無題(良かったらタイトル付けて下さい)

猫之丞

無題

……後5分で君を東京に連れて行く列車が駅に到着してしまう。


僕と彼女は駅のプラットホームで東京行きの列車が来るのを待っていた。


天気は快晴。 この街から旅立つには絶好の日和と言えるだろう。


すると彼女は僕の方に振り向き


「○○、どうしたの? 顔が少し険しいよ? らしくないじゃん。何時もみたいに笑ってよ」


と笑顔でそう僕に言ってきた。


「そ、そうかな? そんなに険しい顔をしてたかな? ……うん。そうだね。険しい顔なんて僕らしくないね。 ほらいつものスマイル~♪」


僕はそう言って笑顔を作り彼女に笑い掛けた。


「そう。その笑顔だよ。私は○○のその笑顔が一番大好きなんだから」


彼女はそう言うけれど、自然な笑顔なんて作れる筈が無い。 本当は彼女に東京なんて行って欲しくないんだから……。





僕と彼女は同じ施設で育った所謂幼馴染みという奴だ。 僕と彼女は四六時中一緒に過ごしていた。 彼女はとても可愛く、とても美人で、とても頭が良く、皆の憧れの存在だった。 だから彼女といつも一緒に過ごしていた僕は周りの男子から嫉妬されていた。


僕と彼女はこれからもずっと一緒に居ると信じていた。 しかし高校2年生のある日、彼女から


「……ねぇ○○。私ね……高校卒業したら東京に行こうと思ってるの。 昔から私言ってたじゃん。私、将来はアーティストに成りたいって」


確かに彼女はそんな事を言っていた。 彼女は歌も物凄く上手く、今デビューしているどんなアーティストよりも歌唱力がある。(僕がそう思っているだけかも知れないのだが)


「初めはね、只の夢だって諦めてた。でもね、○○私が歌を歌う度にいつも私の歌声誉めてくれたじゃん。 だからね私、夢を、アーティストになる夢を追いかけてみようと思うんだ。 ……ねぇ○○。私の夢……応援してくれる……?」


「……えっ?」


僕は彼女の言葉を聞いて少しの間呆然としてしまった。


……○○が居なくなる……。 僕の傍から居なくなってしまう……。 ずっと一緒だと思っていたのに……。 


僕は彼女が昔から好きだった。だから彼女の言葉を聞いてショックを受けてしまったんだ。


「○○? ねぇ○○ってば、どうしたの?」


彼女に僕の名前を呼び掛けられて ハッと我に返った。


「な、何でも無いよ!」


「そう? それなら良いんだけど。 だから○○、私の夢を叶えるのを応援してくれる?」


……僕は思わず " 嫌だ! ○○! 東京なんか行かずにずっと僕の傍に居てくれ! " と言いそうになった。 でも……


「う、うん。分かったよ。僕は○○の夢を全力で応援する! だから頑張って!」


僕はぐっと言葉を飲み込んで彼女に笑顔でそう告げた。


「あ、ありがとう○○。○○ならそう言ってくれると思ってた。 ……でね○○、あ、あのね……出来れば……」


「…………ん? 何?」


「……ううん。何でも無いよ。……私、頑張るから……」


そう言った彼女の表情は少しだけ悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「この事はまだ○○にしか言ってないからね」


どうやら彼女のこの決意は僕に一番初めに教えてくれたみたいだ。




それから彼女はアルバイトを始めた。 東京に行く為の資金稼ぎの為だ。 勿論僕も彼女と同じ所でアルバイトを始めた。 何故僕もアルバイトを? それは……彼女の夢を応援すると約束したんだ。せめて彼女が東京に行くまでは彼女の傍に居て支えてあげようと思ったからなんだ。


そして彼女は学校の放課後に音楽室を借りて自己流だけどボイストレーニングを始めた。 勿論僕も彼女のボイストレーニングに付き合った。



そして月日は流れ……高校の卒業式を迎えた。


僕は地元の大学に合格し、4月から大学生になる。 そして彼女は3月末に東京へと旅立つ。






そして今。


駅に東京行きの列車が入ってきた。


……もうすぐ彼女とはお別れだ。


……言ってしまいたい。 僕は○○の事が好きなんだ! 東京になんか行かずに僕の傍に居てくれ!……と。


でも……そんな僕の思いを今から旅立つ彼女の荷物には出来る筈が無い。


だから言わない……。 言える筈が無いんだ。



駅に到着した列車の扉が " プシュー " と音を立てて開く。


「…ほら、もう時間だよ」



僕は彼女にそう言って列車に乗る事を促す。


「……うん」


彼女はキャリーバッグを引っ張りながら列車の開いた入り口に乗り込んだ。


「……○○。私、必ず私の夢を叶えるから……必ず」


「……うん。○○なら絶対に大丈夫! 僕は○○を信じてる! ずっとずっと○○の事を応援してるから! だから……頑張れ!!」


僕が彼女にそう告げた後、彼女は僕に向かって何かを言おうとしていた。しかし無情にも列車の扉は閉まり、彼女の最後の言葉を聞く事は出来なかった。


そして彼女を乗せた列車は駅をゆっくりと出ていった。


僕は彼女を乗せた列車が見えなくなる迄その場で見送った。


完全に列車が見えなくなった後、僕はふと空を見上げた。


ああ……真っ青な空だ……。 あ……飛行機雲だ……。


……あの飛行機雲がこの青空に溶けたら…僕も前を向けるのだろうか……。


……彼女は……○○は必ず成功し夢を叶えるだろう。 それだけの実力が彼女にはある。 僕はそう信じてるし、そんな予感がした。 こういう時の僕の予感は大体当たるんだよ。


そしてもう彼女と僕は疎遠になる。 彼女と僕の時間は2度と交わる事は無いだろうな。


僕はそっと瞼を閉じて、涙を流した。


……彼女…○○に僕の涙を見られないで本当に良かった……。


……○○、僕は君の事をずっとずっと応援してるから……。 


頑張れ……。 僕は……君を…心から…愛して…いました……。


僕は自分の涙が枯れるまで上を向いたまま駅のプラットホームで立ち尽くしていた。








いかがでしたでしょうか。 思いつきで書いてみました超短編のお話でした。


もし良かったら、評価と共にこの作品のタイトルを付けて頂けたらとても嬉しく思います。


皆様宜しくお願いいたしますm(__)m


猫之丞でした。












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