第39話

39.


 二曲目の『君はナイト』が終わり、『チェキ撮影、シークレットナイト登録会』になった。


 優はメグミの列に並ぶ前に、湊に声をかけた。

「よう湊。よかったじゃん、ファンクラブ入るの間に合って」


「よう。ほんっとギリギリだったぜ。

 俺、わざわざ自転車飛ばしてステップアップスクール行ったかんな。そんで今日のライブもその場で申し込んだから」 

 湊が言った。

「そんじゃまたな!」

 湊はそう言うと、そそくさとステージ近くの、コガネのチェキ待ちの方向に行ってしまった。


「おう」

 優は湊の背中にそう言うと、メグミのチェキ待ち場所を目指した。


 それぞれのメンバーのチェキを撮る場所は少し離れていた。

 メグミの場所は、コガネとは反対側のステージの右端だった。もうすでに五十人はゆうに超えるすごい人数の行列が出来ていた。


(チェキ撮影は分かるけど、登録会ってなんだ?)

 優がチェキの列に並び、前方をうかがった。


 どうやら、メンバーとチェキを撮り、写真に名前を書いてメンバーに渡すとシークレットナイト候補に登録と言う事になるらしい。

 一応メンバーが写真を受け取る時に顔と見て名前を呼んでくれるので、それで顔を覚えたと言う事になるらしい。

 そのチェキはファンの自腹で、メンバーが見た後はすぐにスタッフの手に渡りナンバリングされ、登録名簿に名が書き込まれる仕組みらしい。

 そんな訳で、チェキを手に入れたい場合、チェキ撮影を二枚頼まなければいけないようだ。


(げっ、一枚三千円だから、二枚で六千円もすんじゃん!

 ……でも大丈夫。今日の俺は金持ちだかんな!)

 優はバイト代が先週入り、気が大きくなっていた。


 前方を見ると、メグミが城街とチェキを撮っていた。

 やたらパシャパシャ音がして、ポーズを変えて何枚も撮っているらしい。


 城街がメグミの耳元に顔を寄せると一瞬メグミは顔をこわばらせたが、次の撮影では城街と半分ずつ指でハートを作り、合わせて一つのハートを作っていた。


(そうだよな……ハート、俺だけのサービスって訳じゃないものなぁ……)

 優は実知子から聞いた話で『もしかした自分は特別なんじゃ』と思っていたが、現実を目の当たりにして気落ちした。


 ようやく優の番になった。

 机にいる受付スタッフに六千円を払い、登録用と手元に残す用、二枚のチェキをお願いした。


「優君、来てくれてありがとう!」

 メグミがはにかむ笑顔で言った。

「……君はナイト、どうだった……?」

 少し心配そうに、上目遣いに優を見て言った。


「メグちゃん!」

 優はメグミに話しかけられただけで、先ほどまでの憂鬱が霧のように晴れていき、一気に顔に熱が集まるのを感じた。

「すっごく良かったよ! なんか少し悲し気な感じしたけど、最後はこう、力強くなるような感じで」


(好きな人のこと想像しながら書いたの?)

 優はそう訊いてみたくてたまらなかったが、なんとか心のうちに留めた。

 ここで訊いたらメグミを困らせてしまうと思って。


「なんか、歌の風景が目に浮かぶような気がした」

 優がそう言うと、メグミはパァっと嬉しそうな笑顔になった。


「ありがとう、すごく嬉しい‼」

 メグミはそう言うと、優の手を両手で握った。


「はい~、じゃあ撮影しまーす」

 カメラマンにそう言われ、二人は慌ててそちらを向いた。


「優君」

 メグミはそう言うと、指でハートの半分を作った。


 優も慌てて半分のハートを合わせた。


「はい、メンメン!」

 そう言うと、カメラマンは二枚続けて写真を撮った。


 優は二枚写真を受けとると、ペンで一枚の写真に名前を書きメグミに渡した。


「優君、ありがとう!」

 メグミが写真を両手で持ち言った。


(メグちゃんが俺との写真を嬉しそうに見てる!)

 写真を見て嬉しそうににこっとするメグミを見て、優はニヤケそうになった。

(いや、また勘違いしないように気を付けないとな! メグちゃんは誰にでも優しいから……)


「俺、シークレットナイトに選ばれるよう頑張るから!」

 優は真剣な気持ちで言った。

(だから、俺を選んで‼)

 そう思ったが、口には出さなかった。


「うん、ありがとう」

 メグミは少し首を傾け、目を潤ませ、とろけるような笑顔で言った。

 

「はい、では次の方~」

 カメラマンの声を合図に、優はその場を離れようとした。


 優の去り際にメグミが小さく手を振った。

 嬉しくなり優も大きく手を振り返した。

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