第七章

第78話 報告

 遠征部隊は帰還したあと、ロクな休息なくオニ兄上への報告となっていた。


「休息なくすまないが直接報告を頼む」


「今回の騒動の原因は『呪怨瓶じゅおんへい』と呼ばれる魔王時代の遺物と推定されます。

 この魔道具には瘴気しょうきを蓄積し放出する効果があり、魔王信奉者や魔族が好んで使ったそうです。

 効果としては高位魔族や魔王、封印されるような強大なモンスターの復活や回復、一時的な強化にも使えるようで温厚なサラマンダーの狂乱も『呪怨瓶じゅおんへい』が原因ではないかというのが、神殿の高位神官であるツナーグ様の見解です。

ナオス様と神殿の皆様のご協力で破壊できたのでひとまずは安心できるかと……」


 遠征からの期間中に考えていたものなのだろう。

 ビンセントは淀みなく簡潔に報告を述べた。

 二人はビンセントの報告を聞いて、顔を見合わせると露骨に安堵の表情を浮かべた。


 よほど陸の交通が封鎖されていたことが精神的負担になっていたようだ。


「魔王時代の遺物がどうして我が領地に……昔勇者様がこの地に逗留されたというがそれと関係が?」


(急な流れ弾が来た! 責任転嫁しないでご思惟。逗留していたのは、RPGでおなじみの巨大モンスターが居て船が動かせないイベントなどで、物理的に動けなかっただけだ)


「それはないでしょう。『呪怨瓶じゅおんへい』という魔道具は数年~数か月で効果が表れるそうなので……」


「これで一安心だな」


「いえ」


 兄の言葉を即座にビンセントが否定するとこう続けた。


「ここ最近のモンスターの目撃数増加が、たった一つだけの『呪怨瓶じゅおんへい』目撃が原因だとは到底思えません」


「他にもあるといいたいのか?」


「バカなことを言うな」


「私は可能性の話をしただけのことそれを判断するのは、オニ様を始めとするコッロス公爵の方の仕事です」


「兄上政治の仕事とは常に最悪を想定し、最善の策を速やかに実行することではないでしょうか?」


「しかしッ!」


「王たる者、部下の功績だけでなく失態さえも自らのことと受け止め考えることが役割ではないでしょうか? 何も悲観しろと言っている訳ではありません。楽観視せず警戒しろと言っているのです」


「……判った。進言を重く受け止め対策を講じると約束しよう……」


「ではこちらがメロンと請求書となります」


(一度やってみたかったんだよなぁド〇ターXごっこを真面目な場面で)


「請求書……ああアレか……」


 アレとは、治療する際には一人当たり神殿への寄付金の1.5倍を支払うことに加え、神殿と兄弟姉妹からの干渉を極力防ぐこと、そして俺を騎士としての特権を持ちながら特定の主君や国家・勢力に帰属しない『自由騎士』に任命することで合意した契約のことを指している。


「――ッ!? なっ! なんだこれは」


 激昂する兄の声に兄の乳兄弟は困惑の表情を浮かべる。


「拝見させて頂きます……っ!? なんですかこの追加料金というのは!?」


「先ほどビンセントから説明があったと思いますが……もう一度説明させていただきます。俺と神殿の協力で強力な呪物『呪怨瓶じゅおんへい』を破壊しましたここまではよろしいですね?」


「……ああ」


「俺の仕事は負傷した騎士や兵士の治療でしたよね? 『呪怨瓶じゅおんへい』無力化は俺の仕事の範疇ではないのです。これを無料でやってしまえば不測の事態が予測されるなかで、契約させ結んでしまえば俺の力は使い放題になってしまうそういう懸念を感じましたので、こういう契約書をあらかじめ作成させていただきました」


「……俺が信じられないというのか?」


「はい。一度約束を破っている人間が初陣前の勲等程度で信頼を回復できると思ったのですか? 正規の料金を支払った上でトントン。更に何かプラスが無ければ信頼など築ける訳もないでしょうに……」


「記載の通り、請求額の合計15パーセントが冒険者ギルド、傭兵ギルド、神殿の三者の取り分となっています。また債権は既に商業ギルドに売却しておりますのであしからず」


「……判った。報酬とは別に金を出そう。これか良い関係が築けるように努力しよう」


「それでは俺からのアドバイスです。傭兵ギルド、冒険者ギルド、神殿はタブレットポーションに強い興味をしめしていましたので、兄上に卸している倍額で販売すれるか入札制にすればよろしいのでしょうか?」


「俺に商人の真似をしろと?」


「交易の要所を抑えている貴族が何をいまさら」


「これからの時代は単純な武力を持つものではなく、金を持つ者の時代となるでしょう。それに政治闘争でも武力闘争でも実弾カネは汎用性の高いカードですあって困るものではないでしょう?」


「その通りだ。精々お前の掌の上で上手に踊ってやる」


 五者にメリットを提示しつつ力を示すことにも成功した俺の一人勝ちとになるのだった。

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