ライブ4
第36話
36.
「優君、ブログ荒れてるね」
イチラが優の肩をポンポンしながら言った。
愛ラブ麺の赤い公式ティシャツに、長い赤鉢巻を巻いている。
いつもの赤バンダナは、今日は左腕に巻かれている。
「メールも荒らされてるんだって? 大丈夫かい?」
優はブログの記事と掲示板に、メールが読めないことを書いていた。
八月十日の土曜日午後六時少し前、優は軽めの夕食を食べた後、シークレットライブに来ていた。
場所は最大五百人収容可能の館森市芸術ホールだ。
冷房はついているようだが、十代から四十代位の男性が密集しているせいか、もわんと暑い。
あと十五分程で開幕の時間だ。
「はぁ」
優はゴーゴンの忠告を思い出し、イチラを少し警戒していた。
(もしかしたら、イチラさんが荒らしかも知れないんだよな……。
でもあんまそうは見えないけどなぁ?)
ちなみに優も公式の赤いティシャツに、緑のバンダナを頭に巻いている。
イチラにドレスコードを聞いたら、ほとんどの人が公式赤ティイシャツに推しの担当色の何かを身に着け推しにアピールするとのことで、優は今時恥ずかしかったが会場の中だけバンダナを巻くことにした。
一か月近いチョコ断ち、脂っこいもの断ち、正しいスキンケアのおかげか、ニキビはだいぶ減ってきていた。
でもまだ所々にあり、ニキビ跡の赤さが白い肌に目立つ。
「まあ、パソコンとかネットに詳しい友達に見てもらってるんで、いざとなったら犯人簡単に分かるんで大丈夫です。そいつ警察とも伝手あるし」
優はそう言って、イチラの反応を見た。
「それは心強い!」
イチラは表情を変えず、朗らかに言った。
(慌てた様子もないし、やっぱりイチラさんじゃないんじゃないかな?)
優は自分の直感を信じることにした。
そもそも優は人を疑うのに慣れておらず、疑ってかかるのは苦手なのだ。
会場は、今までの祭のおまけのようなライブのステージとは違い、立派だった。
よくクラッシックコンサートや演劇の公演が開かれるそのホールは、広いステージがありそこから半すり鉢状に観客席がもうけられている。背もたれが木製の椅子は備え付けで、座る部分を上にあげ、折り畳みできる仕様だ。薄緑色の丈夫そうな布が張られている。
温かみのあるの木目調の床のステージには、深みのある赤色いビロードのような幕がかかっている。
優とイチラは、ちょっと広くなった通路の片隅にいた。
イチラは優と雑談している間、色んな呼ばれ方で多くの人から声をかけられていた。
「イチラさん」「会長」「イチラッチ」
その度に会話の輪が大きくなり、イチラを中心に三十人程が集まっていた。
新曲とシークレットナイトの話題で持ちきりだ。
「もしかして、藤優君? ブログでイラスト描いてる?」
イチラのことをイチラッチと呼ぶ二十代位の男が、イチラの方を見ながら言った。
少し目の離れた馬っぽい顔の男は、中肉中背で、赤鉢巻をしている。
優は前のライブで何度か見かけたことがある気がした。
「そうなり」
イチラが頷きながら言った。
「そうです」
優もイチラと同時に言った。
「そうなんだ~、おいらも書き込んだんだよ。おがくずってハンドルネームで。ほんと~は
へらへらしながら軽い感じで言った。
「イラスト可愛いよ~、もっとイチゴちゃんの書いておくれよ~」
そう言うと岡野はぐいっとのぞきこむように優に顔を近づけた。
優は反射で一歩後ろに下がった。
「
イチラが呆れ顔で言った。
「あ、ごめ~ん。癖なんだよね~」
岡野は悪びれずに緩く言った。
(何か変わった人だな)
優はそう思い、もごもごと答えた。
「あ、いえ……。コメントありがとうございました」
イチラは優を、岡野も含め周りの人達に紹介してくれた。
優も簡単に紹介を受けて、何となくファンクラブ『愛ラブ麺』の一員として受け入れられたような気がした。
そんな時スマホがなり、ライーンが着た。湊からだ。
『右奥にいる。なんか取り込み中っぽいから、後でな』
優がステージから見て右奥を見ると、ぽつんと席に着いた湊が軽く手を挙げていた。
湊も赤い公式ティシャツを身に着け、左腕に黄色いバンダナを巻いている。
優も湊に大きく手を振った。
高校は夏休みに入ったので、湊と会うのは約二週間ぶりだった。
ちなみに優の一学期の成績は、メグミやメンメンガールズに夢中になっていたにも関わらずまあまあ良くて、美術、化学、生物が五段階評価の五で、後は四や三だった。
湊に関しては、「まあこんなもんだ」と通知表を見ながら本人が言っていたので、いつもと変わらないくらいだったのだろう。
湊は前回の七夕ライブでコガネとチェキを撮ったりファンクラブに入ったりできなかったが、今回のシークレットライブのことを優から知り、ぎりぎりでファンクラブに入り今回のライブに参加できた。
メンメンガールズを運営している習い事教室『ステップアップ・スクール』に直接行って、申込書を書いたりお金を払ったりしたらしい。
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※ 現在カクヨムコン10参加中です。
2024年12月か2025年01月に完成予定です。
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読者選考通りましたら、ヒロインめぐちゃんサイドの話を書きたいと思います!
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