第十話

それから数ターンが経過した頃、鈴香が口を開いた。


「そういえば、さ。ここって廃病院なんだよね」


「確かそうだったはず」


 俺はそう言って、【一攫千金のチャンス!】と、書かれた紙をポケットからだした。なにか詳しい情報は‥と。


「そうだな、どうやらここは元◯◯都立中央病院らしいし、廃病院で間違いないと思う」


 俺は手札のAを裏向けて出す。表にすれば案の定相手はQ。勝ちだ。


「んでさ、私もその病院についてスマホで検索かけたんだけどさ、驚くほど情報がないの。強いて言えばここが外科や消化器内科などの総合病院だったってだけで、なんで廃病院になったのか、そうなるまでになにがあったのか一切記述がないの」


「まぁ、そういうこともあるんだろ。気にし過ぎじゃないのか?」


 翔太が残り4枚の手札をしかめっ面しながら選ぶ。悩め悩め少年よ……。


「そして、もう一つ。もう一回確認するけど……ここって廃病院なんだよね。本当に廃病院なんだよね」


「なんだよ、その言い方。まるでこの紙に書かれてる情報が間違ってるみたいじゃないか。まさか、そんなこと ……」


 翔太がカードを選んだのを見て、俺はジョーカーを伏せる。このゲームにおいてジョーカーは切り札かつ重要なカード。ここで切るべきだ。


「そのまさか、よ。だって、いくら廃病院といえどシーツや布団、マットレスがあるなんておかしいもの。ついでにもう一つ。なんで、床に埃がたまってないの?」


「そりゃ、もちろん会場にするにあたってGMが掃除したんだろ」


 すると、鈴香の顔が険しくなる。


「……隅っこには埃溜まってるのに? ガラスも割れたまま、天井には蜘蛛の巣が張ってるのに?」


 そんなこと俺に言われたって知るかよ。


 でも俺にも思い当たる節があった。


 なぜ水道は通っているんだ? 


 あと、放送が流れていたことから電気も流れていることがわかる。歩いているときも普通なら埃が足跡となりそうだがなっていなかった。それどころかきれいに掃除されているようで……。



 廃病院なのに?



「……もしかして、誰かがこの廃病院を利用している?」


「それも表沙汰にできないようなことをやってる感じがするよねー」


 俺と翔太はカードを表にする。ジョーカー対A。ラストカードは三枚。俺はQを裏にし、伏せた。


「おねぇちゃん、おもてざたってなにー?」


 翔太の疑問に鈴香が丁寧に説明する。


「表沙汰っていうのはね……」


 その間に俺は頭の中で情報を整理する。


 よくよく考えりゃ、俺達は人体実験の被験者だ。今回のこの廃病院はたまたまこの場所になったんじゃなくって、誰かがこの場所にした? 人体実験の場所として?


「っていうことは、今までも人体実験でこの病院が使われてた……?」


 ひとつのピースが埋まった気がした。

 

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