温度

海星

第一幕

第1話 えっ……まじで?

「私、こう見えて耳聞こえてないんです。それでもいいですか?一応、補聴器付けてるのである程度は拾えてるのですが聞こえにくい時も多いです。ダメならほか当たります。」



7月末のある日、夏休みにバイトをしたいという高校1年生の女の子が僕の営む雑貨店に面接に来た。


僕がレジに立っていると、細身の綺麗な明るい茶色の髪で毛先はピンクに染めて短いスカートを履いた女子高生が来た。


「すみません。面接でお時間頂いて来た『神宮ジングウ』です。店長さんいる?」

「え?」

「だから、店長さんいます?」

「バイト希望の子?」

「そう。」

「え?まじで?」

「うん。でも面接担当って店長さんだよね?」


僕は彼女の潔さというか、キャラが面白すぎて堪えきれず笑っていた。


「ごめん。意地悪してるわけじゃないけど、俺。店長。」

「そうなの?」

「どうする?面接やめる?」

「ううん。やる。」


「やる?」

一瞬僕が笑いながら睨むと、

「お願いします。」と答えた。


「おいで。」


僕は神宮を事務所へ入れた。


「そこ座って。」


事務所の椅子に座らせて面接を始めた。と言ってもほぼ雑談。


「今日、学校?」

「うん。」

「髪色は?」

「校則違反。でも授業は出てる。声の大きい先生だけだけど。」


僕はこの言葉が気になって聞いた。


「声?」

「うん。私、耳聞こえないからさ。」

「え?」

「うん。聞こえないの。だから補聴器両耳に付けてる。」

「養護学校とかってこと?」

「ううん。普通の高校。昼間行ってる。」


僕はそれを聞いて初対面にも関わらず、

神宮の髪どけて本当かどうかを片方ずつ確認した。


「可愛い。こんな補聴器今あるんだ。」

「うん。」


神宮はピンク色の可愛い補聴器をしていた。それと同時にピアスも小さいのがキラキラと付いていた。


「………」

僕は神宮の目を見たあと、手話であることを伝えた。


そして、表(売り場)にいる従業員を呼んだ。


「集合ー!」


一人ずつ事務所に来て、

パートの女性二人、男性社員一人の計三人来た。


「どしたの?」

「どうしたんですか?」

「なに?なんかあった?」


そして全員が全員、神宮を見て目を丸くしていた。


「この子、今日から一緒に働くから。よろしく。ただ、耳が聞こえづらいんだよね。補聴器は付けてるけど聞き取りづらい。だから、口の形しっかり見せてあげて。それでも分からなければメモで筆談。面倒かもしれないけど、俺はこの子を雇いたい。…というか、面倒見たい。多分天才だと思うから。」


僕が少し溜めた後に出した最後の言葉は神宮に背中を見せて音量を抑えて話した。すると、案の定、少し不安そうな顔をしていた。


だから、手話と声で


「お前が『天才』っぽそうだから雇いたいって言った。だから、黙って俺に着いてこい。文句があるならすぐ言え。一緒に考えるから。後、さっきも言ったけど、『聞こえない』は少しでもあったら必ず伝えろ。いいな?」


「わかった。」

「あと、みんな陰口だけは叩くな。こいつの髪とか、化粧とか。ダメなら染め直させる。どうする?」


「いいんじゃない?」

「うん。最近コンビニでもよく見かけるし。要するにちゃんと『してるか』『してないか』そこでしょ?判断基準って。」


長年居てくれているパートさん二人に救われた。


「だって。神宮、だから今日からここの仲間な。いつからこれる?」



「もし差し支えなければ今日からでもいいですか?宜しくお願いします。」



神宮は皆に深々と頭を下げた。


僕は吹き出して笑ってしまった。


「お前な!俺にタメ口どうにかしろ!まぁいいけどさ!…」



────────────その後、事務所で2人きりになったあと、僕は神宮の目を見て聞いた。


「お前、補聴器無しでどこまで聞こえんの?」と。


神宮ほんの少し髪と同じ色の眉を動かした。でも答えがない。だから少しだけ声を大きくしてもう一度聞いた。


すると、「全く聞こえない。」と答えた。


「そっか。もしかして今のも聞こえてなかった?」

すると、少し不安げな顔をして頷いた。


僕は、胸がぎゅっと締め付けられた。

直後、体が先に動いていた。


僕は…今日会ったばかりの神宮を抱き締めていた。


そして。か目の前で手話で伝えた。


「俺がお前の耳になる。気持ち悪いだろ?初対面の俺に言われて。でも、俺はそう思ってる。だから、着いてこい。いいな?」


「わかった。」


神宮は何故か素直にそう手話で答えた。


でも、彼女のすごいところは声で話しても違和感がない所。たまにそういう人がいると聞くが、彼女はそのタイプ。だから色々驚いたがそれも全て彼女だから。全部受け入れようと思った。




─────────この日から彼女は店の仲間になった。

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