【374-456回目】

 

【374回目】


 僕は今一度思い出す。誰を守るべきなのかを。キュアだけじゃない、ナイツも、マミも、そして、僕を374回もの間、繰り返し追放するレオンも。勇者パーティーの全員が僕の守るべき人の名だ。


 冒険者ギルドを飛び出した僕は、希望を胸に仕舞いながら、ナイフで自分の喉元を掻き切った。


 次。


【400回目】


 僕の命は悪戯に消費されていく。何度繰り返しても、8体のガーゴイルを突破することが出来ない。最短経路で無理矢理突破する方法も、どうしても最後方の2体のガーゴイルに阻まれてしまう。


 仕方が無い。こうなったら、盗賊のスキルを全て試してみることにする。まず、399回目で試したことは、【隠密】スキルだ。このスキルは低層では非常に効果が高く、モンスターから検知されなくなり、有用なスキルだ。


 だが、B5F以降のモンスターには、ほぼ無意味で、お守り程度の効果しか受けなかった。もちろん、僕のレベルが高ければ、大体のモンスターが雑魚扱いになり、モンスターから感知されない透明人間になれたはずなのだが、レベルが低いことが悔やまれる。


 話を戻すと、【隠密】スキルは、もはや効果がないと考えて、特に効果が切れても掛け直すことはしていなかった。よって、改めて試してみようと考えたのだ。


 だが、流石に通り抜けは出来ずに、ガーゴイルは反応することがわかった。よって、今回は違うスキルを試す。


 それが【口笛】のスキルだ。モンスターを呼び寄せる効果を持つスキルで、過去の自分は、このスキルを使って、レベル上げを試みたのだ。もちろん、失敗したが。今回、モンスターを引き寄せるという意味では使えるかもしれない。


 僕は最前方に居座る石像へと近づき、動き始めないギリギリのラインの範囲で、【口笛】のスキルを使用する。


 どうせ何も起こらないだろう。そう思っていたが……。


 石像が動き始める。ガーゴイルは羽根を羽ばたかせて、宙へと舞う。しかも、その数8体。全てのガーゴイルが石像化を解除して動き始めたのだ。


 突破光が見えずに、どうしようもない袋小路の状態から、微かではあるが、確かに光明が見えた。


 僕は拳を強く握り、ガッツポーズをする。


「キ?」


 ガーゴイルもさすがに戸惑っているようだ。これから死に行くのになにをしているんだ、と。


 僕は希望を胸に抱き、高らかに笑いながら、ガーゴイルの鋭利な爪で、滅多斬りにされたのだった。


 次!


【456回目】


 とうとうその時がやってくる。


 洗練された動作で僕は行動を起こす。まずは、通路の入り口で【口笛】のスキルを使用する。この先一歩でも奥に入り込むと、ガーゴイルから見つかってしまう恐れがある。この位置が身を隠す上で、最善の位置取りだ。


 【口笛】のスキルを発動。悪魔の石造が解除され、8体のガーゴイルが、まさに宙へと舞おうとするその瞬間――。


トラップ、発動」


 自分自身を落とし穴へと落下させる。


 これにより、石像化を解除したガーゴイルから身を隠すのだ。ガーゴイルからすると、【口笛】が聞こえたので石像化を解除したにも関わらず、冒険者が発見できない状態に陥る。だが、奴らもそんなに馬鹿じゃない。次の行動としては、この落とし穴に気づき、こちらへ向かってくるのだ。


 よって、この穴を隠す必要がある。それには、2つの盗賊スキルを実行する。


 一つは【落とし穴】。再度、落とし穴を発動させて僕を地中深くへと潜る。ちなみに、何度発動できるのかは試してみたが、2度が限度だった。3度目となるとスキル自体が発動しない。もしかしたら、2度スキルを発動したら、B25Fを無視して、B26Fに行けるんじゃないか?と、思いついた方法だが、結果、B26Fへとは至れなかったものの、工夫次第で異なる用途で使用できる。


 だが、今のままでは単純に深く穴を掘っただけ。だから、身を隠すためにもう一つのスキルを使用する。


 それが【トラップ解除】。ここで注意するべきはトラップ解除するのは、最初の落とし穴のみということだ。そうすることで、表面上は落とし穴が解除されて、地表が塞がる。一方で、地中に2回目に空けた【落とし穴】によって空洞が生じて、そこに身を隠すことが出来るのだ。


 ちなみに、これだけ聞くと、敵から見つけられない状態だし、無敵じゃないかと思うかもしれないが、そんなことはない。もちろん、この手法にも弱点がある。それは、空洞に居ることが出来る時間に制限があるということだ。急に現れた空洞に酸素は少量しか存在せず、すぐに酸欠状態に陥ってしまう。


 ちなみに、前回の失敗はガーゴイルがこの道を通り抜けたかが判断できずに、暫くの間、この空洞に居座ったところ、急に呼吸が出来なくなった。そして、気がついたら、追放時点に戻っていたのだ。よって、通り抜けたと判断し次第、即座に地上へと戻る必要がある。


「そろそろ、か?」


 酸素を考えると、地中に隠れることが出来るタイムリミットが迫っていた。もうそろそろ、解除してもいい頃だろう。


トラップ発動」


 落とし穴を再度、自分の頭上に作り、僕が隠れていた空洞に新鮮な空気が入り込む。


「ぷっはー、生き返る!」


 僕はロープを使って落とし穴から脱出する。石造化をしていたガーゴイルは、既にもぬけの殻。いた、撒き切った!!奴らは口笛の音が鳴った方角へと向かっているのだろう。


 ガーゴイルたちが戻ってくる前に、僕は一本道を進み、B26Fへと続く階段を降りていく。


 次!!


 やっと、次の階をおがめる。僕はB26Fの地へと降り立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る