Webの向こう側で見た夢

藤澤勇樹

Webの向こう側で見た夢

30歳のビジネスコンサルタント、遠山翔太は高給取りの仕事をこなしていたが、心のどこかで空虚さを感じていた。


毎日、クライアントの要望に応えるだけの日々に、彼は情熱を見出せずにいた。


「こんなはずじゃなかった」

と呟きながら、オフィスの窓から夕焼けを眺める翔太。


彼の脳裏には、学生時代に夢見た

「自分の手でイノベーションを生み出す」

という理想が去来していた。


「何か違うことをしたい。でも、何をすればいいんだろう…」

翔太は溜息をつきながら、パソコンに向かい合う。するとふと、学生時代の友人から届いたメールが目に留まった。


「翔太、久しぶり!今度、Webアプリのハッカソンがあるんだけど、興味ない?」


その一文が、翔太の人生を大きく変える転機となることを、彼はまだ知る由もなかった。


◇◇◇


翔太は何となく興味を惹かれ、友人に誘われるままWebアプリのハッカソンに参加することにした。


会場に到着すると、若い参加者たちのエネルギーに圧倒される。


参加者たちは、自由な発想で次々とアイデアを出し合い、それをWebアプリという形で実現していく。


「こんな世界があったのか…」

目の前で繰り広げられるダイナミックなものづくりの現場に、翔太は釘付けになった。


翔太は、積極的にチームに加わり、アイデアを出し、"街の商店街を活性化するクーポンをQRコードで発行するWebアプリ"をプロトタイプだが、完成させることができた。


Webの技術を使えば、ビジネス的な課題解決や新しい価値の創出が自由自在だということを、身をもって体感した瞬間だった。


「俺も、こんな風にアイデアを形にしてみたい」


ハッカソンを通して、翔太はWebアプリの面白さと可能性に心を奪われた。


◇◇◇


ハッカソンから帰路につく翔太の脳裏には、Webアプリの世界に飛び込んでいく自分の姿をイメージしていた。


「もしかしたら、俺にも新しいことができるかもしれない」

そう思った翔太は、Webエンジニアへの転身を決意する。とはいえ、プログラミングの知識はゼロ。一からスキルを身につける必要があった。


「YouTubeで勉強しよう。それから、Udemyでもっと本格的なコースを受けるんだ」

翔太は心に誓うように呟くと、早速学習の計画を立て始めた。


「遠山、新しい案件の資料まとめておいてくれ。明日の10時までに」

上司の指示を受けながら、翔太はこっそりとプログラミング学習のサイトを開く。


「今の仕事も頑張りつつ、少しずつでもプログラミングを学んでいこう」

そう心に決め、翔太はプログラミング学習への第一歩を踏み出した。


彼の眼差しは輝いていた。


◇◇◇


翔太は昼間はコンサルタントとして働きながら、夜と休日はプログラミングの学習に没頭する日々を送っていた。


会社で難しい顧客対応をした後、帰宅して一息つくと、すぐにパソコンに向かう。


「今日はHTMLとCSSを復習して、JavaScriptの基礎を進めよう」

翔太はノートに学習計画を書き出し、コーヒーを淹れる。


眠気と戦いながらも、コードを書くことに喜びを感じていた。


徐々に、シンプルなWebサイトを自分で作れるようになってきた翔太。


「少しずつ成長している気がする。このままいけば、いつかWebアプリも作れるようになるはず」


その想いを胸に、翔太は学習を続けた。


休日には一日中カフェに籠もって、プログラミングに没頭することもあった。


「遠山さん、最近お疲れですね。何か新しいことに挑戦しているんですか?」

同僚からの問いかけに、翔太は少し照れくさそうに笑みを浮かべる。


「いや、ちょっとプログラミングを勉強してみているんです。新しい世界が広がっている気がして」

その言葉に、同僚も興味を持ったようだった。


◇◇◇


しかし、学習を進めるうちに、翔太は次第に壁にぶつかるようになっていった。特にWeb APIの扱いやデータベース設計など、独学では理解が難しい分野で行き詰まってしまう。


