第6話 勇者の魔術は万能です


 この屋敷にやってきて結構長い月日が経過した。

 屋敷に来てからトレーニングをした御かげで大分筋肉が付いてきた。オマケにまだ若いため身長も伸びたため服がきつく成ってきた。


「服をくれ」と世話係の中年メイドに言うと……どこで兄達のお古を渡された。

 取り敢えず着れればいいと思っていたので、それを着てトレーニングをすれば、兄や弟に虐められ服がボロボロになった。


 しかし、「新しい服をくれ」と言ってもメイドは、「既に支給しているハズですが?」と言われてしまった。

「でも」と食い下がるも答えは変わらず「必要最低限の服は用意しているハズですが? ナオスは繕うことも出来ないのですか?」と嫌味を言われてしまう。


 勇者時代「ファッション革命よ!」と女子達に動員され、馬車馬の如く裁縫をしたことがあったので裁縫自体は出来る。と言うかむしろ得意だ。

 しかし道具が無ければ繕うことも出来ない。


「繕うにしても針や糸、布が無いんだが? お前は道具も知識も経験もないのに、問題を解決できるのか?」


「――っ!」


 中年メイドは目付きを鋭く尖らせ、こめかみをピクピクと痙攣させている。

 そうやら図星をつかれ怒っているようだ。

 ここから追撃をかける。


「仮にもメイドなら俺を虐める兄弟姉妹に忠言ぐらいしろよ。見っともないってな? まあ一番忠言するべき見っともないのは、平民を孕ませて才能が無いから捨てようとするコッロス公爵さまの下半身だけどな」


 メイドは怒気を孕んだドスの効いた声音で、俺の発言を静止させようとする。


「いい加減に……」


 それで止まるほど俺は人間出来ていない。

 目には目を歯には歯を悪意には、何倍かの悪意で返すのが俺のポリシーだ。

 昔から喧嘩っ早かった俺が召喚前の高校生時代。喧嘩を起こさなかったのは一重に事後が面倒だからだ。


 だからムカっ腹が立った相手とは基本レスバ程度で治めていた。

 しかし後先考えなくていい今の状態の俺は我慢する必要がない。


「いい加減になんだって? よし、お前は具も知識も経験もないのに、問題を解決できる見たいだから今から陥る問題を解決するんだな」


 そう言って俺は身体強化の魔術を発動させると中年メイドをブン投げた。

 放物線を描いて飛翔する中年メイドの落下予想地点は、現在畑にしている元花壇だ。

 配給される飯だけだと量が足りず食事に交じっていた種などを育てている。


「たまやー」


 伝統ある台詞を言い終わったとほぼ同時に、中年メイドは畑に頭から落ちた。

 ガニ股に足を開いて数秒後崩れ落ちる見事なコメディだ。


「あはははは!」


 俺は久しぶりに涙を流す程に爆笑した。

 お腹が捩れて痛いと言うのを今世では初めて感じた。

 数秒遅れて中年メイドは畑の土から顔を引き抜きこう言った。


「何をするんですか!」


 長年この仕事をしているだけあって、怒っている真っ最中でも言葉が崩れることはない。


「先ほどの言葉通りだ。ミスは『服を繕う』なんて俺が知りえない知識で解決策を提示し、俺が『道具がない』と言えば黙るだけだから、ミスであれば俺には考え付かないような人生経験から来る解決策を提示してくれると期待していたのだが……どうやら期待外れだったようだ。ミスの自己申告を過信して期待しすぎたようだ。その点だけ謝罪しよう」


 食事が痛んでいる時でも中年メイドにあたるのは筋違いだと判っていたから、食事係に気を付けてくれと伝言を頼んだりしていたと言うのに、結果がこれならば俺が加減する必要性はもうない。


