第96話 水曜の昼休み

 水曜日の昼休み、俺たちは今日も4人で文芸部の部室に向かった。


「浜辺陽春、笹川理子とその彼氏2名、入ります!」


 陽春はそう言ってドアを開けた。部室には今日も三上先輩と雪乃先輩が居る。

 そうしていつものように食事をしていると、不知火が入ってきた。


「おう、不知火。調子はどうだ?」


 押してだめなら引いてみろ作戦を指南した達樹が聞く。


「ちゃんと話しかけないようにしてますけど、どうなんですかねえ、これって」


「何が?」


「効果あります? 上野さんと話せないだけのような気が……」


「俺は上野さん見てないから知らないけど、和人、昨日どうだった?」


 達樹が聞いてきた。


「上野さん、不知火が話しかけてこないのを少し気にしているようだったな」


「え、マジですか!」


 不知火が嬉しそうに言った。


「うん。せっかく、クロミちゃん付けてきたのにって、寂しそうだったぞ」


「そ、そんな! ちょっと話しかけてきます」


 部室を出て行こうとする不知火の手を達樹が引っ張った。


「待てって」


「え、何ですか?」


「作戦は上手くいってるって事だろ。だったら、なんで話しかけようとするんだよ」


「だって、上野さんが寂しそうなんですよ!」


「だから、効いてるって事だろ。今週いっぱいはやり通せよ」


「えー! もういいじゃないですか」


「ダメだ。上野さんがお前に何か言ってくるまではやれ」


「えー! でも、上野さんが話しかけてきてくれますかね」


「俺はもう少しだと思うぞ」


「そうですか、確かに話しかけてくれたら嬉しいですけど」


「だろ? だから――」


 そのとき、扉の外から声が響いた。


「上野雫、入ります」


 上野さんが入ってきた。


「あっ」


 不知火が上野さんを見て言う。


「何?」


「いや、何でもない。では、先輩方、また……」


 そう言って、不知火は出て行った。

 上野さんは椅子に座り言う。


「不知火、何か言ってました?」


「いや、何も」


「じゃあ、何しに来てたんですか?」


「さあなあ、本探してたみたいだったけど見つからなかったようだな」


 達樹がごまかした。


「ふうん、まあ、あいつのことはどうでもいいですけど。そういえば、先輩達、付き合いだしたんですよね」


 上野さんが達樹と笹川さんに言う。


「あ、そうなんだよね」


「おめでとうございます」


「ありがとう!」

「ありがとうね」


「で、どちらから告白したんですか?」


 上野さんの言葉に二人は顔を見合わせた。


「え、なんで言わないんですか?」


「いやあ、告白はどちらもしてないかな」


「え? じゃあ、どうやって付き合いだしたんです?」


「なんとなく、今から恋人同士ねって」


「はあ? そんな付き合い方あるんですか?」


 上野さんが食いつく。


「あるのよ。若いと分かんないでしょうけど、ずっと一緒に居たらもう恋人でいいかって感じになるのよ」


 笹川さんが言った。『若いと』って一歳しか変わらないけどな。


「そ、そうなんですか……勉強になります」


 上野さんが感心したように言った。


「そういえば、平川先輩って人は何か言ってきました?」


 上野さんが聞いた。


「楓は何も言ってこないわね」


「そうですか、じゃあ問題ないみたいですね」


「そうだといいんだけど」


 笹川さんは心配そうに言った。


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