「こんなところで挫折してたまるか。でも、どうすればいいんだ…」

夜中まで格闘しても、エラーが解決できない日が続いた。


翔太は疲れ果て、プログラミングへの情熱が薄れていくのを感じていた。


「俺には無理なのかもしれない。才能がないんだ」

そんなネガティブな考えが頭をよぎり、翔太はため息をつく。


会社でも上司からのプレッシャーが増し、心身ともに疲弊していた。


ある日、会社の同僚が翔太に話しかけてきた。


「遠山さん、最近元気ないですね。プログラミングの勉強、大変そうだけど、諦めないでくださいね」

優しい言葉に、翔太は驚きつつも救われた気持ちになる。


「そうだ、俺にはまだ諦める理由がない。一人で抱え込まずに、仲間を頼ればいいんだ」

翔太は心を入れ替え、再びプログラミングに向き合う決意を固めた。


◇◇◇


「一人で悩みを抱え込まないことだな」


翔太は、プログラミングコミュニティサイト「teratail」に登録し、自分の直面している問題について質問を投稿した。


すると、すぐに経験豊富なエンジニアたちから丁寧な回答が寄せられる。


「なるほど、この部分が理解できてなかったんだ。助かりました!」

翔太は、彼らとのやり取りを通じて、少しずつ技術的な壁を乗り越えていった。


さらに、勇気を出して都内で開催されているITの勉強会にも参加するようになった翔太。


「connpass」で気になるイベントを見つけては、仕事帰りに会場に向かう。


「初めまして、遠山と申します。プログラミング初心者なんですが、よろしくお願いします」

緊張しながらも、翔太は参加者に自己紹介する。


すると、意外にも温かく迎え入れてくれるエンジニアが大勢いた。


「遠山さん、私も最初は全然わからなかったよ。一緒に頑張ろう!」

「この本がオススメだよ。遠山さんならすぐ理解できると思う」


先輩エンジニアたちからの心強い言葉に、翔太は感謝の気持ちでいっぱいになる。


勉強会後は、みんなで飲みに行くこともあった。


「本当に、いろんな人に助けられているなあ」


帰り道、翔太は心の中でつぶやいた。かつての孤独な学習とは打って変わって、今は仲間たちと共に成長できている。


そのことが、何よりも彼の心を励ましていた。


◇◇◇


勉強会での出会いをきっかけに、翔太のプログラミング学習は加速していった。彼は、"OpenAI APIを使った画期的なWebアプリのアイデア"を思いつき、実装に取り組み始める。


