第193話 阿蘇高森②
俺、櫻井和人は自分の部屋で本を読みながら陽春と一緒に不知火からの連絡を待っていた。不知火と上野さんは今日、2人きりでのデートだ。たぶん、いろいろ問題が起こる。それを解決するためのサポートセンターがここだ。
陽春は上野さんのサポート、俺は不知火のサポートをするが、俺と陽春が一緒に居て相談しているとは二人は思っていない。俺たちは二人の情報を交換することで最適なアドバイスを送るのだ。
「あれからなかなかメッセージ来ないね」
「そうだな。まあ、何も来ないなら上手くいってるんだろ」
そう言った途端に俺のスマホにメッセージが届いた。
不知火『上野さんを怒らせちゃいました』
不知火『俺のことを格好いいって言う友達が居るって言うんで誰だろうって言っちゃって』
はぁ……俺はため息をついた。
「ウチにも来てるよ」
陽春がスマホを見せてきた。
上野『不知火がまた他の子の話してきて嫌になってます』
上野『けど私に怒る資格無いですよね。どうしましょう』
「上野さんも仲直りしたいようだな。だったら簡単だ」
「だね。じゃあ、ウチがまず送るね」
陽春『不知火君が謝るだろうから許してあげて。優しくだよ』
「じゃあ、次、和人ね」
「よし」
櫻井『とにかく謝れ』
これで何とかなるかな。
◇◇◇
俺、不知火洋介は先輩からのメッセージを見た。そうだよな。それしかない。
「上野さん、ごめん!」
俺は頭を下げた。すると、上野さんはスマホから顔を上げて言った。
「ううん、私もごめん。へそ曲げちゃって」
「いや、俺が悪かったよ」
「まあ不知火も悪いけどね。でも私は彼女じゃ無いし、怒る資格無いから」
「そんな……」
すると、上野さんのスマホが振動した。上野さんはそれを見たあと、言った。
「い、今のは忘れて、これからを楽しみましょう」
「そ、そうだね」
なんかちょっと棒読みだった気はするが、気のせいだろう。
肥後大津駅で乗り換え、高森行きの電車に乗る。行きの電車は普通列車。帰りが観光用のトロッコ列車の予定だ。
「そろそろパン食べる?」
「そうだね」
俺たちは熊本駅で買ったパンを食べ出した。
しばらくすると立野駅につく。
「帰りはトロッコ列車でここまで来るから」
「うん」
「このすぐ先には鉄橋だよ」
「そうなんだ」
電車が走り出し鉄橋に入った。
「すごく高くて景色が綺麗だから見てみて」
「そう……ってほんとね。これはちょっと恐いかも」
渓谷に架かる鉄橋から眺める形式はちょっと恐い。
そう思ったら、上野さんが俺の服の裾をつかんできた。
「上野さん?」
「ごめん、ちょっとつかませて」
「うん、いいけど」
意外に高所恐怖症なのだろうか。でも、上野さんはじっと渓谷からの景色を眺めていた。
「恐いけど楽しかった」
そう言って上野さんは前に向き直り、裾から手を離した。残念。
「あ、ずっとつかんでてごめんね」
「いや、いいよ。全然」
「むしろ嬉しかったでしょ」
「う、うん……」
「顔に出てるからね」
「そうなんだ……」
「イケメンが台無しよ」
俺のこと、イケメンって思ってくれてるんだ。初めて上野さんに言われた。かなり嬉しいかも。
「だからその顔」
「あ、ごめん……」
慌てて顔を引き締めた。
阿蘇の雄大な景色を眺めながら、俺は報告を怠っていたことを思い出す。慌ててスマホを取りだした。
不知火『ニヤついてたらイケメンが台無しって言われました』
櫻井『イケメンって言葉に喜んじゃだめだぞ』
不知火『もう喜んじゃいました』
櫻井『上野さんも可愛いよ、とか言ったか?』
不知火『言ってないです。今から言っていいですか?』
櫻井『もう遅いよ』
しまった、タイミングを逃したか……
ふと見ると上野さんもスマホを操作していた。
そして、俺に言った。
「いろいろ言ってるけど、不知火のこと、かっこいいとは思ってるからね」
え、突然、上野さんがそんなことを……あ、そうか。このタイミングだ!
「う、上野さんも可愛いよ」
「う……わかってるし」
上野さんは顔が赤くなってそっぽを向いた。これは……早速、櫻井先輩に報告する。
不知火『ちょうどいいタイミングが来たので上野さんも可愛いよって言ったらそっぽ向かれました』
櫻井『よくやった。照れてるだろうから大成功だな』
よし! 思わずガッツポーズをする。
すると横で小さい声が聞こえた。
「陽春先輩のバカ……」
「え?」
思わず上野さんを見る。
「あ、なんでもない。あー、高森楽しみだなあ」
上野さんがにっこりと笑い俺を見た。
◇◇◇
俺と上野さんは高森駅に到着した。すると、その駅舎内にたくさんの色紙があった。これは熊本地震の時に全国の漫画家が送ってくれたものだ。これを見るのも目的の一つだった。
「あ、高橋留美子! 藤子・F・不二雄! あだち充!」
大物漫画家の色紙に上野さんも興奮気味だ。
「これ『デデデデ』だ! 陽春先輩に送ろう」
『デデデデ』の作者の色紙もあった。陽春先輩が気に入って部誌のイラストにも描いたやつだ。
「ふふ、陽春先輩、『ずるい!』って怒ってる」
言っている姿が目に浮かぶ。
さらに高森駅には漫画「ONE PIECE」のキャラクター銅像の1つ「フランキー」がある。この銅像は「ONE PIECE」の作者・尾田栄一郎が熊本県に寄贈したもので、熊本県内の各地に「麦わらの一味」の銅像が設置されている。
「うわ、すごい! 大きい……」
上野さんはいろんな方向から写真を撮りながら言った。
「他の銅像もいくつかは写真撮ってるけどね。いつかは全部まわりたいな。車が必要になるだろうけど」
「そうだね、僕も撮りたい」
「一緒に行く?」
上野さんが聞いてくる。マ、マジか!
「い、行きたい!」
「ふふ、大人になっても不知火が私のことを好きで居てくれたら一緒に行こうか」
「うん! 俺、早めに免許取るから」
「高三で行こうとしてるでしょ」
「うん」
「免許取り立ては恐いし。高校卒業してからね」
「そっか……」
「ま、そのときお互いフリーで居たら、だけど」
二人が付き合ってる選択肢は無いんだろうか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます