第19話 おっさん、蘊蓄を語る②

「お次は室内清掃だが、初級魔術との合わせ技で面白いことができる。見てて」


 ヨルダはまた魔法を組み込んだ。

 今度は縦に三つ並べる形で連結していく。


 【ーー】【乾燥】【ーー】

 【ーー】【風刃】【ーー】

 【ーー】【乾燥】【ーー】


 魔法式を発動すると、頭上に一気に室内のゴミがかき集められていく。

 集まったゴミを【水球】でまとめてから裏庭に捨てた。

 中途半端に井戸に流せばつまりの原因だ。

 しかし土に返せば分解されていくのを利用したのだ。


「すごいな、これは。まずは待機状態の維持をできるようにするのが先決か」


「俺にはできないことだからな、魔法使いっていうのはみんなこんなことができるんだろ? すごいよなぁ」


「いや、普通はできない。だからこそ冷遇されるんだ」


「できたところで実践で使えるか? っていってくるのが【放射】もちの連中だな」


「本当にな。あいつらは魔法バカだから。自分の地位が揺らぐ存在に対して厳しいんだ」


「じゃあヨルダがこれだけ使えるって知られないほうがいいのか?」


「別に知られてもいいよ。向こうのお得意の妄想でなかった事になるだけだし」


 どうも毎回のことのようだった。


「さて、本日の仕事に対しての評価を欲しいね。色は期待してもいいんだろうか?」


「満点だバカやろー」


 ワイルダーは上機嫌で洋一の背を叩いた。


「だからこそ数日しか雇えないのが惜しい。持っといてくれてもいいんだぞ? なんだったら正規で雇うし」


 洋一は嬉しい誘いだと理解しながらも首を振った。

 オリンを探しに行かなければならないからだ。

 ヨッちゃんの目処は立った。

 向こうへの接触を図るには面倒な貴族との


「探してる人がいるんです。腰を落ち着けるのは、その後ですね。その時にまたよったらお世話になっていいですか?」


「いつでも来い。あんたぐらいの腕前なら、どこでも引っ張りだこだろ。だからこそ手放すのも惜しいんだ」


「まぁ、まだ一日目ですし。期間内でよければテクニックなんかを教えますよ? 今日のような上客は早々来ないんでしょう?」


「そうだなぁ、普段は酒場で、ああいった貸切の時にコース料理なんかを出す。仕入れが大変なんだが、それが揃った時はこっちから声をかけるのさ。何かと秘密裏の話し合いをしたい貴族は多いもんだ」


「先ほどのお客様も?」


「国のお偉いさんだからな。何かと頭を悩ます相談事が多い。その時に、うまい飯を食べて疲れを癒すのがウチ流だ」


 ワイルダーが胸に親指を指して自慢気に言った。

 ティルネに比べてこちらは真っ当に生きてきたのだろう。

 貴族の街の端っこで、店を構えられてるだけはある。


「そんな大事な場でオレの料理なんて出しちゃってよかったんです?」


「謙遜すんなよ、あんたのだから場を整えたんだ」


 再度背を叩かれる。

 どうやら相当気に入られたようだ。

 まだまだ会話は続けたいところだが、両者の腹が悲鳴を上げる。


 流石にぶっ続けで働きすぎだ。

 深夜テンションのまま翌日を過ごすには腹ごしらえが必要だった。

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