永遠の翠玉

堕なの。

永遠の翠玉

 彼女は翠玉色の瞳から流れた涙を拭きとった。そして一言、貴方の瞳を頂戴、と言った。


 彼女は魔女だった。彼女は永遠の命を持っていた。故に彼女は孤独のみを愛していた。長くを生きた彼女に嫌いなものは余りなかった。大概のものは自分より早く死んでしまうからだ。唯一あるとすればトマトだろうが、食べなければ済む話なので、矢張り其れも些末な事だった。

 そんな彼女に、もう一つ嫌いなものが出来た。其れが翠玉色の瞳だった。何百年も生きて漸く、この翠玉色の瞳が自分が生き永らえる事になった原因だと分かったのだ。そうと分かれば目をくり抜こうと思ったが、体が其れを拒絶した。ほとほと困り果てた彼女は、別の魔女を頼ることにした。

 百を過ぎた知り合いの魔女は、その話を聞くと、何だそんな事、と言って笑った。其の魔女曰く、特殊な目をくり抜くことは殆ど不可能に近く、人間と其の目を交換する事しか方法はないらしい。彼女は喜んだ。これで永遠を終わらせられる、と。

 彼女は人の街に降りた。自分の目が馴染みそうな人間を探した。もし適当な人間に渡して、馴染まなくて帰ってきたら最悪だからである。人は自分達とは違うものを排除する事に拘る。何度も繰り返し行われる魔女狩りによって、多くの同胞は苦しみながら燃えていった。彼女の場合は死ねないのだから、永遠に燃やされ続ける事になる。其れだけはどうしても避けたいところだった。

 そうして街の中で、一人の男に目をつけた。彼女との親和率が非常に高く、真面目な男だった。彼女は仕事終わりの男の後をつけた。男が路地裏に入り彼女が話しかけようとした瞬間、男は泣き崩れた。其の口から零れるのは、愛した女の元へ早く行きたいというものだった。彼女の目から、僅かばかりの涙が零れた。女は此の男に、勝手に自分と同じ地獄を背負わせようとしたのだ。本来彼女は、其れを良しとする程腐った性根は持ち合わせていない。だが、其れ以上に彼女は之以上生きるというイメージが沸かなかった。

 彼女は翠玉色の瞳から流れた涙を拭きとった。そして一言、貴方の瞳を頂戴、と言った。

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