド、リカルド・カスパールだ>
<あなたは、もう精霊なのです。人間だった時のことは忘れなさい>
<精霊だって!!? 俺が? 俺は人間だぜ!!>
リカルドが驚いて声を上げた。
<もとですわ。あなたは、精霊に生まれ変わったのです。ここは、わたくしの寝床です。早く人間と契約して出て行って欲しいですわ>
奥方は容赦なく言った。
<ここから離れられないんだ!! 無茶を言わんでくれ!!>
<あなたなら上位に行ける要素はありますわ。ここで生まれたことが重要な事です。そして、その容姿。強い風の精霊になると思いますわ>
<精霊は、魔法使いを助ける役なんだろう? 俺がそうだった>
<人間であったことは、忘れなさい。彼らを支えるために我らが存在するのです>
風の奥方は、リカルドの属性が風であることを教えてくれた。
<見た目通りの、風の騎士を名乗るとよろしいでしょう>
<奥方は誰かと契約しているのか?>
<いいえ、わたくしの力を御せる者がいませんの>
奥方は深く悲しんでるように見えた。
奥方には、奥方の歩んできた生き方があったのだろう。
<あなたは、これからですわ>
奥方の声が妙に胸に引っ掛かった。
肉体はもうないのに……
リカルドは思った。
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