第182話 合宿での男子部屋
男子たちの部屋に戻り、寝る準備を整えたところで後藤先輩が言った。
「さて、ここからがある意味本番だな」
「なんだよ」
三上部長が言う。
「恋バナの時間だ」
「はぁ。勝手にやってろよ」
三上部長は寝ようとした。
「そういうわけにいくか。俺はお前のせいで失恋したんだからな」
「俺のせいってわけじゃ無いだろ、まったく……じゃあ相手してやるよ」
三上部長は再び布団から出てきた。
「よし、櫻井も不知火もちょっと来い」
俺たちも集められ円になって座った。後藤先輩は真ん中にお菓子を置く。飲み物も準備万端だ。
「さてと、じゃあ、三上からだな」
「俺からかよ。俺に恋バナなんて雪乃しか無いって分かってるだろ」
「順調なのか?」
「まあ、順調だな」
「進学はどうするんだ?」
「同じ大学を受ける予定だ。つけいる隙は無いぞ」
「つけいろうとは思ってないから。じゃあ、他に親しくしてる女子とか居ないのか?」
「居るわけ無いだろ。俺はこれで終わりだ」
「あの……」
俺は小さく手を挙げた。
「ん? なんだ?」
「一応、念のために聞いておきたいだけなんですけど、冬美さんって三上部長のこと、好きじゃないんですか?」
「はあ? 冬美って妹か?」
後藤先輩が驚いて言う。
「お前、妹にまで――」
「違う、違う」
三上部長は慌てて言った。
「何か誤解があるようだから、この際はっきりしておこう。冬美さんはな、俺に興味なんて無いんだよ」
「そうですかね、ときどきベタベタしてきたり、雪乃先輩が居ないときは隣に座って世話やいたりしてますよね」
「お前、そうなのか?」
後藤先輩が驚愕した目で三上部長を見ている。
「だから、違うって。いや、そうなんだけど……」
「そうなのかよ」
「そういう事実はあるってだけだ。だけど、冬美さんが見ているのは俺じゃ無い。雪乃だけだ」
「……どういう意味だ?」
「冬美さんはああ見えて、姉のことが大好きって事だよ」
「ふむ……どういうことだ?」
「姉へのあこがれと対抗意識が常にあるんだ。俺は最初、冬美さんに嫌われていた。姉を自分から奪ったやつだからな」
「そうだったのか?」
「そうだ。だが、一緒に遊ぶうちに警戒心は解けた。そのうち、雪乃ができないことを俺にやってくれたり、雪乃が居ないときには代わりをするようになった。冬美さんは、心の中では雪乃のようになりたい、という願望があるんだと俺は思ってる」
「なるほど……」
確かに雪乃さんが休んだときに「お姉ちゃんの代わりをする」と張り切っていた。あの地雷系のファッションも部長が好きなのに雪乃先輩はしないから代わりにやっている、と言ってたな。
「だから、もし俺が雪乃と別れたら、冬美さんは俺に興味を失うだろうな。冬美さんが興味があるのは雪乃だけだ」
「……俺は妹さんとは付き合いが短いから分からないが、櫻井、今の話どう思う?」
後藤先輩は俺に聞いてきた。
「自分は結構納得しました。今までの冬美さんの行動と整合性がとれています」
「ふうむ……じゃあそういうことにしておくか。面白くは無いが」
「俺には面白い話なんて無いんだよ。櫻井の方が面白いぞ」
「え、俺ですか?」
「確かにそうかもな。櫻井、浜辺と付き合っているということは分かった。だが、高井からも好かれているよな。そこのところはどうなんだ?」
「どうもこうも、俺は陽春だけです。立夏さんからなぜか好かれてるっぽいことは分かってますが、申し訳ないけどそれには答えられないですね」
「ふうむ……高井をキープしておこうって気持ちは無いのか?」
「な、無いですよ、そんなの……」
「じゃあ……俺が高井をもらってもいいよな?」
その言葉に三上部長と不知火が驚いて後藤先輩を見た。
「もちろん、いいですよ」
俺が答えると、後藤先輩は頷いた。
「どうやら、ほんとに高井のことは何とも思ってないみたいだな。もし、少しでもキープしようって気持ちがあれば、俺の言葉に少しは動揺したはずだ。だが、特に何も感じていないようだ。櫻井、お前はほんとに浜辺一筋なんだな」
「そうですよ、俺は陽春には感謝してますし、大好きですから」
陽春は俺にとっては文芸部に導いてくれて、今の生活をもたらしてくれた大恩人だし、陽春の性格も容姿も大好きだ。
「それにしても後藤……お前、高井を本気で狙うのか?」
三上部長が聞く。
「本気なわけ無いだろ。櫻井に鎌をかけただけだ」
「なんだよ、驚かせるな……」
「お前が驚いてどうするんだよ。俺が誰を好きか、お前が一番知ってるだろ」
「まあ……そうだけどな」
やはり、後藤先輩は雪乃さん一筋か。
「さて、あとは不知火だな」
「お、俺ですか。俺は……」
「上野だよな」
「そ、それは……」
「もうみんなにバレてるからそこを隠しても仕方ないぞ」
「は、はい……俺は上野さんが好きです。最初はなかなか相手にしてもらえなかったんですが、今はいろいろあって、少しずつ近づいてる気がします」
「そうなのか?」
「は、はい……」
「櫻井、どう思う?」
なんか俺、後藤先輩にえらく信用されてるな。ご意見番みたいになってる、
「まあ、そうですね。確かに距離は縮まってます。ただ、恋人ととしていうか、友人としての距離ですかね」
「そ、そうですね……」
不知火が落ち込んでいる。
「まあ、そこから恋人になれるかはこれから次第でしょう。先は長いと思います」
「だよな。俺が見た感じでも同意見だ」
「不知火、もっと積極的に行った方がいいぞ。デートとか誘ったのか?」
三上部長が聞く。
「今度二人きりで会おうとは言ってます」
「今度って、いつだ?」
「まだ決めて無くて……」
「それはダメだな、すぐ決めないと。早く決めれば次回も早く来るだろ。頻繁に会うことが大事だぞ」
「そ、そうですね、わかりました! じゃあ、ちょっと相談させてください」
それからは不知火のデート先を男達で話し合った。
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