ちょポ旅!
すずしろ たえ
プロローグ
東京から電車で二時間弱。
東武日光線 栃木駅に降り立った私は、初夏の眩い日差しに思わず目を細めた。
大きく伸びをして、電車に乗りっぱなしで少し硬くなった体を解す。
「よし」
足元に置いたバッグのファスナーを開けると、中から出てきたのは今日のためにピカピカに磨き上げた自転車だ。
一年前から旅のお供となった、折りたたみ式のミニベロ(小径車)である。
「今日もよろしくね、相棒ちゃん」
言いながら手早く自転車を展開し、輪行袋を片づける。
これに自転車を入れることで、通常であれば不可能な電車など公共交通機関への持ち込みが可能となるのだ。
これを輪行という。
おかげで観光地を愛車で楽に回れるから、私としては輪行さまさまといったところ。
ここ数年、各地でシェアサイクルが増えているけれど、全台出払って借りられなかったり、パンクやチェーン切れの物があったりと、あてにしていたのに乗れないということも経験した結果、思いきって観光用の折りたたみ自転車を購入したという次第。
いや、事前予約できるとこもあるんだけどね。
でも移動可能距離や利用時間が限られているなどの制限がある場合もあり、若干不便を感じることも。
あと純粋に予約の手間が面倒くさい。面倒くさがりなんだよね、私。
対して自分の自転車なら整備不良の心配がなく(日々のメンテは必須だけど)、さまざまな制限を気にせず気ままに観光できる。予約する手間も当然あるわけない。
というわけで購入した折りたたみ自転車。
BROMPTON M6Rが私の愛車であり、旅の相棒だ。
購入を決断した最大の理由は、私の推しメンカラーだったこと。概念推しグッズ。ミーハーでサーセン。
私にとっては清水の舞台から飛び降りるレベルのお値段。プライスを二度見したよね。
当然躊躇した。
だけど幸い(?)なことに、私には預金がそれなりにある。例の感染症が蔓延した影響で、趣味の旅行を随分我慢していたからだ。
主な趣味が推し活と旅行で、それ以外にはほとんどお金を使わない私がどこにも出かけられなかったのだから、そりゃあお金も貯まるって話で。
――ここ数年の旅行代を、今ここで支払ったと思えばよくない……?
そんなことを考えた瞬間、躊躇は一気に吹き飛んで、気づいたらレジに並ぶ私がいた。
というわけで手に入れたM6Rちゃんと、今日は『小江戸』のひとつ栃木市内を回る予定。
栃木市は初めてなので土地勘は一切ないけれど、スマホのマップアプリがあるから安心だ。
目的地を巴波川に設定して、スマホホルダにセットしたら、頭部プロテクターとサイクルグローブを装着。
これで準備完了!
「よーし、行きますか!」
M6Rに跨った私は、勢いよくペダルを漕いだ。
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