藤本要の独壇場④
名前を呼ばれたので前に出るヨーダ。
そして詠唱したのは初級魔法の【火槍】だった。
「おいおい、最後のSクラス生は随分とパッとしない魔法を使うじゃないか」
周囲の生徒たちは先ほどまでの大魔法が出てこないことにやじを飛ばす。
「あら、この程度? がっかりさせないでくださいましね?」
「君はやる男だと聞いている。Sクラス生に恥じない成果をあげてくれよ?」
紀伊だけでなく、ロイドまでも無茶振りをする。
ここで披露するつもりはなかったが、仕方ないかと術式を破棄。
「オレは優しいからみんなに圧倒的さを見せつけたくなかったんだが仕方ない」
ヨルダは杖を後ろに放り、その場で指を鳴らした。
ただそれだけ。
静寂が試験会場に響く。
「おいおい、なんだそれは! だったらさっきの【火槍】の方……が?!」
最初こそ笑い出したAクラス生。
オメガと同様に中級魔法を使い、それなりに賞賛を浴びていた。
だからこそ、ヨーダの場所をあけ渡せと強気だった。
しかし徐々に全貌を明かし始める待機状態の【火槍】が生徒にも見えるように展開されていく。
「悪いな、審判次の的を用意しといてくれ」
パチン。
指を鳴らすとそれが一斉に的に向かって放たれた。
ズドドドドドドドドッ!!
一発一発はただの【火槍】。
しかしそれが数十、数百、数千ともなれば?
終わらぬ猛攻についには的が悲鳴を上げるように砕かれた。
それでも一度放たれた【火槍】は的を砕き続け、ついには会場の床も穿ち破壊し尽くした。用意するのは的だけでは無くなった。
審査員はさっきまで薄ら笑いえを浮かべていた己を律する。
「悪いな、ベイビー。Sクラスの椅子は安くねーんだ。オレから奪い取りたかったら、いつでも挑戦を受け付けるぜ?」
「「「「「な」」」」」
なんじゃそりゃーーーと会場全体が湧く。
オメガですらその数の【火槍】の同時展開を見たことがなかったからだ。
「お前、そんな数ストックできたのか? 僕との模擬戦では手を抜いていたな!?」
「準備が必要なんだよ。お前みたいにパパッと用意は出来ないんだ」
「だとしてもだ! 僕は今憤りを覚えているぞ!」
あの冷戦沈着なオメガが顔を真っ赤にして怒っている。
そんな姿を初めて見るロイドは、とんでもない相手が護衛についたなと言う感想を思い描く。
そして紀伊も。
まさかこれほどまで!? と瞬きをした。
近接では膂力で上回る自信がある。
それを補う中・遠距離の符術。
しかし近接戦であの手数で来られたら敵わない。
最初はこんな軽薄なやつが護衛だなんてノコノサートも耄碌したものだと軽蔑したものだ。
しかし蓋を開けたらこれ以上ない采配。
見た目で判断して勝手に隠した扱いした紀伊の見る目がなかっただけだと露呈した。
「なーんか。仲間からやたら敵対視されてるけど、気のせいかね?」
気のせいではない。
自分に迫る、どころか追い越している実力者を前に、皆が投資に火をつけた形だった。
そんな気配を感じて「だから本気は出したくなかったんだよなぁ」と溢した。
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