第72話 欲しがり
【連絡】
第七十一話後半から加筆しておりますので、雰囲気や違和感があると思いますがご容赦下さい。
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勇者時代の経験から野営時の娯楽は、食事か雑談か女ぐらいのものだと知っている。
勇者時代も今も俺にとって一番の娯楽は食事だった。
前世で使えたアイテムボックスの中身は、今だ使用不可だが、今世で手に入れたモノは別だ。
アイテムボックスから魔道
俺専用の天幕側で料理を始めたものだから、警護の騎士の視線が刺さる。
青魚の一夜干しや
心中の海〇雄山や山岡さんが「ガス火では表面に水分がついて……パリっとしない! 炭のかおりが――」などほざいている。
まず魔力で生じた火なのでガスではない! などとイマジナリー食通共にツッコミを入れながら、炙る面を調節していくじくじくと水や油分が浮いてくるので、適当に取り出し温めたパンに生野菜と一緒に挟んで食べる。
これが一番うまい。
周囲が乾物や瓶詰めを食べている中で、一人温かで豪勢な食事を取る優越感は最高のスパイスとなる。
人間、下を見る時が一番自分の今の立ち位置を実感でき、自尊心を満たすことができるというのもだ。
そして別のコンロで温めておいた作り置きのスープを飲む。
体の芯から温まる。
酒があれば完璧だ。
まあ肉体年齢的に飲まないんだけどね。
俺はワインが好きだったが、こう言う野性味溢れる料理にはビールが合う。
海外のような常温ではなく、キンキンに冷やした日本式でしかも喉越しを楽しむタイプでだ。
思い出しただけで涎が出る。
「あの……」
騎士の中でも上役の人物が声をかけてきた。
見れば副官と思われる男を連れている。
乞われて来ている立場とはいえど、不要な不満を与える必要はない。
少し丁寧に対応しよう。
「なんでしょうか?」
少し威圧的に答える。
「申し訳ございません。できれば兵と……騎士と同じものを食べていただけないでしょうか? ご存じないかもしれませんが遠征は娯楽が少なく、食事や酒、武勇伝などしかないのです。なので輪を乱されると士気に影響しますなのでご遠慮願えないでしょうか?」
などと最もらしい理由を付けているが、話を要約すると『妾腹の七男風情が騎士である俺達より言いもの食うな、あとお前の食事は俺達上役が食べるから供出しろよ』といったところだろう。
「判りました。次から気を付けますね」
返事を返し食事を続ける。
これ以上会話すると食事が不味くなりそうだ。
「ですから……」
俺から良ければどうぞ? という言葉を引き出したいのだろう。だが俺は自分で言うのもなんだが性格が悪い。
嫌いな人が不幸になるのなら俺も不幸になることはやぶさかではない。相手が-3になるために自分が-1になるぐらいは屁でもない。そういう人間だ。
「まだ何か?」
パンを口に押し込んでスープを流し込む。
「そのスープを……」
「分けていただけませんか?」という言葉が出る前に俺は、鍋を蹴飛ばした。
「ぎょえええええ!! お、俺をシッヌ・オオゲサーと知っての狼藉かぁぁぁあああ!!」
男は暖かくうまそうなスープにありつけると思っていたのにそれを台無しにされ、声にならない声を漏らした。
どういやら熱々のスープがズボンに掛かったようだ。
シッヌ・オオゲザーって面白い名前してるななんて考えていると、どこかで聞いたことがある気がする。
どこだったかなあ? あ、サラマンダー事件か。
確か軽症だが地位を傘に着て回復術師師を占有したバカ者か。
だったら容赦する必要はない。
「欲しけりゃ犬みたいに這いつくばって舐めろよ。卑しい豚野郎!」
兵士が一日で必要な食事量は最低三〇〇〇キロカロリーという話をミリオタのクラスメイトが話していたことを思い出した。
ビスケット換算で約八三〇グラム、馬車の積載量は約三〇〇キロと過程すると約361人分の食糧しか賄えない。
さらに飲み水が一日あたり平時でも二リットル以上必要になる。
つまり水と食料をこれ見よがしに食べられてムカついたのだろう。
しかし魔術袋と馬車があれば補給線を考えなくてもよいのに、旨いものを食べたいだなんて欲を出すからこうなるのだ。
「いいか? お前が譜代騎士だろうが知ったことじゃない。俺は妾腹とは言え公爵閣下の血を継いだ男児であり、この世界に数えるほどしかいえない聖人の一人だぞ? せっかく次兄が頭を下げた俺の機嫌をそんなに損ねたいのならハッキリ言えばいいだろう?」
「わ、私は……」
「言い訳を聞くつもりはない。腕の一本か前線に行くか選べ」
俺の言葉に高位騎士は顔を青くする。
「そ、それだけはご勘弁を!」
「卑しくも主君筋の人間のモノを集り、約束は違えないと譲歩してやっているのだ。それに俺にとってお前の腕一本なぞゴミ程度の価値しかない……」
(俺の性格と権威の証明にはちょうどいいか……)
「全員傾注せよ! この者は我が食事を卑しくも輪を乱されると士気に影響するから供出しろなどと宣った不届き者である。私はこの者を処断する!」
俺の宣言に周囲がざわつく。
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