魏志の残照 ~奴国の戦士~
ケニ
運命の出会い
舞台は弥生時代、倭国のひとつである奴国。ここは、海人族と天孫族が共存する平和な国であった。しかし、近年、奴国の王・クニノミコトの強権的な支配が強まり、特に海人族に対する圧政が厳しさを増していた。
そんな奴国に、ひとりの勇猛な戦士がいた。名はタケヒコ。20代前半の精悍な青年である。彼は、海人族の血を引いており、奴国の地下組織「海虎(うみとら)」のメンバーとして活動していた。
ある晴れた日の午後、タケヒコは仲間からの密かな依頼を受け、海人族の村を訪れていた。村は那珂川のほとりにあり、穏やかな川面には漁をする小舟が浮かび、岸辺では子供たちが笑いながら遊んでいる。
「タケヒコさん、ようこそ! 我々海人族は、いつもあなた方に感謝しているよ」
丸太で組まれた船着き場で、年老いた漁師がにこやかにタケヒコを迎えた。
「おじさん、こんにちは。今日はいい天気だね」
タケヒコは爽やかな笑顔を老漁師に向ける。彼の瞳は、海のように深く澄んでいた。
「ああ、絶好の漁日和だ。さあ、村の中に入ろう。皆、あなたのことを待っている」
タケヒコは老漁師に案内され、村の中心部にある大きな竪穴建物に入った。そこは海人族の大切な祭祀が行われる場所であり、神聖な雰囲気に満ちていた。
建物の中央には、1人の少女が佇んでいた。10代後半ほどの年齢で、黒髪が美しく、神秘的な雰囲気を纏っている。彼女は海人族の巫女・カヤであった。
「タケヒコ様、お待ちしておりました」
カヤは柔らかな声でタケヒコを迎える。その声は、波の音のように心地よく、タケヒコの心を揺さぶった。
「カヤ様...」
タケヒコは思わず息を呑んだ。彼は、地下組織の活動を通じてカヤの存在を知っていたが、直接会うのは初めてだった。
「タケヒコ様、こちらへ」
カヤはタケヒコを建物の奥にある祭壇の前に導いた。そこには、海神を祀るための祭具が整然と並べられていた。
「今日は、あなたに私たちの神様をお見せしたいと思います」
カヤはそう言うと、祭壇の前に置かれた銅鏡をタケヒコに渡した。それは、奴国の象徴である「漢委奴国王印」を刻んだ鏡であった。
「この鏡は、海神の御魂が宿ると伝えられています。どうぞ、覗き込んでみてください」
タケヒコは、畏敬の念を抱きながら鏡を覗き込んだ。すると、鏡の中に、奴国の風景が映し出されていることに気づいた。那珂川の流れ、板付の集落、そして...
「クニノミコト...!」
タケヒコは、鏡の中にクニノミコトの姿を見つけ、驚きの声を上げた。
「ええ、奴国の王・クニノミコトは、海神族の力を我が物にしようと画策しています。私たちは、その野望を阻止しなければなりません」
カヤは静かに、しかし強い決意を込めて語った。
「クニノミコトは、あなたの力も手に入れようとしているのですか?」
タケヒコは、カヤの美しさと強さに惹かれつつも、複雑な思いを抱いた。
「ええ、タケヒコ様。あなたは、海人族と天孫族の血を引く、特別な存在なのです」
カヤは、タケヒコの肩に優しく手を置いた。その瞬間、タケヒコの心の中に、暖かな感情が湧き上がった。
「カヤ様... 僕は、あなたを守ります。どんなことがあっても...」
タケヒコは、カヤへの想いと、戦士としての決意を胸に刻み込んだ。
こうして、タケヒコとカヤの運命の出会いは、奴国の未来を大きく変えていくことになるのだった。
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