第37話 帝国皇后視点 息子がハウゼン王国を復活させようとしていると聞いてやめさせようとしたら皇帝に止められてしまいました

私はアデリナを初めてみた時に驚いた。長い青い髪と金色に光るひとみがあまりにもカリーナに似ていたのだ。

私の驚きは想像に絶するものだった。


私は過去の嫌な事を思い出してしまったのだ。


カリーナにアレクシスを取られたときのことがまざまざと思い出されたのだ。


また、カリーナが現れて、私の息子を私から取り上げようとしていると感じてしまった。


エルヴィンは帝国の第一皇子で次の皇帝だ。そして、私の唯一人の子供だった。

次期皇帝は確実だと思われたが、その下には側室の子供のクリスティーネがいるのだ。

下手な者をその配偶者にすると足元を救われる可能性もある。私はなんとしてもエルヴィンに皇帝位を継がせたかった。


そんな時に考え無しのエルヴィンは亡国の王女でカリーナの娘と婚約すると言いだしたのだ。

本当に母に似てアデリナも男をひきつけるホルモンを持っているらしい。

私は頭に血の上った状態でアデリナに会ったのだ。冷静な判断が出来るわけはなかった。


そして、騎士たちに指示して、護送車でアデリナをディール伯爵家に送るように指示を出してしまったのだ。


それは流石にやりすぎだった。せめて普通の馬車で送り出せば良かった。

私が後悔した時だ。


血相変えてやってきたエルヴィンは、アデリナは諦めるようにという私の言葉は全く聞いてくれなかった。


出ていこうとするエルヴィンに私は言った。

「お待ちなさい。エルヴィン! あなたは帝国の第一皇子なのです」

「第一皇子である前に私は剣聖です。これ以上余計なことをされたら、私は帝国の第一皇子を降りますから」

と言い放ってくれた。

「別に妹のクリスがいるのです。帝位はクリスに継がせれは良いでしょう。そこまで反対するならば俺は好きにさせてもらいます」

そう言うや、エルヴィンは飛び出したのだ。


私の制止など聞いてもくれなかった。


呆然と私が佇んでいると侍女頭が、私の騎士が帝国を裏切ってアデリナをエンゲルに引き渡そうとしていたと報告してきた。


「エルヴィン様がその場に居合わせられて止められたそうですが、もうエルヴィン様の立腹は相当なもので、二度と宮廷には帰らないとおっしゃられているとか」

「な、なんですって、そんな事が許されるわけはないでしょう。直ちに帰還するように伝えなさい」

私は侍女頭に伝えたが、エルヴィンはアデリナといっしょにディール伯爵領に行ったという話だった。


「本当にどいつもこいつも私の言うことを聞かないのね」

私は周りの侍女たちに八つ当たりしていた。



そんな時だ。私は帝国軍がハウゼン王国を復活させてアデリナを女王にすると言う話を聞いたのだ。

寝耳に水だった。


私は事実を確かめるためにすぐにヘルムートの所に行った。


「ヘルムート、どういうことなのですか? ハウゼン王国を復活させてアデリナを女王にするなど正気の沙汰ですか?」

私は最初から喧嘩腰だった。


「何を言っているのだ。オリーヴィア。俺は何もそのようなことを望んではいない」

「じゃあ誰が望んでいるのです」

私が驚いて聞くと、

「エルヴィンが剣聖の剣に誓って、エンゲルに鉄槌を下すと宣言したのだ」

「なんですって! あの子がそんな事を進んで言う訳はないでしょう。また、アデリナにそそのかされたのね」

私はムッとして言った。


「そんな事をすれば」多くの兵士たちが死にましょう。直ちに皇帝命令で停められればいいではありませんか」

私が言うと、


「それが出来ないからこうして苦慮しているのだ」

ヘルムートが困り果てて言ってきた。


「何故です? あなたは唯一の皇帝ではありませんか?」

「皇帝と言えども剣聖が一度言い出したことは覆せんのだ」

「そんな馬鹿な」

私には信じられなかった。


「帝国の始まり自体が剣聖の誓いですから。皇帝陛下と言えどもひっくり返せないのです。そもそも、今回のエンゲルのハウゼン侵攻は我が同盟国に対しての攻撃でしたからな。元々軍部からは何故援軍を送らなかったと突き上げられておるのです」

「それに今回の剣聖に対する婚約者の誘拐未遂に対して、軍部の強硬派も主戦論でして、我が外務もどうしようもありません。皇后陛下からエルヴィン殿下に対してなんとかしていただけるようにお話して頂けたら嬉しいのですが」

軍務卿の後に外務卿も言ってくれた。


「ちょっとお待ちなさい。そもそも、私はエルヴィンの婚約者にあの女をおすのを許した記憶はありませんが」

私がムッとして言うと、


「オリーヴィア、それは無理だ。エルヴィンは剣聖の剣の誓いでアデリナと結婚すると誓っているのだ。剣聖の誓いは皇帝や皇后の意向に左右はされない」

「そんな事が許されるのですか」

ヘルムートの言葉に私が言うと、


「許されるも何も事実だ。軍部の騎士たちもその点についてはエルヴィンを支持している。それに10年前の皇位継承問題で我が国を引っ掻き回してくれたエンゲルに対して、帝国民も良い印象は持っていない。軍部の強硬派はエルヴィンの侵攻作戦を支持しているのだ。ここはもう認めるしかない」

「そんな事が……」

私は言葉の発しようもなかった。


「陛下がアデリナ様と結婚するのを素直に認めていればここまでにならなかったかもしれませんが、もう、これは停められません」

軍務卿が言ってくれた。

「何を言っているのですか? こうなったら私が行ってカルヴィンに言い聞かせます」

私は閣僚たちに宣言した。


「オリーヴィア、これ以上、話をこじらせるな。下手したらエルヴィンは侵攻後にハウゼンの王配となって二度と帝国に帰ってこないと言いかねないぞ」

「そんな馬鹿な。あの子は私が泣いて頼めば聞いてくれると思います」

ヘルムートの言葉に私は言い張った。


「オリーヴィア、とりあえず、今日は部屋に帰って寝るんだ。一晩寝ればもう少し冷静に慣れよう」

「しかし」

「次女頭、皇后を部屋に連れ帰れ。じっくりと休養させるのだ」

「あなたでもそれでは……」

私はなおも言い募ろうとしたが、ヘルムートは首を振って次女頭たちに指示してくれたのだ。

誰も私の言うことなんて聞いてくれなかった。



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