第二章 14~26

第14話 ランクアップと毒親襲来  2024/1010 後の展開のための描写を加筆修正

 行商人からは謝礼を貰いその足で冒険者ギルドに向かう。


「おめでとうございます。ナオスくんは一階級上がってG級冒険者になりました。これでギルド長によって自主規制されていた都市外での討伐依頼を受ける事が出来ますよ」


「ありがとうございます」


「ですが最近はモンスターの目撃情報が多いので、城壁そとには極力行かないでほしいというのが私たちの思いです」


 ベネチアンの街の孤児やスラムの子供は合法、非合法問わず金を稼ぐ手段を求めている。

 そのなかの何割かが冒険者ギルドの門を叩く、物流の要であるここは仕事の幅が大きく、常に人手を募集している新人研修なんてものもあるぐらいだ。


 今日はおやつに肉串でも買おうと屋台のある方へ足を延ばした。

 周囲は盛況と言って差し支えなく商人、冒険者区別なく屋台で食事を買って食んでいる。


「ホットドッグ一つとポテトをくれ」


「丁度だな……はいよ。熱いから気を付けろよ」


 相変わらず昼食は用意されていないので、外食で済ます。

 まあ稼いでいるから良いんだけどね。

 魔王を倒した頃、この世界にはホットドッグもフライドポテトも無かった。


 おそらくは勇者の中の誰かが広めた料理なのだろう。

 しかし、俺とそいつは食の好みが合いそうにない。

 なぜならこのポテトは櫛切りで、外カリ中ホク系。

 俺が好きなのは細切りタイプのカリカリ系だからだ。


 そう言うとお菓子で良くね? と言われがちだがその僅かな差が判らない奴は人生損してると思っている。


「ソーセージに混ぜてあるハーブいい味してるなぁ」


 屋台の繁盛具合を見るにこのままだと食文化の破壊を産みそうで怖い。

 産業革命後のイギリスや、屋台で食事を取る東南アジアのように、元々家で食べていた食事を外で食べると言う風に変化させるのは何と言うか忍びない。


「案外ポテトも悪くない」


 日本でも天ぷらなどの揚げ物は元は屋台料理だと言われればそれまでだけど、文化が破壊される前後を知っていると無常観にさいなまれる。

 多分これがおっさん。いや、老害になるってことなんだろうな。


「まあ懐かしい味を食べられたしいいか……ああ味噌汁飲みてぇ」 


 口内の油分をスッキリさせるため、炭酸水で喉を潤していると……


「ご領主さまが戻られるそうだ」


「ほう。と言うことは商人が付いて来るな」


「最近は陸路の商人が少なくなっていたから少しでも増えてくれるといいのだが……」


 貴族の行列の背後を商人が付いて来ると言うのは珍しい事ではない。

 騎士や兵士で武装した背後を通るのだ。

 通常の護衛を雇うよりも安く移動が出来る。


「今日の家は荒れそうだ……」







 持ち帰りで購入したお菓子を齧りながらスラちゃんを枕にダラダラとくつろぐ。

 スラちゃんは適度に柔らかく、触り御心地や形、大きさを変化出来るため最高に人をダメにするクッションになりえる。

 スラちゃんのエサ代が掛からないのが最高だ。

 

 騎獣か車に乗る期会があればクッションにしよう。

 勇者時代にはクッションなんて存在しなくて、手芸部の女子に作り方教えて貰ってクッション手作りしたからなぁ。

 最初のころなんか中身が藁で布の隙間から飛び出して来てチクチクしたものだ。


 辛く大変な勇者時代だったけど、思い返せば青春真っ盛りだった。

 日本に帰りたくて疎かにしてたけど、刀と言い料理と言い確かにこの世界と俺の心には残ってるんだな。


 感傷に浸っていると屋敷のドアをノックする音が聞こえるが、あえて無視する。


どんどんどん、どんどんどん。


 暫くすると痺れを切らしたのか屋敷に上がり込んで寝室のドアを叩く。

 頭まで布団を被って「寝ています」と表現し、さらに寝息を立てるフリまでして「話しかけるな」とアピールする。

 犬猫も関わって欲しくない時にする仕草だ。


「ナオスさま失礼します」


 そう言って痺れを切らしたメイドが入室する。


「本日旦那さまがお帰りになられます。皆さまと一緒にお出迎えに出ろと御台さまが仰せで御座います」


 面倒だと判断して狸寝入りを続ける。

 この場合の面倒は出迎えるのが面倒なのではなく、出迎えることで起きる面倒だ。

 婦人やその子供達には馬鹿にされ嫌味を言われ、挙句の果てには生物学的な父親である公爵にも、嫌味を言われることが目に見えている。


 「どうせ平民の子供にも機会を与える」とか思って言って、自分の子供が平民の兄弟をボコってその差を明確にするショーを正妻達が行いたいだけなんだから。

 出来ればと言うか、出来るなら何かしらの理由で欠席したい。


「体調が悪いので欠席させて頂くと伝えてくれ」


「なりません」


「最近栄養状態が改善したが、それまではどこかの誰かのせいで粗末な食事を食べていたからな」


 チクリと嫌味を言う。


「……」


「それに俺は貴族としてのマナーに精通していない。もし閣下が客人を連れていた場合失礼に当たる可能性がある。それに俺は閣下に離れにいるように命じられているそれを、御台さまが覆してよいのか?」


 基本的に立場のある人間はどこに行くにも先触れを出す。

 なぜなら気を使われる立場としての配慮だからだ。

 言葉を取り繕わなければ、問題児が来るから対応宜しくと言う訳だ。


「……」


「閣下がどうしてもと言えば従おう、しかし俺は従者でも下男でもないのだから御台さまの命に従う道理はないと思うが……」


「……判りましたそのようにお伝えします」


 その瞳は「私は忠告しましたから」と雄弁に語っていた。




【報告】本日は予約ミスがあったので18時にも急遽投稿します。

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