ライブ5

第45話

45.


 九月の第二週目の土曜日、十四時少し前、優は『麺ONEグランプリ』の会場に来ていた。

 場所は『希望の広場』。

 だだっ広い芝生が広がる場所で、館森市で祭が開かれる時よく使われる所で、メグミのデビューライブもここで行われた。


 天気は快晴、多くの人でにぎわっている。


『麺ONEグランプリ』とは、館森市が誇る一大イベントで、うどん、ラーメン、パスタ、麺なら何でもありの祭典で、多くの有名店が出店している。食べ終わった割り箸で好きな店に投票し、一番投票数が多かった店がグランプリに選ばれる。

 北側のはじに設置されたステージで、メンメンガールズのライブや、地元サークルの踊りや演奏が披露される。


 優は結衣に見立ててもらった、白いティイシャツ、薄めのミントグリーンの半そでシャツ、清潔感のある青いジーパンと言った出で立ちだ。左腕に緑のバンダナを巻いている。

 食生活の改善と正しいスキンケアのおかげか、ニキビはほとんど治り、おでこに一つ残るだけとなった。

 そのおかげか優は容姿に少し自信を持ち、背筋は自然と伸びていた。


 ステージ前には特に椅子は無く、今回も立ち見の形だ。

 前の方は簡単なプラスチックのチェーンで仕切られており、『キッズ・ファミリースペース: 小学生以下のお子様と保護者の方優先』と説明書きが立てられていた。


(え、俺が提案したやつじゃん! 採用された!? すげーじゃん、俺‼)

 優は心の中で、一人悦に入った。


 優は知り合いがいないか、辺りを見渡した。

 湊もこられたら来るようなことは言っていたが、農繁期で家の手伝いに駆り出され終わる時間が分からないらしく、具体的な待ち合わせはしていない。


 長いレンズのごっついカメラを持ち、頭にバンダナを巻いた集団がいた。

 イチラとその知り合いだ。

 イチラはいつもの赤バンダナを頭に巻いているが、他の人達のバンダナの色はバラバラだった。コガネの担当色である黄色の人はいないようだ。


 ちなみに、祭の際に写真を撮るのは自由だが、それをネットに載せたり、個人間でやり取りしたりするのは禁止されている。

 動画での録画、録音は禁じられている。


 優はイチラの方に歩きかけたが、優に気が付いたイチラが顔をしかめ威嚇するような「ぐぬぬぬっ」とでも言ってそうな顔でガン見してくるので、くるりと踵を返した。

 まだイチゴのシークレットナイト登録料を払わされたことが、消化できていないらしい。


 すると、イチラの方が優を追いかけて来た。

 それに合わせ、集団もついて来る。


「やあ、藤優殿!」

 とうとう追い付かれ、イチラが優の方に腕を回して来た。


(げ、逃げられないじゃん!)


「今日の『君はナイト』楽しみですな‼」

 ほっぺたがくっつきそうなほど顔を近付け、目の端で睨みながらイチラが言った。

「前回の感じだと、ガールズ達、さびでお気に入りのファンに腕を差し伸べてくれるようで。一体誰に差し伸べてくれるのやら!?」

 とうとうほっぺたがくっつき、イチラのほお骨が優の顔をぐりぐりした。


(ひーーーっ‼)

「い、嫌だな~。イチゴさんはイチラさんに決まってるじゃないですカぁっ‼」

 優も一瞬だけ目の端でイチラの目を見て言った。

「なんか、凄く頼りにされてる感じだったし‼」


「そ、そうであるか!?」

 イチラは少し離れ、正面から優を見て言った。


「はいーっ! それはもうっ‼」

 優は視線をうろうろさせながら言った。

 

「そうか、そうか」

 イチラは上機嫌で優の首に腕を回した。

 イチラの方が少し背が低いので、優は少し体を歪める形になった。


「そういえばこれ、イチゴちゃんより頼まれたゆえ」

 イチラはリュックから赤いバンダナを出し、優の頭に巻いた。


「げっ」

 優は眉をしかめた。

「や、やめてくださいよ~、これじゃあメグちゃんに誤解されちゃうじゃないですか!」


「イチゴちゃんの厚意をーー」


「あーっ分かりました。じゃあこうしますね‼」

 優はイチラが面倒くさいことを言い出す前に、赤いバンダナを左腕に巻き、緑のバンダナを頭に巻いた。


「うむ、まあよかろう」

 イチラはとりあえず納得したようだ。


「ところで、藤優君。貴殿の案、採用されたね‼ 凄いじゃないか、公式に意見が通るなんて‼」


「すげー」

「こんな事あんだな」

「公式、神に意見できるなんで、神官かよ!」

 イチラの周りの知り合いが、わいわい盛り上がった。


 優は急にもてはやされ、一瞬得意になったが、恥ずかしの方が勝った。

「い、いや~、たまたまですよ」


「またまた、ご謙遜を‼」

 イチラは不必要に強めにバンバン優の背中を叩いた。


「いや~」

 優は困って頭を掻いた。


「ちっ‼」

 大きな舌打ちが聞こえ、見ると城街しろまちがいた。

 今日も薄緑のジャケット、ベージュのチノパンと高そうな服装だ。

 茶髪で、後ろと横はぎりぎり刈り上げないぐらいの長さだが、前髪が長く横に流している。

 歳は二十歳前後、背は少し小さいがイケメン風で、ただ唇が歪みいかにも性根が曲がっていそうな風貌だ。


 優と視線が合うと、城街は一瞬優を睨みつけ、あからさまに真逆の方に移動していった。


(今日も定番の感じの悪さだな‼)

 優は、城街の背中を見ながら思った。

 この前のライブで感じた親近感など、すっかりなくなってしまっていた。



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※ 現在カクヨムコン10参加中です。

  2024年12月か2025年01月に完成予定です。

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  読者選考通りましたら、ヒロインめぐちゃんサイドの話を書きたいと思います!



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