第47話 虚構の推理
俺は部屋の中をぐるぐると回る。
「しかし二つの出来事を無理矢理一つの現象で説明するのは乱暴です。例えば壺のようなモノが爆発し中に入っていた呪いや瘴気が漏れ、モンスターの活性化に繋がったとは考えられませんか?」
『
「妄想だ!」
「貴方は想像力を働かせすぎなんです。想像力はよき下僕だが主人には不向きだ。もっともシンプルな理由が大体真実なんですよ」
「――なっ!」
「考慮に入れなくていい事柄など一つもありません。もし事実が推測と一致しないのなら、そのときは推理が間違っているということです。それに俺以外の方々はシンプルな理由を考慮していません。灰色の小さな脳細胞が活動させて考えてみてください」
「――あっ!」
予想外なことにミナが声を上げた。
「『
「その通り。だったら考慮するべきは、それ以上の存在かそれ以下の存在です」
「ドラゴンが出たとでも言いたいのか?」
冒険者の口調には焦りが感じられた。
『竜殺し』なんて程度の差はあれ勇者は大体出来ることだ。
できないのは『呪術師』のようなサポート型ぐらいのものだ
「例えば夜闇や煙の中でドラゴンを目撃したとして翼をたたんでいたり、角度によってはトカゲ型に見えるでしょう。姿が見えなかったのは翼で飛翔するタイプでなかったり、透明になれたり、色が黒っぽかったりなんていくらでも理由は考えられますが……」
「つまり『単一の存在が爆発と呪いの犯人』と考えるのは根拠が足らないと言いたいのね?」
「その通りです。もしそうだったとしてもそれは最悪のケースです」
爆発が原因でサラマンダーが目覚めたかもしれない。
しかし『
もしかしたらあの場にドラゴンが存在したかもしれないし、恐怖による見間違いかもしれない。
呪いは騎士や冒険者の言うように亜竜やドラゴンのせいかもしれない。
なぜなら強力なモンスターであるハズのフェンリルが近くの森に居たからだ。
過程の仮定は箱の中の猫の生死のようにあやふやだ。
「だったらより一層森の調査をしなければいけないようね」
そう言ってオットー姉さん向けた視線の先には酷い怪我人が居た。
肘の先から欠損している。
腕が残っているのなら高位のポーションで繋げることが出来る。
しかし呪いが毒と判断されたのか、乱戦等で腕の損壊激しく消失したのかはわからないが、俺の魔術なら問題なく治せる範囲内だ。
四肢を生やす専用のポーションがあったと思うのだが、高価なためか使われていない。
「その方がいい。俺は……冒険者は引退かな?」
「義手や義足の冒険者もいると訊くけど?」
戦闘を生業とせずオマケに魔術を主体とするオットー姉さんにとっては、不便になるが戦えない程ではないと言う認識のようだ。
「それほど高度な義手や義足は高価だ。おまけに精密な動作が出来るモノほど壊れやすいらしい。戦闘に耐えるレベルとなれば簡易な構造か魔道具でもないと怖い」
フック船長のような簡素な義肢は、古代から存在している。
例えば、最古の記録は古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』(紀元前1500~1000年)に見られる。
確認されている義肢には、エジプトのテーベから出土した足の親指型の義肢(紀元前950年~710年)や、イタリアのカプアから出土した『カプアの脚』(紀元前300年頃)があり、どちらも非常に高価なものだと推定される。
「歴史的にも高価なものですから、完全に元通りの生活は難しいでしょう」
「……」
「そう言うこった。俺は引退して冒険者や商人相手に武術の指南でもしようかね」
「それが良いと思うわ……」
何時の時代もセカンドキャリアは難しい。
特に武芸以外なんの取り柄もない冒険者は。
先日のサラマンダー騒動で学んだのかグレテル先生が綺麗ごとを言ってくることはない。
しかしその表情は助けて欲しいと言っている。
コッロス公爵家のために魔術を使うと思うと腹が立つ。
だけどこの街の人のためにと思えば不思議と腹は立たなかった。
バレてもいいか……不思議とそう思えた。
もし彼が冒険者でもなければ、見て見ぬ振りをして立ち去ったことだろう。
見て見ぬ振りをして立ち去れば数日心がざわつく、それは言葉を交わしたからに他ならない。
それは俺の我儘だ。
「彼の怪我を治療してもいいでしょうか?」
随行している神官に一応許可を得ることにした。
「構いませんよ。先ほどのように【ヒール】を使われますか?」
確かに俺の場合【ヒール】で腕を再生できるが、本来はもっと上級の回復魔術が必要になる。
「いえ、四肢を再生させます」
「し、四肢を! そんな高位の回復魔術を使えるのはこのベネチアンでも片手の指の数程度しかいません。失礼ですが魔力ゼロと言われたあなたに、そんな大魔術を行使できる魔力があるとは思えません」
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