第38話 白馬の騎士が祖父母のところに空を飛んで連れて行ってくれようとしました。

私があれよあれよという間にルヴィ達は侵攻作戦を立て始めたんだけど……いや、ちょっと、待って、私まだ何もオーケーしていないんだけど……私の意志と関係なしに話は進みだしたんだけど……



「じゃあお兄さま。当初は三個師団で良いの?」

クリスが勝手に聞いているし、

「それだけあれば十分だろう。ハウゼン王国の貴族どもにも召集をかけてくれ。来ない奴らは叩き潰す」

「そうよね。アデリナ女王陛下の御帰還だもの。来なければお家おとりつぶしよね」

何かクリスもとんでもないことを言ってくれているし……

戦いの事は全然判らないけれど、そんな兵力で南の大国エンゲルに勝てるのか? とても気になったけれど……エンゲルはすべて集めたら十個師団にはなると聞いた事はあった。大丈夫なんだろうか?


というか、帝国の軍勢を勝手に私の為に動かしていいのか?


そもそも、元々私はメンロスに嫁に行く予定の者で、ハウゼンは出た国なのだ。ハウゼン王国は今まで男子継承しかしたことはなく、養子にしていた従兄もエンゲルに殺されたと聞いている。女帝なんて未だかつて無いんだけど……


「まあ、それは何とでもなる。何なら新王国という事で俺がリナが結婚して共同統治をとっても良いしな」

ルヴィが何かとんでもないことを言っているんだけど……


「でも、ルヴィは次の帝国の皇帝じゃない」

「それは別にどうでも良い。俺が継がなければクリスが継げば良いんだ」

「お兄様、それは絶対に嫌よ」

「俺が継がなかったらお前が継ぐしか無いだろう」

「そんな事したらハウゼンに私が出兵するわよ」

「来れるものなら来い。いくらでも相手してやる」

クリスがルヴィと喧嘩を始めたんだけど……でも、普通は逆じゃないのか?

帝国の皇帝って罰ゲームの景品かなにかなの?



「ルヴィ、いきなり、いなくなるのはやめてくれ」

そこにフラフラになりながら、馬を飛ばしてきた、ダニエルさんが現れたのだ。


「何言っているんだ。お前らが遅いんだよ。それにそもそもお前にリナのことは任せたのに、母に連れ去られたってどういう事だ。それもリナは宮廷から追放されて護送馬車に乗せられていたんだぞ」

「面目ない。後宮には俺では入れなくて。アデリナ様。申し訳ありませんでした」

怒るルヴィにダニエルさんが私に頭を下げて謝ってくれた。


「いえ、別にダニエルさんはできるだけのことをして頂けたと思いますし、皇后様のところに行くと行ったのは私ですから」

私が言うと

「そうよね。元々お兄様が目を離すからいけないのよ」

クリスまで言ってくれるんだけど……


「これからは出来る限り離さないようにするさ」

そう言うとルヴィは私を傍に抱き寄せてくれるんだけど……

「えっ、いや、ちょっと、皆見ているから」

私は真っ赤になったんだけど。


「はい、はい」

クリスらは皆、白い目で見てくれる。


私は耐えられなかった。



「じゃあ、準備は後は任せたぞ。俺はリナとディール伯爵の所に行ってくる」

ルヴィは私を連れて出て行こうとするんだけど……

ここからいなくなってよいのか?


「えっちょっとお兄様。私達が準備するの? お父様等が文句言ってきたらどうするのよ」

「そんなの剣聖が激怒していたとか何とか適当に誤魔化しておけば良いだろう?」

ルヴィは言ってくれるんだけど、皇帝陛下の言うことを聞かなくてよいのか?

なんか帝国は変だ!


「判ったわ」

クリスが何故か頷いているし。

「しかし、陛下の命令に逆らえないぞ」

ダニエルさんが常識的な反応してくれた。

「ダニエル。大丈夫よ。私達は陛下の命令に従いますと言っておば良いのよ。後はお兄様が勝手に出奔したことにすれば良いのよ」

クリスがとんでもないことを言ってくれるんだけど。

「それで良いのか?」

ダニエルさんが呟いたけど、

「その後に勝手にダニエル等がついていったことにすればよ良いのよ」

「えっ、それって俺達が命令違反になるんじゃ……」

「何言っているのよ。帝国では剣聖の命令は絶対よ。お兄様に命令されたことにすればよいのよ。後はどうでもなるわ」

クリスが言い張ってるんだけど……

くれたんだけど。


「じゃあ行くからな」

ルヴィが私の手を取って言うと

「えっ、ルヴィ、お前二人だけで行くのか?」

「シロに乗って飛んでいくんだ。別に問題はないだろう」

ルヴィは言ってくれたんだけど、

「えっ、飛んでいくの?」

私はその言葉に固まってしまった。

馬に乗るのも難しいのに、空を飛ぶの?


「どうした、りな? 馬の旅は苦手なみたいだが、空の旅ならましだろう」

平然とルヴィが言ってくれるんだけど、


「いや、絶対に空の旅のほうが大変なんじゃないの?」

私はそう思ったのだ。


「いや、空の旅はあっという間だから」

「それって私が気を失ってあっという間になるんじゃないの?」

そう言ったけれどルヴィは無視して私をそのまま抱えあげてくれてシロに乗せられたのだ。

私の後ろにルヴィが乗ってきた。

私を横抱きにして暮れたんだけど……

「大丈夫だよ、リナ。なれれば気持ちよくなる」

「えっ、いや、そんな訳無いでしょ」

「大丈夫だって、すぐに慣れるから。シロ、行くぞ!」

私の悲鳴は無視してルヴィはシロに命じてくれたのだ。


ヒヒーーーーン

シロはいななくと背中から透明の翼を生えさせたのだ。


「いや、私、ここに残る」

「それはダメだろう。もう遅い」

「ええええ!」

そして次の瞬間、シロは空にふわりと浮かび上がってくれたのだ。


ジェットコースタの少し落ちる感覚だった。高速エレベーターが動き出すときのフワッという感覚だ。

私はこれが嫌いなのに!


でも、それは単に始まりに過ぎなかった。


シロは一気に加速したくれたのだ。

「キャッ」

思わずルヴィにしがみついた。

凄まじい風が私にあたって私は目をつぶってルヴィにしがみついたのだ。


「イヤーーーー」

私は盛大に悲鳴を上げたのに、誰も聞いてはくれなかったのだ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る