第17話

17.


「第二回恋の進路相談会、イェーイ!」

 みなとが一人拍手をしながら、テンション高く言った。


 湊、ゆう、ゴーゴンの三人は、例によってゴーゴンちの喫茶店に集まっていた。

 今日もいつもの席、喫茶店の奥まった、少し騒いでも目立たない席だ。

 四角い大きなテーブルの一辺に一人ずつ、左から湊、優、ゴーゴンの順で座っている。


「は、急に何言ってんの?」

 眉をしかめ、優が迷惑そうに呟いた。


「うるさいでござる。他のお客様への迷惑行為は止めるでござる」

 真面目な顔でゴーゴンが言った。


「前から思ってたんだけどさ、湊、俺のこの純粋な恋心をおちょくってない?」

 今日の優はなんだか機嫌が悪そうだ。

「なんだよ、『恋の進路相談会』って。そんなことしてくれなんて頼んでないじゃん」


「まぁまぁまぁー」

 優の肩を軽くポンポン叩きながら、湊が言った。

「初恋に戸惑う親友を、見過ごせないだろ」


「お前、俺の苦しみを楽しんでない?」

 優は疑わしそうな目で湊を見た。


「楽しんでない、楽しんでない♪」

 軽い調子で湊が言った。

「こういうのってお前等苦手分野だろ? 親友が困っている時こそ、その手のことに得意な俺が助けてあげなきゃな!」


「まぁ、確かに専門外でござるな」

 潔くさっぱりとゴーゴンが言った。

「とりあえず、何食べるでござるか。拙者、『たっぷりクリーム雲の上 いちごのムース』、にするでござる」


 優はとりあえず湊をにらむのをやめ、メニュー表に視線を移した。


「優には試作の『チョコ沼に沈む チョコレートムース』をお願いしたいでござる」


「じゃそれで、お願いします」


「俺はアイスコーヒーで」


 ゴーゴンが手元の呼び出しボタンを押すと、リーンと音が鳴った。


「はーいただいまー」

 そう声が聞こえ、顔見知りの若い女性のウェイトレスが来た。

 ちなみに、クラシカルな黒と白のメイド服を着ている。

「坊ちゃん達、なににいたします?」


「アイスコーヒーとたっぷりクリーム雲の上いちごのムース」

 ゴーゴンはメニューを見ずに行った。

「それに、試作のチョコ沼に沈むチョコレートムースを。言えば伝わると思うので。お願いします」

 ゴーゴンはござる口調を封印して言った。

 一応相手を選んで口調を変えているらしい。


 従業員の女性は注文を確認すると、厨房へと向かった。


「で、なんで優はそんなに不機嫌なんだよ」

 メイド服の女性が角を曲がるのを目で追いながら、湊が言った。

「結局俺、行けなかったんだよね。お習字ライブ」


「ライブは最高だった」

 優はむすっとして言った。

「それに、これ」

 優はバッグから黒いプラスチックケースに入ったチェキの写真を取り出した。


「「おーーーっ‼」」

 ゴーゴンと湊が、優とメグミが笑顔で写ったチェキを見て叫んだ。


「二人の笑顔が、よく写ってるでござる!」

「すげーじゃんっ、メグちゃんほんとに可愛く撮れてる‼」

 ゴーゴンと湊が同時に言った。


「そうだろ」

 一瞬にやけ、すぐに暗い顔になり優が言った。

「こんな最高に可愛いアイドルと、ニキビ面のだっさい俺」


 湊とゴーゴンはきょとんとして優の話の続きを待っている。


「俺、ファン続けるべきなんかな」

 はーっとため息をついて優は続けた。

「なんか、よく考えると辛い気がしてきた。俺なんか、メグちゃんとは釣り合わないじゃないのかな。ずっと好きで応援しても、報われることなんてないんじゃないかな」

 

「釣り合わないかはともかく、辛い道しかないでござる」

 ゴーゴンがやれやれと言った調子で言った。

「傷が浅い内に撤退するが吉でござる」


「まぁまぁ」

 湊がゴーゴンを見ながら言った。

「で、なんで優君はそんなこと思っちゃった訳よ」


「この前のライブの後思ったんだ。俺はずっとメグちゃんだけを見てるのに、メグちゃんは俺のことをたくさんいるファンの一人としてしか見てないだろ?」

 優はチェキ写真を両手で持ち、メグミの顔を見つめた。

「それに、握手の時言われちゃったんだ。プライベートな話はできないって。他のファンの迷惑になるから」


 優は湊とゴーゴンにお習字ライブでの出来事を話した。


 途中、さっきのウェイトレスが注文の品を持ってきたので、三人はそれに口を付けながら優の話を聞いた。

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