あなたの価値

堕なの。

あなたの価値

「君の価値って何?」

 目の前の面接官が問う。頭が真っ白になる。自分の価値なんて、この世界の歯車の一つでしかないという事柄しかない。

「価値がないと生きてはいけないのですか?」

 面接官に口答え。ああ、落ちるなこれは、と思いながら残りの面接時間を過ごした。


 夜の光は責め立てるように輝く。車道を走る車のライトも真っすぐで、この世界で私だけが真っ直ぐに立てない愚か者だと叱責されている気分になる。

「何だよ価値って」

 スーパーからの帰り道、ふと口にこぼす。価値がなければ生きてはいけないのなら、私はとっくに義務教育が終わった時点で廃棄処分されている。価値がなくても何となくで生きていける世界だから、私みたいな碌でもないのが蔓延っているというのに。

「あー、酒だ酒」

 結局はそれに逃げ込んで、酩酊の中に意識を落とす。だってそうだろう。現実なんて直視したって何になる。

 家に帰って、テレビを点ければ美人なアナウンサーがニュースを読んでいた。サッカーの日本代表が勝利したというニュースだった。

「テレビくらい私を労れよ。なんで追い打ちをかけてくんだ」

 お前が悪いと言わんばかりの明るいニュースに気が滅入る。ビールのプルタブを開けて、適当にスマホを開けば、ビール缶の蓋の正式名称がプルタブではないことを示していた。今日は厄日かと思いたくなるほどに、世界が私を馬鹿にする。

「イージーオープンエンドって何だよ。日本国民の何パーが知ってんだよそのゴミ情報」

 イライラが最高潮だった。とりあえずスマホの電源も落とした。窓から空を見れば星が瞬いて落ちてくる。

「お、流れ星じゃん。やりー」

 カバンの中からタバコを取り出して、ライターで火を付ける。壁に貼られた禁煙の紙は剥がす。

「やってられっかよ」

 流れ星の消えた空を眺めてみる。特段願いたいこともないが、流れ星を探していた。綺麗ではある。だが、わざわざ探すほどのものかと聞かれたらそうではない。ただ気分で、何となく探したくなった。この世に起きる事象は案外そういうことの方が多いんでないかと思う。理由もなく人は生き、理由もなく人は働き、理由もなく人は性交をする。

「生きる価値なんざクソ食らえだ」

 生きる覚悟も死ぬ勇気も、身につけるつもりはなく今日も生きる。明日もその先も、価値なんて知らずに誰も彼もが生きていく。

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あなたの価値 堕なの。 @danano

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