第149話 後藤先輩
水曜日。通常授業は明日で終わり。明後日には終業式だ。
放課後、俺たちは今日も部室で自分たちの作業を進める。
キーボードの音だけが響く部室で急にドアが開いた。
そこには見知らぬ顔の男子が居た。
「あ、後藤先輩!」
陽春が言う。これが幽霊部員の後藤先輩か。髪は長め、背は高め。チャラそうな顔だ。
「おう、浜辺。元気にしてたか?」
「はい! 先輩、今日はどうしたんですか?」
「柳井先生に部に顔を出すように言われてなあ。久しぶり、三上、長崎」
「後藤、ここでは俺のことは部長と呼べ」
「そういえばそうだったな」
「久しぶりね、後藤君」
「……そう……だな」
あれ、雪乃先輩と後藤先輩、何かありそうだな。
「で、お前、今年の部誌はどうするんだ? 一応、部員だろ」
三上部長が聞く。
「うーん、正直、退部しようと思ってたんだけど……なんか可愛い後輩増えてないか?」
後藤先輩は立夏さんと冬美さんを見て言う。
「お前なあ」
「だから、今年も詩でも書いて出すわ」
「そうか、ページに空きはあるから早めに頼む」
「わかった……それにしても、君、名前何ていうの?」
冬美さんに聞いている。
「長崎冬美です」
「長崎……」
「私の妹よ」
雪乃さんが言った。
「あー、そういや妹が居るって言ってたな。確かに似てるわ。俺の気を引くはずだな」
「妹に手出したら承知しないわよ」
「出すわけ無いだろ。俺が……まあ、いいわ。じゃあな」
後藤先輩は部室を出て行った。
「……お姉ちゃん、後藤先輩と何かあったの?」
冬美さんが聞いた。
「まあね……気にしないで」
「そういう言い方されると気になるんだけど。陽春ちゃん何か知ってる?」
「う、うん……」
陽春は去年から文芸部に居るから知っているようだ。
「はぁ……陽春ちゃんに聞かれたらバレるから私から話すわ」
雪乃さんは言った。
「一年の頃から私と大地は付き合ってたけど、みんなには内緒にしてたのよ。去年の部誌、見たでしょ。あれでみんなに公表したの」
なるほど。去年の部誌に雪乃さんは自分の恋愛話を書いていた。あれはそういうことだったたのか。
「でも、後藤君は私のこと好きだったみたいで。あの部誌を見たのに、私に告白してきて。もちろん断ったのよ。それから部には来なくなったわ」
「そういうことね……でも、だったら、私やばいんじゃない?」
冬美さんが言う。
「お姉ちゃんの代わりに狙われちゃったら困る……」
「だからさっき、きつく言っておいたでしょ」
「うん。あんなチャラい感じの人はちょっとね……」
やっぱり姉妹で趣味は似ているようだ。
「……後藤先輩は詩を書くんですか?」
立夏さんが聞く。
「去年も詩を書いてたからね」
陽春が去年の部誌を見せた。
「うわ、自己陶酔型の詩ね」
冬美さんが言う。
「あいつ、趣味がギターだからなあ。去年合宿で自作の詩を弾き語りしてたし」
三上部長が言った。
「マジ無理……」
冬美さんが言った。
「そう? ちょっといいかもって思ったけど」
立夏さんが言った。
「ですよね。チャラいって言うか、キザって感じでした」
上野さんも言った。この二人はああいうのが好きなのか。
しかし、この二人、俺のこと好きって言ってなかったか? 全く違うタイプだと思うが……
陽春はどう思ってるんだろ。
「陽春は後藤先輩どう思う?」
「うーん、チャラくて無理」
「だよな」
なんか安心した。
◇◇◇
帰り道、俺は陽春に聞いてみた。
「後藤先輩はどんな人だ?」
「うーん、チャラいけど一途って感じ」
「一途? 雪乃先輩か」
「うん。結構アピールしてたからね。ほら、合宿の時に弾き語りしたって言ってたでしょ。あれ、雪乃さんへの歌を歌ってたから」
「うわあ、そうなのか」
「だから、雪乃さんも急遽部誌の内容をあの小説に変えたみたいね」
「なるほど。公表することにしたんだな」
「うん。だから、あれ読んで後藤先輩荒れちゃって、修羅場だったよ」
「そうだったのか」
「それから部活には来なくなったけど、でも仲直りしたって聞いてたし、今日のやりとり見てもある程度区切りは付いてるみたいね」
「だな。だったら問題ないか」
「問題ないはず。でも、もう部室には来ないんじゃないかな」
「だよな」
さすがに振られた相手が彼氏とイチャイチャする部には来にくいよな。
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