第54話 火曜日の部活
火曜日。読書感想会の日だ。立夏さんは『イリヤの空、UFOの夏』を読み終わったのだろうか。
「ウチの彼氏! 文芸部行こう!」
放課後になり、いつものように陽春が俺の席に来た。
「よし、行くか」
立夏さんと冬美さんもそばに来た。
「立夏さん、全部読めた?」
「ううん、結局2巻までだった」
「そうか、十分だと思うよ」
「そう。気遣ってくれてありがとう」
立夏さんは笑顔を見せた。
「ウチの彼氏! 行くよ」
あ、陽春が少しお怒りモードだ。慌てて俺は教室を出た。
4人で部室に向かう。
「浜辺陽春とその彼氏、他2名! 入ります!」
陽春が言う。
「他2名って……」
立夏さんが小さい声で言ったのが聞こえた。
三上部長と雪乃先輩はやはり既に来ていた。陽春と俺たちは部室に入り、一年生を待つ。
「上野雫と他1名入ります」
上野さんと不知火が入ってきた。
「雫ちゃん、先輩の変なところマネしなくていいからね」
立夏さんが言う。
「え、何がですか?」
「部室に入るとき名前言わなくていいから」
「え、そうなんですか。陽春先輩がいつも言うからてっきり……」
「うん、いいことだよ!」
陽春が胸を張って言った。
「あと、名前言うなら他というのははちょっと……」
「あ、すみません。これも陽春先輩が言うから……」
立夏さんと上野さんは陽春を見た。
「た、確かに『他』は良くないね。ちゃんと言うようにする!」
陽春は言った。
「別に入るとき名前言う必要ないからね」
雪乃先輩があらためて言った。
「よし、じゃあ始めるぞ」
三上部長が言う。
「今日は『イリヤの空、UFOの夏』の感想会だ。みんな読んだかな?」
「私は2巻までです」
「あ、私もです」
立夏さんと上野さんが言う。
「うん、良く短い時間でそこまで読んでくれたね。他の人は最後まで読んだかな」
「はい!」
陽春が元気よく手を挙げた。他の部員はただ頷いた。
「よし、じゃあまず不知火に全体的な感想を聞こうか」
「そうですね……ラノベというのは始めて読んだんですが、とにかく面白くて夢中になって読みました。読みやすいですし、イラストもあってイメージしやすいですね。ストーリーも壮大で感動しました」
「うん、そうか。それは良かったな」
三上先輩は満足げに頷いた。
その後、各部員が感想を述べたが、話はどのキャラクターが好きか、つまり推しは誰かという話になった。
「不知火は誰が推しだ?」
「そうですね。やっぱりイリヤですかね」
イリヤはヒロインであまりしゃべらず感情を出さないキャラクターだ。
「なるほど。ああいう無口なタイプが好きなのか」
「べ、別に好きなタイプじゃないです。でも、凜としててかっこいいなとは思います」
ほう、確かに上野さんは無口では無いが、凜としては居るかな。
「じゃあ、浜辺は?」
「ウチもイリヤです! ウチと似てますから!」
「いや、全然違うだろ」
思わず俺が突っ込む。イリヤは無口キャラで陽春とは真逆だ。
「だって、陰キャっぽい主人公を好きになるヒロインだもん!」
「お前なあ……」
確かに陰キャの俺は陽春に恋してるけど。
「どちらかというと高井先輩の方がイリヤと似てますよね。落ち着いてるし、髪長いし」
上野さんが言う。
「なんでよ!」
陽春が上野さんをにらむ。そこに長崎冬美さんが口を挟む。
「陽春ちゃん、あんた彼女なんだから、もっとどっしり構えろって言わなかったっけ? 何後輩にムキになってるのよ」
「は、はい! すみません!」
冬美さんの言葉にまた陽春は敬語になって、さらに直立不動になった。それにしても冬美さん、陽春のことを「ちゃん」付けで呼び始めたな。
――――――
※この作品はまだまだ続きますが、並行して新作ラブコメ「はぐれ者の俺がクラスのアイドルと同じ電車に乗り合わせたら秘密の関係が始まった」を公開していきます。こちらは30話程度で終わる予定です。
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