 徹底的に煽る。


「……」


「今のは知識も経験も薄い俺が思いつく限り、ミスが経験したことが無いものだ経験があった上か、思いつく最良の策があれなんだろう?」


「このことは奥様にご相談させていただきます」


「告げ口とかちっさ、おとうさまは認めそうにないから正妻に言うんだ(ボソ) ヒステリックに怒ると血管切れちゃうよ? お・ば・さ・ん? もしかして更年期障害かな? 適度な運動とバランス良い食事をして質の良い睡眠を取るといいと訊いた事がある」


 小中学生時代。イラっとしたら暴力をやめ煽って煽って、相手に手を出させてから正当防衛を名目にボコす手法を取って居た時代の名残が出た。


「失礼します」


 そう言って背を向けたメイドを俺は呼び止めた


「待てよ」


「まだ何か?」


「俺も謝ったんだお前も謝罪ぐらいするべきだろ?」


「……」


「母が平民とは言え現在は貴族籍に身を置く俺に、あの仕打ち許させることだと思っているのか?」


「申し訳ございませんでした」


 そう言って頭を下げる。


「では……」


 再びこの場を後にしようとするメイドの背中に向けてこう言った。


「貴族や騎士の娘である高位メイドとは言え、使用人が主人の息子に対する謝罪にしては頭が高いと思わないか?」


「……」


「勇者様の祖国では最上級の謝罪は、跪いて後に地べたに額を擦り付けるそうだ……」


「くっ……この私にひざまずいて地面に頭を摺り付けろと言うのですか半血風情が?」


「別に謝罪する積りが無いなら覚えておくといい。俺がこの家から追放された瞬間、俺はお前に手を出さないでいる理由は無くなるんだぞ?」


「許して頂かなくて結構です。後でから部下に食事と裁縫道具を持ってこさせます必要なモノがあればそのものに伝えて下さい。そでは失礼します」


「……」


 裁縫道具が届くまでの間。魔術で何とか出来ないか考えてみたが名案は思いつかなかった。


「前世で読んでたラノベなら魔法は無限の可能性を持ってるんだがな……」


 前世でも色々試した奴が居たが魔術は基本的に幅が無く、「今のはメ〇ゾーマではない、メ〇だ」は基本的に成立しない。

 魔術とは杓子定規で変化を付けることに向いていないと判明した。


 しかし、今俺が使っている魔術は魂に直接術を刻むことなく全てマニュアル操作で行っている。

 オマケに神話や物語で強くなる定番の死からの復活を、女神の助けアリとはいえ行っているのだ。


 魔力の確信ぐらい掴んでんでいても不思議はない。

 回復魔術は生物の怪我を治すもので、非生物を修復するモノでは本来ない。

 なので即死魔術になったり、時間を巻き戻すような効果は本来ない。


 だが女神の力で復活を果たした俺にはなんだかそれが出来る気がした。

 手始めに雑巾にしようか悩むほどボロボロになった服に、回復魔術をかけた。


「ヒール」


 すると――まるで元々そうだったようににボロボロの洋服が再生していく。

 まるで新品のように綺麗に直った服を見て俺は心の底から驚いた。


「直っている……直ると言うよりは再生のような……」


 魂に刻んだ術式を使わなかったからこうなったのか? はたまた女神の加護や神通力によるものか? 原因は判らないがこれはもう魔術を超えた先にある……前世の世界で言う『魔法』だ。


 増やした魔力を持ってしてもかなりの疲労感を感じる。

 燃費が悪いのか、慣れていないだけなのかは判らない。

 しかしこれだけは判る。


「この特殊な回復魔術は金になる」


 どの程度まで直せるのかは判らないが、例えばこの世界の剣や鎧は高級品だ。前世で例えるのならば最新鋭の特殊部隊装備一式に相当する。

 他にも鏡や硝子ガラス絨毯じゅうたん、陶磁器と言った工芸は場合によっては城と等価になる商品だ。


 上手くすれば成人まで我慢してこの家で暮らす必要はなくなる。

 衣食住が保証された状態でこの転売? で稼げば食うに困ることはない。

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