第4話 ゲーセン

 金曜日の帰り道。小林が俺に言ってきた。


「明日、暇か?」


「俺はいつでも暇だな」


「じゃあ、遊ばないか?」


「いいけど、何するんだ?」


「バスセンターのゲーセンに行く」


「ふーん。何かやりたいゲームでもあるのか?」


「無い」


「は? じゃあ何しに行くんだ」


「実はな……うちのクラスの女子が明日バスセンターに遊びに行くという情報をつかんだ」


「はあ。やっぱり女子絡みか」


「当たり前だ。しかも、2トップだぞ」


 高井立夏と長崎冬美か。


「で、行ってどうするんだ? 偶然装って遭遇するのか?」


「そういうことだ」


 まるでナンパかよ。


「行かない」


「なんでだよ」


「誰か他のやつと行けよ」


「俺の知り合いはみんな部活で忙しいんだよ」


 こいつも1年までは体育会系だもんな。


「たとえあの2人に遭遇しても、じゃあ一緒に遊ぼう、なんてならないと思うぞ」


「一度はあの2トップにチャレンジしたいんだよ。お前は後ろにいるだけでいいから。頼む! 昼飯おごる!」


 小林が手を合わせて俺に頼んでくる。友達が居なかった俺はこういう経験は無かった。

 それに後ろにいるだけでただ飯食えるならいいか。どうせ上手くはいかないだろうし。


「はぁ。わかったよ。面倒だけど行くよ」


「ありがとう、助かる!」


 どう考えても上手くいくとは思えないが、小林は喜んでいるようだし、まあいいか。


◇◇◇


 翌日。俺たちは開店と同時にバスセンターのゲーセンに来ていた。


「早すぎないか?」


「いいんだよ。今日はずっとここに居るんだし」


「ずっと?」


「ああ。遭遇するまで待つ」


「はあ。昼飯おごるの忘れるなよ」


「分かってるって。4人で食べに行こうぜ」


「上手くいくとは思えないけどな……」


 俺たちは適当にゲーセンの中を見た。ゲーセンと言ってもUFOキャッチャー中心で他には気持ち程度のゲーム機が置かれている程度だ。すぐに飽きて、隣のガチャガチャコーナーを見る。だが、そこも全部見てしまえばもう飽きてしまった。


 2トップはいっこうに来ない。俺たちは疲れて近くの椅子に座った。


「11時か」


「そろそろ来ると俺は思うね」


「そうか? 来たら呼んでくれ」


 俺はスマホでWeb小説を読み出した。小林も何かスマホで見ているようだ。そうして、しばらく経ったときだった。


「来た」


「ん?」


 俺が顔を上げると確かに美少女が2人居た。高井立夏と長崎冬美だ。UFOキャッチャーを見ているようだ。私服も可愛らしい。高井さんは上品なワンピース、長崎さんはデニムのロングスカートだ。小林はすぐに動き出す。俺も仕方なく付いていった。


「やあ、高井さん、長崎さん」


 小林は躊躇なく話しかけていた。


「あ、小林君だっけ。それに櫻井君も」


 高井さんは俺の名前を覚えてくれていたようだ。


「偶然だねえ」


 小林はわざとらしくそういった。


「で、何の用かしら」


 一緒に居た長崎冬美の視線は鋭い。明らかに俺たちを警戒している。


「い、いやー、偶然会ったから俺たちと一緒に遊ばないかなあって」


 小林は長崎さんの視線に押されながらも何とか言い切った。


「どうしてあなたたちと遊ばないといけないわけ?」


 長崎さんが言う。高井さんは困惑しているような顔だ。


「い、いやあ、その……楽しいかなって」


「私は別に楽しいとは思わないわね。じゃあ」


 長崎さんは高井さんの手を取って俺たちから離れていった。


「ほらみろ、上手くいくわけ無い」


 俺は落ち込んでいる小林に言った。


「はぁ。失敗か」


 俺たちはゲーセンの外に出て座っていた椅子に戻った。


「じゃあ、帰るか? その前に昼飯はおごってもらうぞ」


 付き合わされた報酬は必要だ。


「しょうがないな。行くか」


 俺たちは立ち上がり、エスカレータの方に歩こうとしたときだった。小林が立ち止まる。


「どうした?」


「あれ……」


 小林が指さした方向を見た。そこに浜辺陽春と笹川理子が居た。

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