第四章 39~50

第39話 森の調査


「報告ありがとうございます。夫人へ報告に行ってもらってもいいでしょうか」


 その日の夜。

 俺はグレテル先生から冒険者ギルドと冒険者の反応を聞き取っていた。

 報告は終了しやはり一度森を調査するべきだと結論付けた俺は、離を出て森に入るためグレテル先生を遠ざけることにした。


「それは別に構わないけど……」


「ありがとうございます。ではこちらも持って行ってください」


 そう言って差し出したのは、今日みんなで作ったポーションだった。


「ポーションですか? しかし瓶の模様に見覚えがないですね」


「アキンドーと言う商人から仕入れたので詳しいでどころまでは判りません。アキンドー曰くその容器を使うだけで、『従来のモノよりも保存性に優れる』とのことです。容器は使いまわせるので緊急時のポーション使用が緩和できますね」


「そのようなものを預けて下さるのですか?」


「プレゼンには資料や見本が必要でしょう?」


「確かにそうですが……」


「アキンドー一体何者なんでしょう?」


「さぁ……」


 実際はアキンドーなんて商人はいない。

 前世からモノを売る時に使っている偽名の一つで便利に使っている存在だ。

 過去の嘘を知っている人間からすればどんな超人だよ! ってぐらいに設定が盛られており、北海貿易に始まり、東の砂国との貿易、大陸間貿易など物理的に不可能なほどに盛っている。


「ではキチマー夫人に報告に行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 ドアが閉まるのを確認すると風魔術で遮音する。


「よし、行くかスラちゃん!!」


 スラちゃんをダイバースーツのように使用した河を泳ぐ、目指す先は戦闘服なのだが今はスラちゃんに修練を積ませる時間だ。

 河を使って街の外に出るとひたすら走り続ける。

 前に爆発させた地点にいち早く向かうために【身体強化】を常時使用し続ける。


 サラマンダーにやられたとのことだが俺は別のモンスターだと思っている。

 だから今回の調査では、危険な魔物を狩って失敗に終わったとしても、両方やる事でリスクを分散する事が出来る。現実世界の投資と一緒だ。まぁ俺の場合バイト先の受け売りだがな……

 

 太陽の光が殆ど差し込まない程暗く深い森がそこにはあった。

 ドイツ南部には中二病患者御用達の黒い森シュヴァルツヴァルトと呼ばれる針葉樹の森がある。

 古代から中世ヨーロッパ時代の原生林を修道士や領主が開墾した結果今のヨーロッパが存在する。


 そしてこの世界の森もそれは変わらないようだ。

 俺は落ち葉だらけの森に入って行く……カサカサとまだ硬く乾いた落ち葉が足を動かすたびに鳴る音が聞こえる。

 そんな事を考えながら森を彷徨い調査を続ける。

 

 暫く森を彷徨さまよっているとある違和感を感じる。 

 リスなどの小動物は冬に向けドングリなどの木の実を探しているハズなのに姿が見えないのだ。

 何かがおかしい。

 生ぬるい不快な風が吹き抜ける。


 刹那!

 

 風音に紛れ草木をかき分ける音が微かに聞こえた。


足音は幾つだ? 


 流石に四足獣の足音を正確に聞き分けられるほど、森での戦闘経験訳はないが、その数は優に十を超えた事だけは直観的に理解出来た。


……不味いなこの場所だと刀を振るには狭すぎる。木々は密集しており少しでも開けた場所に移動しないと、横薙ぎに振るうことは困難だ。


 俺は周囲を見回しながら【アイテムボックス】から愛刀【朧月夜おぼろづきよ】を取り出すと、鞘から払い戦闘態勢を取る。


「【鑑定】」


 鑑定スキルを使って見逃す危険を軽減すると、頭を動かさずに目を動かすだけで周囲を見す。

 すると徘徊する十頭ほどの【突撃狼アサルトウルフ】を発見した。 

 【突撃狼アサルトウルフ】は、頭と尾を下げ臨戦態勢を取っている。

 いささか数が少ないな……


 通常狼の群れは4~8頭程度でこれは平均的な出産頭数と同程度だ。

 しかし記録に残る群れの最大頭数は、米国イエローストーン国立公園の37頭と他の記録を圧倒し、他の地域の最大頭数の二倍を誇る。


 豊かな森とは言えどこの【突撃狼アサルトウルフ】の群れの数は、10頭前後と推察できる。

 しかしこの群れのリーダーがシートン動物記に記される【狼王ロボ】のような悪魔的な知性を秘めていると考えれば、後詰めに他数頭いると考えることができる。


 【突撃狼アサルトウルフ】は俺の出方を伺っているのかすぐには手を出してこない。

 正確に言えばリーダーの号令を待っているのだろう……


「来いよ犬っころッ!」


 【突撃狼アサルトウルフ】は賢いモンスターとされている。しかもこれだけ狡猾な群れの長が人語を理解できないと考えるのは楽観的だ。

 だから【突撃狼アサルトウルフ】を挑発し刀を八相に構え威嚇すると、風魔術で不可視の弾丸を生成し目視できる限りの【突撃狼アサルトウルフ】に向けて【風弾丸エアバレット】を複数発動させる。


「【エアバレット・ストーム】」


 落ち葉を巻き上げ木枯しの様に吹き抜けた風の弾丸は、目線を反らす事無くゆっくりと動き回っている【突撃狼アサルトウルフ】十頭に命中する。


 刹那!


 仲間の死をも者ともせず。音もなく背後に忍び寄っていた突撃狼アサルトウルフが、落ち葉をかき分けて飛び掛かってきた。


 前に付き出した左足のすぐ後ろに右足を刺すように動かすと、後方から飛び掛かって来た三匹の突撃狼アサルトウルフの首から胴目掛けて、横薙ぎに刀を振り抜く――――


 右後方襲い掛かる突撃狼アサルトウルフは頭蓋骨を粉砕され即死。

 時間差で襲い掛かる突撃狼アサルトウルフには、土魔術による一撃によって頭蓋骨を陥没させ、最後の一体の鋭い爪と牙による攻撃を防ひぐと刀で斬り返す。


 しかし傷は浅く切先の部分で薄皮を断っただけだ。

 一際大きい突撃狼アサルトウルフは後方へ飛ぶ退くと、姿勢を低くしたままグルグルと唸り声を上げ警告する。

 ものの攻撃の姿勢を崩すことは無い。


 やはり知能が高い。

 少しは歯ごたえのある個体のようだ。


 朧月夜おぼろづきよを下段に構え、切っ先で地面をコンコンと小突く……。

 するとドゴッと言う音を立て落ち葉を巻き上げながら、土の杭が現れ生き延びた突撃狼アサルトウルフの腹を串刺しにしてぶら下げている。


 しっかりと注意が出来ていたので危なげは無かったが、前世の俺ならもっと上手くやれた。

 やはり魔力の最大値が低いことが影響しているのだろう……もっと訓練を積まなければ……


「人間相手に剣術を磨いていると、こういう獣型や蛇型と言った人外の動きには対処が少し難しいな……平穏無事なセカンドライフを送るためにいいことを思い出させてくれた」


 俺は【アイテムボックス】に例えば突撃狼アサルトウルフの死体を仕舞う。

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