第38話


38.


「みんな~、お待たせ♡」

 イチゴが大きく手を振りながら言った。

 他のメンバー達も大きく手を振っている。


 新しい衣装は、スカートがふわりとした薄い水色のノースリーブワンピースを基本に、肩と裾に大きな紺色のフリルが付いている。ワンピースの胸元はV字に開いて、そこに白いフリルの付いた生地がついている。

 薄い水色の布地に紺色のフリルの付いた幅の広いカチューシャのこめかみ辺りには、担当色のリボンがついている。

 肘位まである長い水色の手袋には、紺色のフリルがついている。

 同じ色のほんの少し食い込み気味のニーハイソックスにも、太もも辺りに紺色のリボンがついている。


 メンバー達はメグミをセンターに、Vの字型に並んだ。


「ハロウィンライブからの投げキッスパート、さびの部分でやる予定だよ!

 今回と麺ONEライブでは、そこは手を差し伸べる動作になるよ。注目して見てみてね!」

 イチゴがそう言うと、音楽が始まった。

 メンメンガールズの曲にしては珍しい、少ししっとりとした始まりだった。


 メンバー達は「き~みは ナァーイト」と歌いながら、ゆっくりと左手を観客席に水平に出した。

 次に「わーたしの ナァーイト」と右手を胸の辺りがら縦に観客席に差し出した。


 メグミは優の方を見ると一瞬ニコッと笑った、ような気がした。


♪ 君はナイト~ 私のナイト~

  あなたが救ってくれたから 私勇気を持てた

  君に出会えて 私強くなれた

  Youユゥ areアー myマイ knightナイト Myマイ onlyオンリ knightナイト


  あの日 夏の夕暮れ 雨の匂い

  街の騒めき 仔猫のようにただ震えて 

  悲しい運命 あなたが変えてくれた


  君には忘れてしまうくらい些細な事でも 

  私には奇跡



  君はナイト~ 私のナイト~

  あなたが救ってくれたから 私勇気を持てた

  君に出会えて 私強くなれた

  Youユゥ areアー myマイ knightナイト Myマイ onlyオンリ knightナイト


  疲れた街並み 雨の予感

  迫る危険に 私 何もできずにいた

  希望を捨てないその目に 夢中になった


  君が忘れてしまっても 私はずっと覚えている 

  その記憶は宝物


  君はナイト 私のナイト

  すれ違う心 伝えられずごめんね ほんとは大好きだよ 

  これからも ずっとそばにいてね

  You are my knight …・・・ ♪


 二回目のさびの『き~みは ナァーイト』の辺りで、メンバーはランダムに動くような形で、動いて行った先に手を差し伸べた。


(メグちゃん、こっちに来てくれた!)

 優は知らぬ間にガッツポーズをしながら思った。 


Youユウ are my knight ~」

 メグミがそう歌いながらこっちに手を差し伸べるものだから、優は舞い上がった。


(ユウって、まさか俺のこと⁉ 手ぇこっちの方に向けてない⁉

 どうしよう、すっごい嬉しいんだけど‼)

 優はあまりの嬉しさに、体が震えた。


 その動作は一瞬だったが、移動際までメグミの瞳は優に向けられていた。

 ように優は感じた。


 しかし、城街が視界の端に入ると、はたと我に返った。

 城街も顔を赤くし舞い上がったような、酔ったような表情をしていた。


(そう言えば、あいつもユウなんとかだったよな。

 ……そうだよな、俺を見てくれたとは限んないよな。こっち見たからって。こんだけ人いっぱいいるんだし。

 勘違い野郎になんないよう気をつけなきゃな……)

 優は頭を振ると、がっかりして目を閉じた。


(それにしても、なんか少し悲し気な歌詞だよな。

 恋する気持ちを想像して書いたってメグちゃん言ってたけど、なんかやけに具体的だし……)

 優は覚えられた歌詞の単語を思い浮かべた。


(夏の夕暮れ、雨、仔猫、危険……。

 あれ、なんか……)

 優は一瞬何か、ある情景を思い出しかけた。


 しかし歌が終わり会場からの割れんばかりの拍手が鳴ると、はっと目を開け我に返り、慌てて優も拍手をして、その何かはぱっと散ってしまった。


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