episode1:パティラボ

 ラインコドネラの胴体クエルポエリア。

 単星領ホームサイズスポットのひとつに、一軒の家がある。

 星領スタースポットの中には、小さな池とすっかり荒れてしまった畑、そのすぐそばに大きな鉄の箱のようなものがある。

 この家には、ひとりの学者が住んでいる。

 彼が調べているのは、粒子パティ

 惑星を含めた、この世界の全ての源と言われている物質だ。

 学者はいつも食事を済ませる後に、庭にある鉄の箱の中へと向かう。

 そこが彼の研究室ラボだ。

 箱の中には、灰色の砂のようなさらさらしたものが山を作っている。

 死素ポルポと名づけられた、いのちの輝きを使い果たした粒子パティだ。

 学者はそこから、新しい粒子パティを生み出せないかと、もう何十年も研究を続けている。

 しかし今日の学者は、どうも研究に集中できない。

 早々に切り上げて、学者は一旦部屋へと戻った。

 珈琲コーヒーを淹れながら、学者はテーブルの上にあるものに目を移した。

 それは、ヌーンアワーの間に届いた一通の手紙。

 20年以上顔を合わせていない、兄からの手紙だった。

 淹れたての珈琲コーヒーを飲みながら、学者は手紙にもう一度目を通す。

 文面によると、兄は重い病気を患ったようだ。

 容体はかなり重たいと書かれていた。



 学者は珈琲コーヒーを飲み終わると、読み終えた手紙を机の引き出しにしまった。

 そして再び、研究室ラボへ向かう。

 星領スタースポットの外は、完全なダークゾーンへと戻っている。

 次の大恒星の光が届くまで、星領スタースポットの外に出ることはできない。

 空から目を離すと、開けっ放しのラボの中から光が漏れていることに気づいた。

 不思議に思い、学者は慎重に研究室ラボの中を覗く。

 するとそこには、不思議な生き物が入り込んでいた。

 半透明の巨大な傘のような身体から、細長い肢が何本も生えている。

 その内の一本が、おもむろに足元に盛られた死素ポルポをすくい上げ、身体の中へ取り込む。

 すると、透けた身体の内を漂う死素ポルポに星の輝きが戻るのを、学者ははっきりと見たのだった。

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