第80話 加藤の正体
意識を切り替えた瞬間。一気に時が動き始めたと感じるほどに思考がクリアになり、視界が広がっていくのを感じる。
やがて音や嗅覚が戻り始めると同時に、煽るようにバクバクとなる心臓と浅い息使い。そして強烈な死臭がツンと鼻を突いた。
さきほどまでまるで巨人のように見えていた相手は、高身長と言えるが人間の範疇に収まっている。
(転移系の魔術か? コストもバカにならないのによく使う)
薄汚れたローブの男を【鑑定】した情報を目で追う。
予想通り名前は『
嫌な予感が的中した。
(どうして『
この世界において『
だから納得はできないが理解は出来る。
【鑑定】した情報を最後まで読む前に、一歩前に歩み寄った『
口が動いていないことから【鑑定
(だったらどうして一瞬でも俺で視線が止まったんだ?)
しかしそんなことを考えている暇はない。
「お前達に最後通告を告げる」
フードの下からチラリと除いたのは、眼窩の濁った熾火のような赤黒い揺らめきが二つ、そして眼窩の熾火に照らされる白骨化した頭蓋骨だった。
「最後通告だと?」
「その通りだ。早々に降るというのであれば貴族階級とその関係者だけは助けてやろう」
「――ッ!?」
「意外か? 神々の中でも特に慈悲深い不死神の徒であるオレにも情がある。それにこの都市には前に一度来たことがあるからな感情的にもなるというものだ」
「貴族階級だけで領地が回る訳ではない! 領民あっての領主だ!」
「流石は英雄の末裔、勇ましいセリフだ。オレの
デモンストレーションのつもりなのだろう。
『
恐らくは
しかし【鑑定】を使っていないことを考えると、眼球を失った時に消失したのだろう。
【鑑定】は眼球に宿った魔眼の一種だと前に聞いたことがある。
(防御していなかったらヤバかったな……)
一つ目はこちらも
二つ目は魔力で作った殻や膜のようなもので防ぐ方法……これは魔術師が多く用いる方法で防御力は高いが精密な魔力コントロールを求められる。
三つ目は気合で耐えるというものだ。
この場にいる人間の一部でも何とか耐えられているだけ優秀と言える。
「あなたは公爵閣下の強さを知らない。否、知っているからこそ閣下の不在時にこのような蛮行に打って出たのでしょうか?」
体をピクリと動かすと高濃度の呪いが漏れ出た。
「無駄に子供を殺したくはないのだが、あまり威勢の良い態度を続けるようなら呪い殺すぞ?」
そんなことを言うとこちら側に一歩踏み出した。
「慈悲深い不死神の徒であるあなたにお願い申しあげる。現在こちらにいるオニ・コッロスは代官であり、高度に政治的な判断を下せるのは閣下のみです。返答までお時間を頂けません?」
「だめだ最後通告の返答期限は “今この場” なのだ。オレからこの水都ベネチアンを守りたければ武勇を持って証明しろ。言葉を交わすことで鉾を納められる時間はとうに過ぎているのだ」
(クソ! 一体全体何がどうなって加藤はこうなったんだ? 被害を最小限に抑えるには加藤をこの場で拘束するのが一番だ!!)
無詠唱で『
今世で『勇者流』と呼ばれる剣術流派の基礎になったのは、クラスメイトの一人が家で伝えて来た古流剣術だ。
より正確に言えば杖術、槍術、長刀術、弓術と言った戦場で用いられた。ありとあらゆる武器を使いこなすための
「はあっ!」
比較的才能があると言われた俺は、『無手』も当然習得している。
本来は、最小限の動きから繰り出される体重と速度を乗せた拳で行う体当たりに、さらに魔術で強化を加えた一撃を放つ。
しかし……手ごたえは軽い。
前世で経験した体に穴を穿つような手応えはなく、まるで空を殴ったような。そんな手応えしかなかった。
「なにッ!?」
視線を上げるとそこには、透けた加藤の体を突き抜けた俺の拳が浮いていた。
驚愕する俺の足首を何かが掴みあげると俺は一瞬で持ち上げられた。
「うわわああああ!!」
視界の上下が急に入れ替わった。
即座に視線を上げると俺を掴んだものの正体が判った。
加藤の影から幾つも生えた黒い影だ。
(鑑定スキルを使う様子がないときに気が付くべきだった。加藤の正体は『
不死神の眷属たる『
物質の肉体を持つモノは聖属性魔術の効き目が、肉体を持たない『
「【ターンアンデッド】」
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