「小説の文章と画像をAIで自動生成して投稿できるWebアプリ。

こんなWebアプリ、絶対に面白いはずだ!」


仕事の合間を縫って、翔太はコードを書き続けた。


トラブルに直面しても、teratailで質問し、勉強会で知り合ったエンジニアに助けを求めながら、一歩ずつ前進していく。


そして数ヶ月後、ついに、そのWebアプリが完成した。


「よし、このWebアプリが自分のポートフォリオになる。

これを武器に、転職活動を始めるぞ!」


翔太は、出来上がったWebアプリを前に、希望に胸を膨らませた。


初めての技術面接では、緊張のあまり思うように自分の実力をアピールできなかった翔太。


「くそっ、あそこであのように答えればよかった…」

悔しさをバネに、彼は面接のフィードバックを真摯に受け止め、学習を重ねる。


「遠山さん、今日の面接練習の受け答え、良かったよ。

きっと良い結果が出ると思う」


練習に付き合ってくれた先輩エンジニアに励まされ、翔太は心強さを感じていた。


「今の自分なら、ITエンジニアとしてやっていける。」

そう確信した翔太は、さらなる高みを目指して転職活動に臨んだ。彼の新天地は、もう目の前に広がっていた。


◇◇◇


転職活動を続ける中で、翔太はとあるAIスタートアップ企業から内定を受けた。


その会社は、革新的なアイデアと最先端の技術力で注目を集めている企業だった。


「うちではあなたの挑戦的なマインドを高く評価しています。ぜひ、一緒に世界を変えるサービスを作りましょう」

最終面接で、CEO直々にそう言われた時、翔太の心は大きく揺れた。


「これは夢のような内定だ。でも、本当に自分にできるのだろうか…」

経験の浅い自分が、そんな先端企業で通用するのか。


翔太の脳裏には、不安が渦巻いていた。


一方で、「自分の手でイノベーションを起こしたい」

という思いが、翔太の心の奥底で燻っていた。


「ここなら、自分のアイデアを形にできる。

この情熱を信じてみるべきなのかもしれない」


内定への期限が迫る中、翔太は思い悩んだ。


コンサルタントという安定を取るべきか、それともITエンジニアという夢に賭けるべきか。


彼は、散歩に出かけては一人考え込むことが増えていった。


「遠山さん、どうしたの?」

公園のベンチで頭を抱える翔太を、親友の真理子が心配そうに覗き込む。


翔太は彼女に相談し、葛藤を打ち明けた。


「翔太らしくないね。いつもは直感で突き進むくせに」

真理子はクスリと笑い、続ける。


「翔太さんの情熱を私は応援したい。だって、そういう君の姿が一番かっこいいもの」


親友の言葉に、翔太は目が覚めたように立ち上がった。

「そうだ、俺は情熱の赴くままに生きると決めたんだ。悩むのはもうやめだ」


◇◇◇


「お待たせしました。御社からの内定、私は承諾します。」

翔太は、CEOに力強く答えた。


「どうか、これからよろしくお願いします。

自分の情熱を存分に注ぎ込む所存です」


「素晴らしい。

君のようなチャレンジ精神あふれる人を待っていたんだ。

一緒に世界を驚かせようじゃないか」

CEOは満面の笑みで翔太の手を取り、力強く握手した。


「本当に、これで良かったのかな…」

入社が決まった翌日、翔太はベッドの上で天井を見つめていた。未知の世界に飛び込む不安が、改めて胸をよぎる。


「でも、後悔はしたくない。精一杯頑張るしかないんだ」

そう呟くと、翔太は身を起こした。


「遠山さん、次の職場でも活躍してください。おめでとう!」

最後の出社日、同僚たちが翔太の門出を祝福してくれた。


「みんな、今までありがとう。これからは違う場所で頑張ります」

翔太は、感謝の気持ちを込めて一人一人と握手を交わした。


「さあ、夢への第一歩だ」

退社の手続きを全て終えた翔太は、春の陽気の中、軽やかな足取りで歩き出した。


胸の内では、新天地への期待と不安が入り混じっていたが、彼の瞳は希望に満ちていた。


「俺は、前を向いて突き進むのみ」

そう自分に言い聞かせ、翔太は未知なる世界へと一歩を踏み出した。


◇◇◇


AIスタートアップ企業での出社初日、翔太は期待と不安を胸に社内に一歩踏み入れた。


「遠山さん、ようこそ!」

人事部の女性が、ニコやかに彼を出迎える。


そこには、個性豊かな面々が集まっていた。


「よろしくお願いします!一緒に頑張りましょう」

翔太は精一杯の笑顔で挨拶したが、内心では怖気づいていた。


「みんな、すごく優秀そう。自分なんかが太刀打ちできるのかな…」


初仕事として渡されたのは、"自然言語処理を用いたレコメンドWebシステム"の開発だった。


「え、いきなりこんな大役を?」

チームリーダーの説明を聞きながら、翔太は戸惑いを隠せない。


「遠山さん、大丈夫です。あなたなら必ずやってくれると信じています」

リーダーに励まされるが、翔太の不安は増すばかりだった。


プロジェクトが進むにつれ、翔太のスキル不足が露呈し始める。


「すみません、ここの実装がうまくいきませんで…」

同僚に助けを求めることが増え、焦りと恥ずかしさでいっぱいになった。


「みんなに迷惑をかけている。このままじゃ、クビになっちゃうかも…」

深夜のオフィスで一人、モニターに向かう翔太。

目の前のコードと、心の中の不安が絡まり合い、彼を苦しめていた。


◇◇◇


「遠山さん、ちょっといいですか?」

数週間後、リーダーに呼び出された翔太は、身構えていた。


「どうせ、クビ宣告だろう。覚悟は決めている」


しかし、リーダーの口から出たのは予想外の言葉だった。


「最近の遠山さんの頑張り、見ていましたよ。

