エルフと過ごした、どこにでもある日々は。

戌井てと

まるで物語のような

 森にエルフが棲んでいました。


 エルフはとても長生きで、いろんなものを見てきました。


 ある時、自身によく似た人間に出会います。


 出会うのは初めてでしたが、本を読んでいて知識としては知っていたエルフ。


 どこから来たのか、行くあてもない人間を、エルフは一緒に過ごそうと提案します。


 魔法を自在に使うエルフ。人間がひとこと唱えれば、雨は降り、土を耕せることができました。魔法に近いことができるんだとエルフは人間と過ごすのが楽しくなっていきました。



 なーんて、文字読めないんだけど。絵があったから想像してみた。登場人物が笑ってるから、楽しく過ごしたんじゃない?

 割れた窓から入ってきていた光が、遮られる。


「何見てるんだ?」


 特徴的な耳に、いつも目がいく。エルフといえば長い耳。ついつい見てしまう碧い瞳。貴方から「ん?」と言われる前に応えなきゃ。


「境遇が似てるんです。物語とは思えないくらい」


 貴方は場所を移した、わたしの隣に座る。

 厚い本を開いては、読み始めた。

 自然の灯り、光がまた、先ほどと同じところを照らす。じんわり暖かくなってくる指先に、わたしは確かにここに居るんだと思わされる。

 アーチ型の窓、淡くぼやっと見える景色は、その時代の技術で造られたもの。


「僕との境遇?」

「貴方はエルフで、わたしは人間です。そして、魔法に近いことが出来てしまう」


 元いた世界から偶然持ってきていたスマートフォンを、ひび割れた地面に置く。そっと手を重ねた。


「充電中」


 そう声にすると、画面は充電中の表示となった。

 彼は一部始終を見ているのに、驚きもしない。こういった所作が、日常的なんだと思う。


「この絵本の結末を、貴方は知ってます?」

「気になるなら、自分で確かめろ」


 その通りなんだけど、あまりにも似てるから、描かれてることに近い出来事が起きてしまったらと考えるのが怖い。


 もう少しすればフル充電。


 割れた窓、落ちているシャンデリア、荒廃した図書館は、よく風が通る。まるで物語のような風景だけど、肌で得る情報は今ここに居る証。


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