第8話
「いじめっ子の問題は解決した」
父さんが朝食を食べながら言った。
「え? もうですか?」
ミルクは残念そうな顔をしていた。
「今日は事の顛末、いや、難しい言葉はいかんな、一部始終を発表したい、時間はあるか?」
「今日はダンジョンを休もう」
「時間はあります」
「私も見たいわ」
食事を終わらせると父さんがノートパソコンをプロジェクターにつないだ。
画面には要点の項目だけが映し出される。
「まず私は刑事事件として警察に相談しに行ったが証拠はあっても時間が経ちすぎている事や被害が微妙だとして刑事事件は無理だった。まあここまでは予想通りの結果だ」
父さんはまるでビジネスマンのような口調が混ざった言い方で話を始めた。
「次に民事として弁護士に相談した。弁護士が1人ずつ家を訪問して証拠を見せて回った。両親はあっさりと罪を認めてリーダー格の女性は親にその場で殴られた。お前のせいで金を失う事になると怒鳴ってもいたそうだ」
いじめをする生徒の親も良くない、そう思った。
「ミルク氏の家族にはあらかじめ引っ越しをして貰っていたのだが次に住んだ居住者宅に不審者が押し入った。不審者男性4人はその場で取り押さえられ証拠のカメラ映像もあった。警察に連行され取り調べの結果いじめ主犯格の彼氏とその仲間であったことが判明しそれも訴えた。これは今裁判中だが補足すると不審者はヤクザとつながりがあるとの事で警察もそこは動いている」
魔王の部下が住んでたんだろうな。
で、忍び込んだらカウンターを仕掛ける気満々だったわけか。
恐らくこういうトラップをいくつも仕込んで置いて1つが当たったんだろう。
父さんは俺の板案をエスカレートさせて実行している。
「更に動画配信者にも証拠をリークしてすぐに動画配信をしてくれた。長い動画になるがまとめだけを再生する」
『こんな事はよくいじめで片付けられるけどこれを社会でやったらどうなると思う? お巡りさんが来て捕まる犯罪だからな! 犯罪を犯して就職や大学進学が決まってたけど大学や就職先に取材を申し込んだら断られた、でもなあ、文書で一部コメントが帰って来た。内定取り消しだそうだ。内定取り消しの連絡があった会社や大学はいいけど何も無い所は晒してやるからな! だって犯罪者を働かせるって事だろ! もみ消すような体質なんだろ! そういう所はどうせほかで悪い事をしているんだろ! それとな、ああいう犯罪者は自分のやった事を棚に上げて俺の事を訴えてくるだろう! 犯罪を犯すような奴らは反省できず人のせいにする! それで一切反省せず訴えてくるんだろう! かかって来いよ! 裁判で決着をつけようか!』
配信者の持っていき方がうまい。
いじめではなく犯罪である点を強調していじめではなく犯罪者に持って行った。
その上で訴えたら向こうがクズになるようにまとめている。
これじゃあ訴えたくても訴えられず訴えられたら顔を晒されて更に炎上するだけだ。
この動画は消される可能性があるけどネットで住所を特定されてしばらくの間晒され続ける。
「伸の作戦通りいじめを行った者には社会的にダメージを与えて就職や大学への進学を潰しつつある。更にアクションを起こしたいじめメンバーの彼氏を逮捕した事で向こうは更に動きにくくなっている。更にそれでも襲われた場合に備えて冒険者として強くなってもらった。これでも何か不安があれば言って欲しい」
ミルクが口に手を当てて泣き出した。
母さんがミルクを抱きしめる。
「大丈夫よ。伸のそばにいれば伸はミルクちゃんを守ってくれるわ。2人で一緒に、これから始めていけばいいの」
母さんがどさくさに紛れてミルクを誘導しようとする。
だが今は怒る空気ではない。
ミルクが泣き止むとゆっくりと話しだした。
「私、バカみたい、全部伸城君の言った通りだったのに、警察に言えばいいだけだったのに怖くて、何も出来なくて、死にたいって思ってたのも全部バカみたい」
ミルクの気持ちは分かる。
もし俺に力が無ければ怖かっただろう。
俺は何をされても裏で相手を亡き者に出来る自信がある。
だからやられても何も怖くなかった。
でもミルクは長年いじめられ続けてきた。
怖いよな。
いじめっ子の家庭環境にも問題があったのかもしれない。
でもいじめをした事実は消えない。
問題があったから相手を不幸にした罪がチャラになるわけではない。
今後ミルクをいじめた奴らは苦しい人生になるだろう。
就職や進学に失敗しネットで顔を晒される。
両親が民事裁判のお金を払ってくれない場合マイナスで借金を背負い生きていく。
肩の力が抜けた。
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