問題解決のために、必死で学習する姿勢が素晴らしい。

チームメンバーも、その姿勢をとても評価しているんです」


「え…?本当ですか?」

翔太は目を丸くする。自分の努力が、周りに認められていたなんて。


「遠山さんの強みは、学習意欲の高さと粘り強さだと思います。その力を存分に発揮してください。応援していますから」

リーダーの言葉に、翔太の心に灯りがともった。


「そうか。周りは、俺の努力をみていてくれたんだ。諦めなくて良かった。」

涙を浮かべながら、翔太は奮起した。


翌日から、翔太は新たな決意で仕事に取り組んだ。


「ここが分からないから、先輩に教えを請おう」


「この機能、もっとこうしたらユーザー体験が良くなるんじゃないか。

提案してみよう」


チームメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、自ら改善案を出す翔太。


彼の姿勢は、周りから好意的に受け止められた。


そして迎えた、"自然言語処理を用いたレコメンドWebシステム"のリリース日。


「遠山さんのおかげで、素晴らしいサービスが完成しました。あなたはもう、立派な戦力です」

リーダーに称賛され、翔太は感極まった。


「自分の居場所が、ここにあったんだ」

チームのみんなと笑顔で乾杯する翔太の表情は、充実感と喜びがあふれていた。


◇◇◇


「遠山、君に特別なプロジェクトを任せたい」

ある日、CEOが真剣な面持ちで翔太を呼び出した。


「カスタマーサポート業務をAIチャットボットによって効率化する。

これは我が社の未来を左右する一大プロジェクトだ。

君なら必ずやってくれると信じている」


「え、私がプロジェクトリーダーを…?」

突然の抜擢に、翔太は戸惑った。まだ駆け出しのエンジニアの自分に務まるのだろうか。


しかし、CEOの言葉が彼の背中を押した。


「遠山さん、君はこの数ヶ月で飛躍的に成長した。

技術力はまだ不安があるが、コンサルタントの経験を活かしたプロジェクトの計画力と周りを巻き込む推進力が備わっている。

私は、君の可能性を信じているよ」


「やります!必ず成功させてみせます!」

翔太は、CEOの期待に胸を熱くした。自分への信頼に応えるため、全力を尽くすことを誓った。


プロジェクトが始動してからの数ヶ月間、翔太は休む間もなく働いた。


AIチャットボットのアルゴリズム設計、大規模なデータ解析。


難題が次々と彼に襲いかかったが、仲間と協力し、一つずつ乗り越えていった。


「ダメだ、こんな単純なルールじゃ自然な会話はできない。もっと高度な自然言語処理のモデルを使わないと…」

深夜、一人オフィスに残る翔太。


目の下にクマができ、疲労は頂点に達していたが、彼の情熱は尽きることがなかった。


「遠山さん、無理しすぎないで。たまには休んだ方がいいよ」

同僚たちが心配するが、翔太は首を振る。


「みんなが頼ってくれている。ここで止まるわけにはいかないんだ」


そうして迎えたリリース当日。


「CEOをはじめ、社内の皆さま。ただいまより、私たち開発チームが手がけたAIチャットボットをご覧に入れます」

翔太は、大勢の前でプレゼンテーションを行った。


「これが、我が社が提案する新しいカスタマーサポート業務の形です」

堂々と話す翔太の姿に、社内からは大きな拍手が沸き起こった。


AIチャットボットは見事に機能し、カスタマーサポート業務の効率化に大きく貢献することが期待された。


プロジェクトの成功で、翔太はチームメンバーから一気に信頼を勝ち取った。


「遠山さん、あなたについていけば間違いないって、みんな口を揃えて言ってたよ」

リーダーシップを発揮した彼に、同僚たちは心から称賛の言葉をかけた。


◇◇◇


「遠山、君のおかげでこのプロジェクトは大成功だ。

本当に素晴らしい働きぶりだった」

CEOは満面の笑みで、翔太の手を握りしめた。


「次のステップとして、君には新規事業部の部長を任せたい。

どうだ、やってくれるかい?」


「部長…ですか。光栄です。」

翔太は感極まり、言葉に詰まった。


「こんな日が来るなんて、夢にも思いませんでした。

私、精一杯頑張ります!」


昇進の知らせを受け、翔太はしばし我に返った。


「Webアプリの向こう側で、新しい世界が広がっている。そこで自分の夢を叶えたい…」

あの日、漠然と思い描いていた未来が、今は現実のものとなっている。


「ハッカソンで出会った"驚きと興奮"を、今度は自分が生み出す番なんだ」

チーム全体を率いる立場となった翔太。その責任の重さに、彼は身の引き締まる思いだった。


「でもこれは、私一人の力じゃない。

プログラミング学習を共にした仲間たち、支えてくれた同僚たち。

みんなのおかげでここまでこられた」


翔太は、これまでの歩みを支えてくれたすべての人に感謝の気持ちを馳せた。


「俺、ITエンジニアになれて本当に良かった。この仕事こそ、自分の天職だ」

心の底から、そう思えた。


新たな部長としての仕事が始まる日の朝。


「Webの向こう側で、俺の人生は変わった。

これからもこの世界で、精一杯生きていくんだ」


翔太は、きりりとスーツに袖を通した。


まだまだ若い彼の人生。


エンジニアとしての物語は、新たな一章を迎えようとしている。


(完)

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Webの向こう側で見た夢 藤澤勇樹 @yuki_fujisawa

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