第15話 晩餐会
数時間後。
現公爵――つまり生物学的な父親に呼び出されていた。
「失礼します。ナオスです。閣下お呼びでしょうか?」
「入れ」
直系とは言え名を剥奪された庶子の俺は、『父上』と呼ぶことすら公式には許されない。
書類上親子関係が否定されているからだ。
それを覆すには否定した張本人か、法によって覆すしかない。
まあ覆したいとはミジンコ程も考えていないのだが……。
それは向こうも同じなのか返って来たのは淡泊な許可の言葉だけ、なんとも味気の無い会話だ。
中身が転生者でもなければ相当精神的なダメージを追っていることだろう。
幸い俺は前世の父母のこともあり、今世の父親のことを精子提供者程度にしか考えていないのでノーダメージだ。
「失礼します」
食堂は広く豪華だ。
そんな食堂にはナオス以外の家族が勢揃いしており、開いたドア――つまり俺に視線が集まっている。
今日この日のためにわざとぼろい服を着て来たかいがあるってもんだ。
「先ずは席に座りなさい。なぜ父である俺を出迎えなかった?」
予想通りの質問が来た。
既に答えるセリフは用意していた。
オマケに公爵閣下からパスが飛んできている。
コレを活かさない手はない。
給仕に促され末席に座ると、エプロンをかけてくれる。
勇者だった前世に嫌と言うほど実践したテーブルマナーの時間のようだ。
実家が金持ちのクラスメイトの入れ知恵で、この世界のディナーはフランス風になっている。
先ず出されたのは「突き出し」とも訳されるアミューズだった。
母子はアミューズと食前酒をネタに、おのおの会話を弾ませており中の良い夫人や兄弟も談笑している。
「具合が悪かったので長旅で疲れているお父様に――」
「――魔力なしの庶子風情がお父様と呼ぶな!」
兄ブウの言葉に一気に場が白ける。
かくいうブウは言ってやったぜ感満載のドヤ顔をしている。
――がブウの母は顔を青くしている。
はい。馬鹿が一匹釣れた。
「説明を続けていいでしょうか? 否定されたハズの親子関係をこの場で認めたのは公爵閣下です。私は閣下の望まれる意図した振る舞いを心掛けているつもりですが……ブウ様は水を差して何をなさりたいのですか?」
「そ、それは……」
言い淀むブウを無視して説明を続ける。
「説明を続けます。閣下に風邪を移すしてしまっては、合わせる顔がありません。また私は貴族としてのマナーに精通しておりませんので、もしお父様が客人を連れていた場合失礼に当たる可能性がある。以前閣下に離れから基本的に出ないようにと命じられていますなので――」
「――もういい、よく判った。ナオスが家族のことを良く考えていることが伝わった。しかし次回からは妻達の言うことを良く訊くように」
公爵閣下が言葉を被せ、俺の言葉を遮る。
さも「家族愛に目覚めました」って感じで気持ちが悪い。
大方、都で当てられて来たんだろうがいつまで家族タイムが持つやら……それまでにごねれるだけごねておくか。
「かしこまりました」
ここは素直に返事をするしかない。
しかし、既に布石は打ってある。
「それと……そのみすぼらしい服はなんだ?」
「これですか? 以前中年のメイドに服に穴が空いたり丈が合わなくなったと言ったら、繕えばいいと言われまして一度も教えて貰わず自分でやったのですが……下手でお恥ずかしい限りです。以前、離れの近くをムノーと御母堂が通りかかった際に見かねたようで『衣食住には苦労させない』と言って頂いたのですが……足りないのです」
「――っ!」
ムノーマッマは文句を言おうとするのを必死に我慢しているようで、ムノーに止められている。
ムノーマッマは良くやっている。
自分とムノーの歳費から俺の代金を捻出しているようで、実際はじめの頃だけはメシも服も改善された。
しかし――
「夫人に悪意はないのでしょう。、つまり全てメイドが悪いのです。閣下が私を離れに追いやった時と同じく、今や騎士やメイドは私を馬鹿にし、硬い黒パンとスープが二食出て来るのみで、服も丈も合わず衣替えも出来ません」
嘘です。
ベネチアンの街で足りない服は買ってるから問題ないです。
しかし、養う義務がある相手に対して請求しないのはもったいない気がする。
幸い。相手も家族ごっこがしたいみたいだしお互いウィンウィンの関係と言えるだろう。
ついでに俺を馬鹿にしてきたメイドと騎士に八つ当たりも出来るから丁度いい。
「確かに離れに移るよう命令した。だが俺は食事や衣類については特に命令をしていない……」
「であれば、名を剥奪された私に心を砕いてくれた夫人を労ってあげてください」
「そ、そうだな。お前には迷惑をかけたムノーも魔力が無い兄を気に掛けたのだな……」
「いえ、お父様ナオスお兄様は魔力がありますよ?」
ムノーの一言は食卓を凍り付かせた。
――――
09月06日
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