第226話 お礼
木曜日の昼休み。いつものメンバーで部室に居ると、また扉がノックされた。
「川中美咲です」
生徒会、じゃなくて個人名か。
「どうぞ」
川中さんは入ってくるなり、陽春の隣に座った。
「……陽春先輩、ありがとうございます!」
そう言って陽春の手を取る。
「え、どうしたの?」
「滝沢会長がまた私と話してくれるようになりました!」
「そうなんだ。でも、なんでウチ?」
「なぜ態度が変わったのか聞いたら、陽春先輩に聞いたって」
そういえば、昨日、川中さんが泣いていたと陽春が滝沢に言ったんだった。
「あー、ごめんね。勝手にしゃべっちゃって」
「いえ、おかげで昨日の放課後から態度ががらっと変わって、優しくなったんです」
「そうなんだ……」
そんなに効果あったのか。
「でも、あんまり調子に乗って近づきすぎないようにね」
「はい、分かってます。ありがとうございます」
川中さんは深く礼をした。
その川中さんに笹川さんが言う。
「なに? あんた、滝沢君のこと、本気で狙ってるの?」
「あ……笹川先輩、この間は不遜な態度を取ってすみません」
「別にいいけど。で、滝沢君のこと、本気なの?」
「私は……本気です。笹川さんには負けません!」
「なんで私よ……私は彼氏居るんだから……」
「でも、まだ会長のことを好きなんじゃないですか?」
「はあ? そんなわけないでしょ。私は達樹だけだし」
「そうなんですか。会長が微妙な感じなのでてっきり……」
「まあ、向こうは未練あるかも知れないけど。私から別れようって言ったし」
「そうなんですね。じゃあ、笹川さんの方は……」
「なーんにも思ってないから。あんたが本気だって言うんなら応援してもいいぐらいよ」
「……わかりました。ありがとうございます!」
川中さんは笹川さんに頭を下げた。
「こんなに本気なんだから、滝沢君ももっと構ってあげればいいのにねえ」
陽春が言う。
「あいつ、仕事バカだし。生徒会の話しかしないでしょ」
「は、はい……」
笹川さんの言葉に川中さんは頷いた。
「視野が狭いのよね。無理矢理にでも休ませて広い世界を見せた方がいいと思うけど」
「そうですよね、私もそう思います。会長は無理しすぎです」
「仕事休んで川中さんとデートしろって私が言ってたって伝えておいて」
「は、はい! ありがとうございます!」
そう言って、川中さんは部室を出て行った。
「はぁ……世話が焼ける元カレだわ」
笹川さんが言った。
「元カレだったのかよ」
何も知らなかった後藤先輩が口を出してきた。
「あ、そうです」
「生徒会長を袖にして小林と付き合ってるのか?」
「まあ、そういうことですね。達樹の方が一緒に居て楽ですし。何より私のことを一番に考えてくれるので」
「確かに、尽くしてる感じはあるよな」
「はい。ありがたいです」
達樹は照れているようだった。
「お前たちを見てると俺も彼女作りたくなるなあ」
「……後藤先輩はその前から雪乃先輩を彼女にしたがってたでしょ」
陽春が言う。
「あ、そうだったな。ハハハ」
後藤先輩は笑ってごまかしていた。
「そういえば、今日は部活だけど、来週の部活の時には新部長発表だな」
後藤先輩が言う。
「あ、そうですね。後藤先輩は誰が新部長か知ってるんですか?」
「まあな。俺も一応三年生だし、二人から相談受けたぞ」
「そうなんですね。で、納得の新部長ですか?」
「もちろんだ。俺は大賛成したぞ」
「へぇー、そうなんですね。誰になったんだろう……」
「それは来週のお楽しみだな」
後藤先輩、何か楽しそうだな。後藤先輩は陽春との付き合いも長いし、俺とはそれほど親交があるとは言えない。ということはやっぱり、陽春が新部長か。
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