花の散るらむ

ちくわ書房

七日前

「見て欲しい物がある」

 夕食を終えた卓袱台。食器を片付けた妻に、一枚の紙を見せた。

「これでどうだろうか」

「……貴方が考えたのなら最善だよ」

 そっか、もうか……と部屋を見渡し、呟く。住み始めた頃よりも殺風景。この一週間を過ごすのに必要な物しか存在しない部屋。

「こんな紙切れで今後の事が凡て決まるなんてね」

「でもそうしなきゃ私達の想いは尊重されない。今どき、延命するかしないかすら紙切れが効力を発揮するのよ?」

 僅かに震える手。より関係を示す手に手を重ねた。「大丈夫、私が居るから」頷きはするが、嗚咽。

「母様に会っても善い?」

「勿論」

 抱きしめてやると、そのまま、声を上げて泣く。目の前に迫るものへの、恐怖か、後悔か。

「卯羅」

「治さん、絶対一緒に居て?」

「その為にするのだから」

「離れないで」

 積もる不安から逃れようと、私に抱き付く。彼女の髪を指に絡めて遊ぶ。

「永遠に結ばれよう」

 もう思い残すことはない。一番欲しい人と、一番身近な関係、守り抜ける関係、それになれたのだから。

 そして、今日まで二人で歩んだ。

 歩んだ。

 歩んだんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る