第17話 おっさん、若く見られる④

「まぁ、ヨッちゃんが無事ならそれでいいか。今は無事を確認できただけでも収穫だ。あとはオリンだな。あいつが今どこにいるかが心配だ」


「オリンって、どんな子?」


「うーん、オリンはベア吉と同じようなモンスターでな。スライムの形をしている」


 洋一はオリンについての説明を始める。

 

「キュウン?」


 ベア吉を例えに出したら、即座に反応が返ってきた。

 こらこら、この街はモンスターの連れ歩きが禁止されてるんだから顔出しちゃだめだぞー?

 カバンを上から撫であげて、ウインナーを二個ほど放る。


「キュウン!」


 嬉しそうにガツガツ食べ始めた。

 これで少しはおとなしくなるだろう。


「と、話がズレたな。オリンはなんというか、スライムであってスライムじゃない。あくまでもスライムの体を借りてる別の生命体だ」


「精霊、みたいな?」


「それが近いかな? 本人はダンジョンコアでな。契約した相手のもとにモンスターの姿で分身を送る存在だ。今は分体か、果たしてコアその物がこちらにきているかの判別はできないが、どこかでダンジョンが現れたらそのうちの一つがオリンだな」


「ダンジョンですか? 世界中にありますが」


 アトハの説明に、だろうなという答え。


「だから探すのが厄介なんだよ。誰かと契約していた場合、俺と縁を切ったということになる。そういった場合の対処法は何が適切なのか、俺には量りかねる」


「そのオリンを見つけたら、師匠はどうするの?」


「可能であれば前いた場所に戻りたいと思っているが」


「やだ、まだオレ師匠から教わってないこといっぱいあるよ!」


 途端に子供みたいに暴れ出すヨルダ。

 がっしりしがみついて、涙目を浮かべてる。


「俺もなぁ、この世界の食事を食べ尽くしてないからな。見つけてもすぐには帰らないと思うから安心してくれ。単純にオリンを見つけたいのは便利だからなんだ」


「便利と言いますと?」


「街から街への移動が一瞬になる」


「それは魔法的な?」


「俺もよくわからんが、エネルギーがどうだのと言っていた。俺の作る飯が、そのエネルギーを稼ぐのに最適だともな。それで契約を結んだわけだが、今や行方知らずでな」


 話を聞いていたアトハはにわかには信じられない、突拍子すぎる話だと理解する。


「まぁ、欲しい機能はそれではなくてな。あいつはモノを腐らせずに無限に持てるし、俺の私物のほとんどをあいつが持ってるからなんだ。それを手に入れて、本来の俺の料理をみんなに披露したい、それだけでさ」


「そっちをどうでもいいっていうのは、後にも先にも多分師匠だけだと思うぞ?」


「そうかー?」


「恩師殿らしいと言えばらしいですが」


「普通は戦略級の魔法です。各国が欲しがるでしょう」


「欲しがったとしても、あいつは隠れるのがうまいからな。それに、求めるエネルギーを増幅させる要因がない限り、首を縦には振らんだろう」


「師匠クラスの料理上手? だめだ、思いつかねぇ」


「俺もなんで好かれたかいまいちよくわかってないんだよ。それ目当てで俺を拐かす相手も出てくるだろうが……」


 さっきの盗賊の比ではない連中、ましてや国が狙ってくるかもしれないと脅かす。

 しかしヨルダは洋一と一緒に生活してきたからこそ理解している。


「ワンパンで神話級ミソロジーを倒せる相手に喧嘩を売れるかって話か」


「すまない、今なんと?」


 アトハは理解が追いつかない顔。

 ティルネはここにくるまでに討伐対象を害獣駆除くらいの手軽さで屠ってみせた師の実力を疑ってない。ヨルダに至ってはジェミニウルフすらワンパンだったので、すっかり信用し切っていた。


「ああ、師匠とは禁忌の森で出会ったんだ。そこで真っ赤な毛皮のツノの生えたクマと遭遇して、鍋の具材にしたって聞いた時は理解が追いつかなかったんだ」


「ただの出まかせではなく?」


「その毛皮を飾るだけで伝説級レジェンダリーが寄り付かなかった時点で本物」


「話には聞いていたが、ただの料理人と名乗るのは無理があるのでは?」


「俺はただの料理人として振る舞ってるだけだよ。そこにどんな噂の尾鰭がつくかはどうでもいいかな」


「多分人類最強兵器とか言われると思う」


「大袈裟だなぁ」


 ヨッちゃんのこと、オリンのことを話して、洋一はこれからの目標のなんらかを再確認する。


 全員揃っても、すぐには帰らずに少し世界を回って歩くか、ぐらいに考えた。

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