第195話 阿蘇高森④

 湧水トンネルをあとにし、俺たちはランチに行くことにした。場所は目星を付けていた喫茶店だ。高森駅近くにある。また15分ほどを歩くのは結構上野さんにはきつかったようで、途中で黙ってしまった。


 ようやく到着し、席に着いた。上野さんはかなり疲れているのか無言だ。


「上野さん、ここは赤牛バーガーが名物なんだ」


「ふうん……」


「ほら、かき氷もあるよ」


「……いいわね」


「だよね! 全部おごるから」


「……不知火、さすがにそれは悪いわよ」


「いいから」


「私、彼女じゃ無いし」


「そうだけど……」


 困った。どうしよう。ここは櫻井先輩に相談するか。


「ちょ、ちょっと待ってね」


 そう言って上野さんにはメニューを渡して見ておいてもらう。その間に俺はスマホを出した。


不知火『上野さんがランチをおごらせてくれません』


 しばらくすると返信があった。


櫻井『だったら一部だけ払ってもらえ』


 なるほど、それは良いアイデアだ。


「上野さん、だったらランチはおごるから、かき氷代だけ払うということならどうかな」


「まあ、それでもいいけど……」


「うん! じゃあ、そういうことで」


 なんとか上野さんを説得できた。


 結局、俺と上野さんは赤牛バーガーで俺がLサイズ、上野さんが普通サイズだ。さらにかき氷は上野さんはいちごシロップ、俺は宇治金時を選んだ。


「不知火って結構渋いの選ぶのね」


「俺って結構、和菓子が好きだから」


「そうなんだ……私、不知火のこと、あんまり知らないかも知れない」


「そうかもね……いつも俺が上野さんのことばかり知ろうとするから」


「うん。だったら今日は不知火に質問するから。好きな食べ物は?」


「うーん、焼き肉かな」


「好きな映画は?」


「映画? うーん、あんまり見ないけど、この間見た『ルックバック』は面白かった」


「好きなお菓子は?」


「お菓子か。『武者返むしゃがえし』とか……」


「熊本の銘菓ね。じゃあ、好きな音楽は?」


「髭男とかWANIMAとかかな」


「好きな動物は?」


「犬。猫も好きだけど」


「じゃあ……好きな人は?」


「……う、上野さん」


「ふふ、知ってた」


「だよね」


「でも、初めてちゃんと聞いたかも」


「!! そうかも。でもこれは告白じゃないから……」


「分かってる。私がしないでって言ってるもんね……ごめん」


「い、いや、いいよ……」


 何か気まずい雰囲気になってしまい、お互い黙ってしまった。


「ごめん、ちょっとLINEする」


「あ、俺もちょっと……」


 上野さんがそういったことで俺もスマホを取りだし、櫻井先輩にメッセージを送った。


不知火『好きな人を上野さんと言ってしまい気まずくなってしまいました』


櫻井『何事も無かったかのように今まで通りにしろ』


不知火『了解です!』


 確かにそうだな。


「う、上野さん。ハンバーガー楽しみだね」


「そ、そうね。かき氷もね」


 上野さんも同じ感じで来てくれて助かる。


 そこにちょうどハンバーガーが来た。


「思ったより大きい……」


 上野さんが言う。確かにレギュラーサイズでも大きいな。


「ポテトは不知火にあげるから食べて」


「わかった」


 俺は大きなハンバーガーと自分のポテト、さらに上野さんのポテトも食べる。さすがに満腹になってきた。だが、さらにかき氷も来る。


「うわ、美味しそう……」


「そ、そうだね」


 これもサイズ大きいな。食べきれるかな。だが、意外にいける。かき氷なら入るか。


「不知火、もう食べきれない……」


 上野さんが言う。かき氷は半分ぐらい残っていた。


「残り食べて」


「え!」


 いいのかな。上野さんの残りなんて……


「はい……」


 上野さんはあんまりそう言うのは気にしないのだろう。俺にかき氷を渡してきた。ここはありがたくいただくか。食べ始めるとあっという間に無くなった。


「さすが男子だね」


「まあ食べ盛りだし」


「たくさん食べる男子は好きよ」


「そ、そうなんだ…・」


「うん、料理作って食べさせたくなるから」


 上野さんは料理が得意だ。


「そ、それじゃあ、今度また俺にお弁当を……」


「うーん、作ってきてもいいけど渡すのが大変なのよね。前も陽春先輩経由だったし」


「そ、そうだね……」


「でも、今度、部活前に持って行こうか?」


「い、いいの?」


「いつも外食ばっかりだったし、どっかで食べようよ」


「うん! ありがとう」


◇◇◇


 陽春のスマホが振動する。


「ふふ、よかった」


「どうしたんだ?」


「雫ちゃん、お弁当作戦成功したって」


「お弁当作戦?」


「うん、まずは『たくさん食べる男子が好き』って言って、最終的にお弁当作る流れに持って行くの」


「陽春……お前、すごいな」


「ラブコメのアニメで勉強してるからね」


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