第48話 再生と首輪へのけん制


「もっともなご意見です。しかし、今のままでは彼の腕は戻らないだったら俺に賭けるのは分の良い賭けではないでしょうか?」


「治るか治らないか? 二つに一つです」


「く……」


「さあ! 巻きますか? 巻きませんか?」


「治してくれ! それで腕がダメになってもほとんど変わらん

!! 一思いにやってくれ!」


「判りました……【リプロダクション】」


 ――と魔術を発動させ癒す。

 指程度の欠損なら即座に生せるが、腕や脚と言った大きな部位を即座に生やしては、貧血や栄養失調で患者が死にかねない。


 絵面的にも時間をかけて生やすよりも、即座に再生したほうがインパクトが大きいため。

 体中からカルシウムや筋組織を集め腕の形を形成する。


 淡い光にが寄り集まり徐々に光の腕する。

 次の瞬間淡い光が弾け周囲を明るく照らしたかと思えば、そこにないハズの腕が再生していた。


「――ッ!?」


 嬉しさのあまり声が出ないようだ。

 冒険者は唖然とした表情を浮かべ恐る恐ると言った様子で、再生した手に触れた。まるで夢幻ではないと確認するように……

 おもむろに拳を握り込んでは開いてを繰り返し喜びを実感しているようだ。


「腕が、腕が生えた!!」


「「「「「―――っ!!」」」」」


 皆口々に歓声を上げ冒険者の腕が生えたことを自分のことのように喜んだ。

 俺としては筋肉や骨密度が足りて良かったと言う感想以外にはない。


「何か違和感等はありますか?」


「体が怠い……」


「骨や肉を使って再生しているので手も身体も元の状態に戻すのには時間が掛かると思います。小魚や乳製品をしっかりとって骨と肉を付けてください」


「ありがどう……」


 眉間に皺を寄せ今にも泣きだしそうな表情で感謝の言葉を口にする。

 隠していた力を公開してしまったのだ。


 何かしらの制限をかけなければ俺は、コッロス公爵家の利益のために回復魔術を行使するロボットに成り下がってしまう。

 そんなのは御免だから一応釘を刺しておくことにした。


「一応コッロス公爵家で養われている身の上ですの、今回のことはその返済をしたに過ぎません」


 姉二人の反応は対称的だった。


「ええ……判っているわ」


「こんな凄い力があるのにどうして家のために使わないのよ!」


 ミナが『人』ではなく『家』と言うあたりに貴族として平民を区別しているのだと判る。


「例えば家のために地位も名誉もお金もあるけど、離婚歴が複数あって成人済みの子持ちで、チビでデブでハゲで臭い他国のおじいさんと結婚しろと言われて素直に従える?」


 寒気がしたようでぶるぶると身震いをすると、「無理絶対無理!」と答えた。


「ナオスにとってあなたの提案はそれと同じ意味なのよ」


「家のために力を使うのは貴族の義務……あ、」


「気が付いたようねナオスはコッロス公爵家の人間ではあるけど、貴族籍にはいない私生児よ。貴族の義務は存在しないのよ」


「狡いじゃない!」


「では俺と同じ生活をされますか? コッロスの家名を捨てて……」


「……遠慮しておくわ。私にそんな生き方は似合わないもの」


「「「「「「……」」」」」


 この場にいるほぼ全員が思った。

 掌ドリルとはまさにこのことだろうと。


 と誤解させるため魔力回復用のポーションを飲みながら、【リプロダクション】に偽装した【ヒール】を使って四肢を治していると、ぞろぞろと騎士や兵士、冒険者達が入ってきた。

 体を支えられているの人もいるが、大抵の人間は松葉杖なりを使って自分で歩いている。


「かなりの人数ですが大丈夫ですか?」


「やれるだけやって見ましょう。若い人と第一線の人間優先でお願いします」


「立場……例えば冒険者ランクは?」


「今までの貢献ではなく、これからの貢献度です文句があるなら治さないだけです」


――と釘をさして順番に治していく。

 次代を作ってきた老人には悪いが、「未来の負担になるのなら頼むから死んでくれ」と言うのが偽らざる本音だ。


 先のない軍人を戦えるようにするより可能性のある人間や、現役バリバリの奴の方が期待値が高い。

 手足がなくても知識や経験からくる話は頭と胴が大丈夫なら、伝えることが出来るだろうから ヨシ!


 そんなことを考えていると老人が騒いでいる声が耳に届いた。


「ワシを誰だと思っている! グイフォン戦役で武功を上げ前公爵閣下より朱塗りの槍を賜った無双の勇士だぞ?」


なにそのグリプス戦役と皆朱の槍のパチモン……。


「暴れないで下さい」


 ――と必死に誰かがキレる老人を諫めている。

 どんな世界のいつの時代にも老害クレーマーと言う奴は存在するらしい。


 キレる老害を横目に回復魔術で即座に脚を治し、まるで前世のかかりつけの内科医のように「お大事に、おーい次の人よんでよぉー」と声を上げると、肩を怒らせて老人が俺の前に出て来た。

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