5 獣の頭蓋骨の骨

 獣の頭蓋骨の骨


 獣の頭蓋骨の骨をホラーはじっと見つめていた。

 欲しいと思った。でも、結構値段が高い。簡単には買うことのできない高級品だった。でも数ある獣の頭蓋骨の中で、その少し小さめの獣の頭蓋骨は、なぜかホラーの心を強く惹きつけた。

 小さなきっと子供の獣の頭蓋骨の骨。性別はたぶん女の子だろうと思った。(丸みを浴びた形など女性的な特徴をその骨は持っていた)

 もうかれこれ一時間くらい、ホラーはその獣の頭蓋骨の前に立って、その骨を買おうかどうか悩んでいた。(あまりにた迷っていたので、影は呆れて違うお店に買い物に行ってしまった)

 ホラーは悩んだ挙句、その獣の頭蓋骨の骨を購入した。

「人間の関係性はとても薄くて脆い。どんなに有効な関係性でも、その関係性はたった一晩で、いや一言でも崩れ去ってしまうような砂の城のようなものだ。その関係性はお互いの努力と努力によって成り立っている。その努力をどちらかがやめてしまえば、関係性は維持できなくなってしまう。あっという間になくなって、人間は孤独になる。一人になるのだ。それが関係性だ。だんだんと薄くなり、遠ざかっていく。温かいものから冷たいものへと、熱が移動するように、冷えて固まっていく。閉じていく。動かなくなる。痛くなる。そんな悲しいものが関係性の正体なのだ。人間たちはそんな関係性をとても大切にしている。関係性のために勉強して、関係性のために働いて、関係性のために生きている。それが人間の正体なのだ」

 街の中心の広場で道を歩くたくさんの人たちに向かってそんなことを演説している老いた白髪の老人がいた。

 その老人の言葉をホラーは群衆に混ざって、少しの間、両手の中にさっき買ったばかりの獣の頭蓋骨の骨を抱きしめながら、真剣な目をして聞いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る