第三話

 数分後、松尾凛と鏡鈴香は二階のとある部屋にいた。

 

 時計の針を確認すると、一時二十分を指し示していた。とりあえず、鈴香に座るように促すと凛も床に腰を下ろす。


「さて、これからどうする?」


 二人はこれからの作戦会議を行う。


「ちなみに、残り人数は30人だけど」


 これは、さっきのレーダーの反応の履歴を確認し、地道に数えた結果だ。その大半は一階で固まっているのだろう。あれだけの人数がいたのだから当然だ。


「とりあえず...レーダーが反応した時に、同じ場所にいる人間は同盟関係にあるとみていいと思う」


「もしそうじゃなかったらどうするの?」


「むしろ、そうじゃないほうがありがたいな。人数が減るんだから」


 なるほど、と頷く彼女に凛は疑問をぶつけてみる。


「そういえばさ、なんで俺を選んだんだ? 別に、他にもいただろうに」


 彼女は、微笑を浮かべながら答える。


「それはね、一番最初に一階のロビーから出た人だからだよ」


「なんで、それが判断材料になるんだ?」


「だって、これからどうなるか、咄嗟に判断して行動できないとそんなことって、できないでしょ?」


 なるほど、確かに味方にするなら賢い人物の方がいいのかもしれない。そう考えたとき、彼女の判断は決してまちがっていないだろう。


 気づけば、話している間に時間は刻一刻と過ぎていき短針は真下を指していた。


 「残り三十分か...」


 そうつぶやいた時、腹の虫が鳴く音がした。


 鈴香は「ちがう、私じゃない」と顔を赤らめて言う。鳴ったのは俺の腹の虫。よって、彼女は関係ないのだがこの反応だと彼女もお腹が空いているのだろう。


「なっ! そんな目で見るな。ダイエット中で食べる量減らしてるんだからーー」


 必死に弁解する彼女のためにも食料は必要だろう。疑わしいとはいえ、一応同盟関係なのだ。

 

 腹が減っては戦はできぬ、とも言うし、いざという時に役に立たないのは困る。


「屋上に行かないか?」


 そう誘うと彼女は、自分がしている腕時計の時間を確認し、その後肯定の意を示した。

 

 ーー鈴香は腕時計なのか。ちなみに俺のは首から下げるタイプの懐中時計、屈むと邪魔になるが仕方ないと内心諦めている...。


 この建物は六階が屋上となっていて、地下一階と合わせて七階建てとなっている。わざわざこの建物にしたのも「ラッキーセブン」ということだろう。しらんけど。


 屋上まで上がるのに、エレベーターを使うか話し合った結果、階段を使うことにした。理由は割愛させてもらうが、少なくとも満場一致でそう決まった。


 ...にしても、二階から六階まで上がるのは思っていたよりも大変だということを思い知った。前を行く彼女は足音も立てることなく、スイスイと進んでいく。


 自分は足音を立てずに歩くので精一杯だというのに。


「早くしないと、置いてっちゃうよー」


 彼女の声が階段に響いた。


 「馬鹿、静かにしろ」


 そう諭す間もなく、後ろから物音が聞こえる。慌てて振り返ると、そこには...




「なんだよ、誰もいないじゃないか…」


 スマホのライトを色んなとこに当てて探すが、特に姿は見えない。だとしたらさっきの物音は……


「とりあえず、もうちょっと慎重に進むぞ。さっきみたいな大声は禁止だ」


 呼びかける声に返事はない。彼女なりに静かにしようとしているのだろうか。


 目的地に向かって足を進めようと、数歩進んだ時、違和感に気づいた。……鈴香の姿はどこだ。


 踊り場までそんなに段数はないため、急いで駆け上がる。もちろん、そこにも、鈴音はいない。


 上の階に行ってしまったのだろうか。


 とにかく六階に行かなければ。そんな思いが足を前に進める。その時……。


「動くな! 両手を上に挙げて、静かに両膝を床につけろ!」


 突然の大声に思わず身体が後ずさると、背中に硬いものが当たっていることに気がついた。


「さあ、はやく!」


 焦る声に両手をゆっくり上に挙げる。


「そうだ。次は足を床につけるんだ」


 指示に従い、できるだけゆっくりと足を曲げる。


 声が少し高いからおそらく、少年だろうか。



 なんとか起死回生の策を考えなければ……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る